公爵家
アツイ様が屋敷に戻られてから、部屋に閉じこもって出てこない。
襲爵した日、辺りが急に暗くなって、公爵家で数人が倒れる事態となり、
嫌な予感はした。
アツイ様が、王城からひとり歩いて帰ってきたのを見て、
ある程度の予想はしたが、そのまま部屋から出てこないので
詳しい事がわからなかった。
ルーバ様はなぜ一緒じゃないのか。
なぜ、ひとり歩いて帰ってきたのか。
数日後、王城から使いが来て、事の次第を知った。
今、王城では死者の弔いの用意と、生存者の看病、治療で手一杯。
だが、王は、アツイ様を気にかけ、事の次第を公爵家と共有するようにと
使いの者を送ってくれたらしい。
王からの手紙もあった。
使いの者から、
ルーバ様の死。
近衛騎士達の死、他にも影響を受けて死んだ者。病にかかった者。
まだ、調査中だが、被害は、この王都全体に及んだと。
王が、こちらの配慮が足りなかった。
しかし、これほどの被害を齎らすものを放ってはおけない。
しばらく、公爵家で軟禁して置いて欲しいと。
また、追って今後の処遇が決まり次第、使者を送る。と。
それから2週間たった今でも、まだその処遇を通達に来る使者は来ていない。
処遇について揉めているのだろう。
なにせ10歳の公爵だ。
爵位も高いので、おいそれとは決めかねるのだろう。
それに悪意があるわけでもない。
どのような処遇であろうと、私はアツイ様に生涯使えると誓っている。
もし、処刑となれば、お寂しくならないように一緒に処されよう。
コンコン
「アツイ様、はいります。」
部屋から出ては来ないが、入るのを止められるわけではない。
アツイ様は普段家の中ではマントを脱いでいるのだが、
帰ってきてからずっと着たままだ。
「お昼をお持ちしました。美味しそうですよ。
さあ、食べましょう。」
アツイ様の世話は、近衛が交代で行うようになった。
誰も怖がって世話しようとしないからだ。
もそもそと暗がりからアツイ様が出てくる。
「グレイ。いつも済まない。だが食欲がないんだ。」
「アツイ様、食べないと寝たきりになりますよ?
誰がお世話をすると思ってるんですか。
さあ、頑張って食べましょう。
私が食べさせてあげます。」
と、アツイ様をマント毎抱っこする。
スープを掬って口へ持っていった。
「さあ、飲んで下さい。」
ゴクン。
「良かった、飲めましたね。さあどんどん食べさせますよー」
トレイの上の昼食を少しずつ食べさせていく。
自らは食べようとしないが、口まで持って行けば食べてくれる。
赤ん坊みたいだが、今はそれでもいい。
少しずつでも以前のような元気を取り戻して欲しい。
「なあ、グレイ。俺は生きていていいのか?」
「何を!何をおっしゃるのですか!
生きていてもらわねば!
アツイ様の成長を楽しみにしているのです!私は!」
「グレイはそうだとしても、この世界では俺はいらないんじゃないか?
このモヤが人にあんな風に影響するなんて知らなかったんだ。
話は聞いててもどっか他人事で、自分の事だと認識してなかった。
あんな・・・俺のせいでルーバが。グッ」
「アツイ様。あれは事故です。
それに・・・王からの手紙に書いてあったのですが、
このマントは、王からの贈り物ではなく、
誰かわからぬ者が、王からだと偽って渡された物で
調べたが、魔道具屋も契約で相手がわからないようしてあったと。
恐らく巧妙に隠された陰謀ではないかと。」
「そんな・・・」
「ですので、王もあれはアツイ様のせいではないと。
ただ・・・」
「グレイ、言って」
「元になったスキルはアツイ様のものなので、
このまま放置することも出来ないと。」
「今は処遇待ちの状態です。
どのような処罰を受けても、私がずっとお側におります。」
「うん、ありがとう。心強いよ。
ちょっと疲れたから、休むよ。グレイも休んで。」
「わかりました。では、また来ます。」
パタン
ああ、どうか神よ、アツイ様をお救い下さい!
その2週間後
王城より使者が来た。
アツイ様本人に伝えねばならないとかで
アツイ様の部屋へ、案内した。
立ち会いが必要なので私が同席した。
「コホン、では、まず処遇について
アツイ様に非は無し。
しかし、災厄を生んだ事は事実。
よって、公爵領にて、蟄居を言い渡す。
期間は16歳になるまで。
です。
王からの事付けがあります。
今の状況は聞いておる。
抱きしめてやりたいが、それも叶わず
しばらく公爵領で静養する様に。
それと、サムイなる少年が王城にやってきた。
良い友を作ったな。
とのことです!
以上です。では失礼いたします。」
使者は帰っていった。
「は?サムイ?は、ははは、何やってんだ、あいつ」
「16歳までと限定されたという事は、
サムイ殿が18歳になるあの契約に関わってくるのですな。
アツイ様、なぜあの契約をしたか教えていただいても?」
「ルーバがいったんだ。
俺のスキルを消し去るほどのスキルを持つ物がいたら、即刻囲えと。
でも俺は、成人する歳までは親の所のがいいと思ったから、
18歳でいいと。ルーバには内緒にして。
あん時、俺がルーバのいう通り、連れて帰ってきてたら、
ルーバは死ななくて良かったんじゃ・・・クソッ!」
「という事はサムイ様はアツイ様のスキルを消す事が出来ると!
なんたる行幸。ああ、でもあの契約は確か、
18になったらと限定しているため
それまではアツイ様の元に来れない訳ですな。
また誰にも解除出来ない、でしたな。本人同士でも王でも解除は出来ないと。
これはまた。縛りが厳しい。
なるほど。それで王も。
しかしアツイ様、希望が持てましたな。
公爵家の者もこれで安心するでしょう。」
「そうだな。なあ、公爵領に行く前にルーバのお墓に手を合わせたいんだ。
行けるかなあ?」
「大丈夫でしょう。王に許可をとります。
公爵領へ行く道すがらになるとは思いますが。」
「ん、よろしく頼む」
「承りました。」
良かった。ようやくアツイ様が前を向き始めた。
ルーバ殿、見守っていて下され!




