魔道具師 パキラ
公爵領で魔道具屋を始めて、もう50年になる。
魔道具師になるには、魔道具が扱える能力を持つ人間が
師匠の元で10年修行して試験に合格しないとなれない。
10歳で腕の良い師匠に弟子入りし、そこで10年修行した。
試験にも合格し、その頃一番活気のあった公爵領に店を構える事が出来た。
依頼もそこそこあるため、生活に困ることはない。
魔道具師は、平民でも貴族でもない。
身分とは一線を引く事で、貴族にも対等で接する事が出来る。
また、貴族から頭を下げられる事もあるため、平民の扱いにすると
貴族の面子に関わるからだと、師匠からは聞いた。
私の師匠は、王都で店を構え、王様からの依頼も普通に受ける方だった。
私の姉弟子が、師匠の後継となり王都の店を継いだ。
腕は私よりも良いので、後を継ぐのに問題は無い。
ただ、少し面倒くさがりな所と、少し道徳的な所が欠けている。
一緒に師匠の元で修行している時の事だ。
「おい、パキラ、この猫の毛色を赤に変える魔道具を作れって師匠が言ってた。
私はもう出来た。お前出来るか?」
「あ、考えてみます。姉さんはどれくらいで出来たんですか?」
「あ?30分くらいか?」
「え!そんなに早く?すごい!どうやったんですか?
あ!それが修行の内容ですよね。すみません。」
「ん?あーお前には私と同じやり方は出来ないだろうから、教えてもいいぞ?」
「本当ですか?どうやったんです?」
「赤い猫の心臓を石にして首輪に付けたんだよ。お前出来ないだろ?
シシシ、要領悪いもんな」
「な!なんて事を・・・」
要領の問題じゃ無い!いくらなんでも猫の毛を赤くする為に一匹の猫を殺すなんて・・・
「姉さん!なぜそんな事をしたんですか?殺す必要は無かったのでは?」
「何言ってんだ。それが一番確実で早かったんだ。面倒くさいのは嫌なんだよ。」
ああ、この人は、こういう人なんだとそれ以上何も言えなくなった。
あの時、もっと怒っていたら変わっていただろうか。
いや、そんな事で変わるはずも無い。
これはきっと、どうしようも無かった。
今の公爵様はアツイ様だが、そのお父上のユーストレット様はとても利発な方だった。
私の店にもよく来て、魔道具の話で盛り上がり、帰りが遅くなって
城から迎えの者が来て怒られておいでだった。
サンガルと戦争になり、若いうちから陣頭に立って指揮をされて、
戦後の対応も大変だったろうに、顔には出さず一生懸命頑張っておいでだった。
その後、侯爵家から嫁を貰い、子供も授かったと言うのに
領地視察へ行ったまま、行方不明に。
マイカール王が、王都で産めるようにと、王都の公爵家へ迎えて準備万端だったというのに
出産後、公爵夫人はお亡くなりになった。
子供は安否不明のまま情報が全く入ってきていなかったが、
10年経ち、その子供が王都からこの公爵領レイグリットへやってきた。
見た事も聞いた事もない、マントを着ていた。
嫌な予感がした。
姉弟子が気に入った魔道具に入れる紋様が、そのマントに描かれていたからだ。
年に一度、魔道具師達の会合がある。
王都で開かれるので、姉弟子も気が向けば参加している。
あれは何年前だったろうか。
姉弟子が、珍しく上機嫌で話をしていた。
物への思考伝達は、人を使えば可能だと。
時間はかかるが、形状変化も自己防衛も思考伝達で全て解決すると。
アツイ様が私の店に初めて来た時、マントを触らせてもらった。
魔道具師は、その能力で魔道具の本質や材料等を鑑定できる。
そうでない事を祈った。
だが、その祈りも虚しく、人の魂が、ユーストレット様の想いが伝わってきた。
ああ、なんて事を。
なぜ、こんな事に。
触る度に、ユーストレット様の温かい想いが伝わってくる。
こちらからも、想いを返す。
アツイ様をお守りする為に、あなた様はご決断されたのですね。
どうか、どうか、その想いが成就されますように。
どうか、あなた様の想いが報われますように。
私、パキラはこの命が尽きるまで、お二方の為に魔道具を作りつづけましょう。




