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神殿 4

コンコン


「神殿長、ヴィランが参りました。急ぎお話しが。」


「入れ」


「はい。お忙しい所、申し訳ありません。

実は、最近噂になっていた 天使様 が

本日神殿にいらっしゃいました。」


「ん?その 天使様 は平民だと聞いたが?

伯爵家の君が、そのように改まった言い方をするとは。

本当に 天使様 でもあるまいに。」


「いいえ、神殿長、あの方は、天使どころではないかもしれません。

神を愛し、神に愛され、人々に愛を説く。

そのようなお方でいらっしゃいます。」


「何をいってる。そなた、まさか洗脳でもされたか?

または魅了系のスキルか?

厄介な!スキル遮断の魔道具を使わなかったのか!」


「いいえ、私は洗脳も魅了もされておりません。

そして今もスキル遮断の指輪をしております。

一度お会いすればわかるかと。」


怪しい。ヴィラン神官長は、私に次いで位が高い。

何か企んでいるのか?


「先ほど、面談をして、神殿に入っていただく事になりました。

今はご両親と別れの挨拶をしていただいております。

ついては、この後、神殿長にお目通りをしていただき、

今後の対応の指示を仰ぎたいと思います。

連れて来てよろしいでしょうか?」


何を企んでいようと、会わぬわけにもいくまい。


「承知した。連れてまいれ」


「はい。かしこまりました。」


ヴィラン神官長が部屋を出ていく。


何があったのか。

ヴィランは、公平な神官で名を知られてはいるが、

元は貴族なので、平民に対しては見下していると思っていた。

もし、そうでなかったとしても

あのように平民を持ち上げるような物言いをするとは。

信じられん。


もしもだ。もしもの話、その平民が我ら貴族より神に近いとしたら・・・

いや、そのような事は受け入れてはならん。

もし、そうだとしたら、

そうだ。そのようなスキルは、無かった事にすればいいのだ。

人々を惑わしたと言って、一番辛い仕事を割り振り、

神官達に毎日いびられれば、平民としての自覚も出よう。

我らとは違うのだと、とことん骨身に滲みさせれば、

己の身分の低さもわかろうという物。

クックック。


コンコン


「神殿長、ヴィランが参りました。入ります。

ささ、サムイ様、こちらへどうぞ。」


ヴィランと一緒に入ってきたのは、眼鏡を掛けた綺麗な顔の少年だった。


なんだ、何もスキルを感じないではないか。

ははあ、この顔がヴィランの好みという事か。

なるほどな。まあ、私も嫌いでは無い。

これはそうだな。クックック

どうにでもしてしまえるわ。


「まあ、かけたまえ。」


正面の椅子にかけるよう促す。

少年は座るが、ヴィランは、少年の後ろに立った。


「ヴィラン、なぜ座らない?」


「私はここで待機します。」


「まあ、そなたがいいなら。」


改めて少年の顔をマジマジ見ていると、何やら幸せな気分になってくる。


「なるほど、これが天使の噂のスキルか。まあまあだな。」


「いえ、神殿長、出来れば眼鏡を外した状態も見ていただきたい。

スキル遮断の魔道具は付けていらっしゃいますか?」


「ああ、付けているぞ。」


「では、サムイ様、眼鏡を外していただけますか?」


「はい」

サムイは眼鏡をスッと外して、神殿長を見た。


ガタガタ


神殿長が座っていた椅子から転げるように床へ這いつくばる。


「許して!許して下さい!

あなた様に対し、非道な行ないを考えていました。

申し訳ありません!ごめんなさい!許して下さい!

お願いしますー!!」


頭を床に擦り付け、ブルブル震えながら許しを乞う。


「神殿長・・、魔道具を付けてもここまでとは。

あなたは、一体、何を考えていたのですか。はああーー。」

ヴィランは、片手を顔に当て、上を向いた。


「しかし、どうしたものか。」

まだ這いつくばって震えている神殿長をそのままにして

ヴィランは考える。


先ほど痴態を晒したスカルは、サムイ様が眼鏡をした途端、

正気に戻っていた。

ふむ。

しかし、この状態から正気に戻ったとして、

神殿長はどう動く?

プライドが高いお方だ。

それに許しを乞うほどサムイ様に悪意を持っているという事。

神殿長とあろうものがだ。

うむ。


「サムイ様、申し訳ありません。

苦痛でしょうが、いましばらくそのままでお待ち願えますか?」


「え?このままで?」


「ああ、振り返らないで下さい。

今、人を呼びます。

その間、お顔を手で覆っていて貰えますか?」


「あ、はい。わかりました。」


ヴィランは神殿長の部屋を出て、近くにいた神官に声をかけた。

「おい、君、神殿騎士団長を急いで呼んできてくれ」


「はい!」

神官は走って去って行った。


ヴィランは、部屋の前のドアに凭れ掛かり、思案する。


さて、神殿長を神殿騎士団に連れて行ってもらうとして、

神殿長を更迭させるための根回しが必要か。

サムイ様がこの神殿で過ごしていただくには

もう少し風通しを良くしないと。

また、過ごす場所と、どうあのスキルを使って頂くか。


しばらく待っていると、

神官が神殿騎士団長と、騎士数人を連れてやってきた。


「神殿騎士団長、ご足労願い申し訳ありません。

実は、神殿長が、」


いやああああ


と中から悲鳴が聞こえてきた。


「しまった!サムイ様!」

「失礼つかまつる!」

団長が一瞬で、ドアを蹴破り中へ入る。


中では、神殿長がサムイ様を押し倒して、足を舐めていた。


「はあ、はあ、私は許されたのだ!

ああ、こんな私でもあなた様はお救いくださると。

どうかどうか、そのおみ足を、わたしめに恵んでいただきたい。

はあ、はあ、ああ、神よー!」


「神殿長!ご乱心あそばされたか! 直ちに神殿長を拘束せよ!」

「「 は! 」」

神殿長は、騎士達に拘束されたが、まだ、ジタバタしている。


「はあ、ひとまず、牢屋へ入れておこう。

あと、医者を呼んでやってくれ。」


団長は騎士達に指示を出すと、

倒れている少年を起こしている神官長に近寄る。


「ヴィラン殿、これは一体、」


「ヨルン団長、そこで止まって、後ろを向いてください!」


は?渋々後ろを向いた。

「きちんと説明を願う。」


「はい。サムイ様、眼鏡を掛けていただけますか?」

ヴィランは目を閉じたまま、サムイに話しかける。


「はい。神官様ごめんなさい。こんなことになるなんて。」


「いいえ、いいのですよ。では場所を変えて話をしましょうか。

ヨルン団長、もうこちらを向いても大丈夫ですよ。」


「一体、なんなんですか?」


「全て、隣の応接室で話をしましょうか。」


3人で隣の応接室に移動した。

神官に濡れた布と、お茶を用意するようにと指示も出す。


「はあー、サムイ様お疲れではありませんか?

このような事になってしまい、誠に申し訳ありませんでした。」


「あ、いいえ、こちらこそ。あまりに許して欲しいというものだから、

つい、許します、と言ってしまいました。

そしたらあのような感じなってしまって。

ごめんなさい。」


「いいえ、サムイ様が謝る事などありません。

あの男がいけないのですから。」


神殿長をあの男呼ばわりとは・・・

「話が一向に見えないのだが?詳しく説明して欲しい。」


コンコン


「入りなさい。話はお茶を飲みながらにしましょう。」


神官が持って来た濡れた布を受け取り、

神官長みずから、少年の足を布で拭う。

お茶は神官が人数分置いて、部屋から出て行った。


「それでは、お話ししましょう。」


サムイ様が神殿に来てから起こった事を、何も隠さず全て説明した。


「そのような事が!!にわかには信じられん。」


「では試してみてはどうですか?

あなたに悪意があるとは思いませんし、

我ら神官よりは、恐らく、サムイ様の護衛の方のように正気を保てるかも。」


「ああ、試したい。」


「スキル遮断の魔道具はお持ちですか?」


「ああ、大丈夫だ。」


ヴィランはサムイの後ろに立った。

「では、サムイ様、お願いします。」


「はい」

眼鏡をとる。


「ぐっ、ふっ、わかった!降参だ!眼鏡を!」


眼鏡を掛けた。


「さすが、神殿騎士団長!正気を保てるとは。」


「ああ、もうあれだけで、私はすでにこの方を心酔してしまったよ。

熱が集まってくるのも感じた。

あれは常人では耐えられぬ。神殿長みたいに暴走するだろう。

神よ!試練を頂きありがとうございます!」


「そこでです。神殿長を更迭したい。

あのような男を神殿長としてもう敬いたくはない。」


「ああ、それは同意だ。これは神殿の一新がはかれるかもしれぬな。

それはそうと、サムイ様をずっと護衛して来た男は、よく自制できたな。

神殿騎士団に入れてもいいと思うが?」


「私もそう思って勧誘したのだがね。断られたよ。

なんでもその先の未来の為に、とかなんとか言って。」


「ふむ。興味深いが、去ってしまったのなら仕方ない。」


「あ、あのうーその事で先にお話ししといたほうがいいかなってー」


サムイがそーっと手を挙げていた。

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