襲爵 2
キッチリ服を着た上にマントをしっかり着て、王様が待つ謁見の間の前に、ルーバと2人立つ。
「レイグリッド公爵家令息 アツイ・ド・レイグリット様、
家庭教師兼専属護衛騎士 ルーバ・サルバトル様
謁見の間にお入りになられます!」
「入れ」
キーーーー
おおーなんか物々しい感じーー
騎士が両脇にズラっと並んでらーー
あっちは文官か?
貴族っぽいのもチラホラいるなー
奥の椅子に座ってるのが王様かな。
「アツイ様、さあ行きましょう」
「ん」
中央を歩いて、王様の前で片膝をおり、頭を前へ傾ける。
「アツイ・ド・レイグリットでございます。
この度は、マイカール王へ拝謁賜りました事、誠に光栄に存じます。
また、襲爵の儀を執り行って頂けるとのこと、感謝申し上げます。」
「おお、アツイか、私の愛する甥っ子よ。
そのような堅苦しい挨拶はそれくらいにして、頭をあげ、楽にしておくれ。
これまで会う事もせず、申し訳なかったな。
そなたが元気に育っておる事は、報告を受けておった。
今日のこの日を待ち侘びておったぞ。」
「は!そのようなお言葉をいただき、ありがたき幸せ。」
マイカールは、ルーバを見た。
「ルーバ、そなたに感謝しなくてはな。
このように立派な甥っ子に育ててくれて、心からの感謝を。
ありがとう、ルーバ」
「いえ、私はそのようなお言葉を頂くほどの事はしておりません。
アツイ様自身が素晴らしいのでございます。」
「フフフ、そうか。」
俺も、ルーバを見た。
コソコソ (どう俺!普通以上に上出来じゃないか?褒めろ!)
コソコソ (アツイ様!まだ終わってません!お静かに!)
クスクス、
クックック
と周りの人達に聞かれたのか、あちらこちらで堪え笑いが聞こえる。
コホン、コホン、
「お前達、聞こえているぞ?
しかし仲が良いな、私もその中に入りたい・・・。羨ましいー。」
「ゴホン!陛下!」
うわー王様、シュンてしてる。やっぱチョロいなこのおっさん。
つーか、大丈夫か?この国。
「では、これより、襲爵の儀へ移る。」
王が立って、アツイの前まで歩んでくる。
近衛騎士と思われる者が、
継承用の宝剣をクッションの上に置いた状態で捧げ持ちながら
王の傍に近付いてくる。
「我が甥、アツイ・ド・レイグリット。
そなたがレイグリット公爵家当主を継承することをここに許可する。」
王が宝剣を手にしてアツイの前に差し出す。
ん!そういや俺、どうやって受け取るんだ?
ええい、マント越しで貰ったらいいか。
「は!ありがたき・・・」
えっ・・・
宝剣をマント越しで貰おうと、マントのまま手を上へ上げた瞬間、
その手の辺りの所に黒いモヤが集約しはじめた。
「え?え?何これ!」
見る見る内に真っ黒になったモヤが、宝剣を持った王へ飛んで行く
と思った瞬間、ルーバが俺とモヤ毎、横からガバッと包んだ。
「王!」
横にいた近衛騎士が王を庇って、前にでる。
「ガハッ」
ルーバが声と共に血を吐き出した。
見ると真っ黒なモヤが、ルーバの腹辺りに淀んでいる。
「グハッ」
王を庇った近衛騎士も血吐き出した。
見ると少しモヤがそちらにも飛んでいた。
きゃああああーー
わああああーー
「王!、こちらへー!」
「アツイ!ルーバ!大丈夫か?アツイ!アツイ!」
「王、その者はひとまず置いておいて、
王だけでも急ぎお離れ下さい!
おい!王を離れた所へ!早く連れて行け!」
バタバタと部屋にいた文官、貴族、王を連れて行った騎士は部屋の外へ出て行った。
残ったのは、俺、ルーバ、血を吐いた騎士、
それと遠回しに剣を抜いて俺を牽制している騎士達だ。
「ルーバ!ルーバ!大丈夫か?
俺、俺、なんで?何であんなモヤがー、
ルーバ、俺どうしたらいい?誰か呼んだらいいのか?
教えてくれよ。ルーバーー!」
「フーー、フー、アツイ様、何泣いてるんですか。
私のアツイ様、これは、少し不幸な事故なんです。
フー、フー、あなたは何も気にしないでいいのですよ。
私は、いつも笑っている、あなたが好きです。
いつも頑張ってますものね。
もう少し、一緒いられると思っていたのですが・・・」
「いやだ!いやだ!ルーバ!そんな事言わないでくれ!
いいよ!ずっとベッタリ付いてきても!
歩けなくなっても、僕が背負ってどこにでも行くから
ルーバ!お願い、死なないでえー!」
「ええ、アツイ様、フー、ごめんなさい。
ハッ、ハッ、ハッ、
アツイ様、あなたを、愛して、おります・・・」
「俺だって、愛してる!ルーバ!愛してるから!ねえ!」
「うれし・・で・・」
「ルーバ!ルーバ・・・・うわあああああ」
アツイのマントから全方向にモヤが放出される。
部屋一面モヤで真っ暗になった。
「バ、バケモノ・・・」
部屋にいた騎士達が、バタバタと倒れていく。
数人は堪えていたが、それも立っていられなくなり、倒れる。
部屋にただひとり、アツイだけが生きている。
なんなんだ!なんなんだよ!俺はこんなの望んでない!
俺は、面白可笑しく生きて楽しい異世界ライフするつもりだったのに。
いつもどこでも一緒だったルーバがこんな死に方するなんて。
なんで!なんで!
うわああああああああああああ!
感情の発露を抑えきれず、爆発的に膨れ上がったモヤが窓やドアを壊し、
外へドバッと漏れ吹き出していく。
その勢いは王城を越え、貴族街を越え、平民の街へと、薄れながらも広がっていく。
訳も分からず、倒れ死ぬ者。
発熱し、咳き込む者。
気分が悪くなる者。
それぞれが個々のスキル内容で症状は違うが、
何かしらの影響を受けた。
暫く呆然としていたアツイは、ルーバの手を胸の辺りに置き、
開いたままの目を閉じさせて、手を合わせて弔った。
そして、徐に立ち上がり、部屋を出ていく。
まだ生きている者からは、恐ろしい者を見るように怯え、隠れ、
死にかけている者からは、恨めしい目を向けられた。
マントからはもう何も出ていなかった。
だが、アツイの心はもう何も感じない。
トボトボと、歩いて王城から出ていった。




