近衛隊長の名前はグレイ
少し話が辛いです。
無理なら飛ばして下さいね。
今日は行幸だった。
使用人が練兵場に走り込んできた時は、何事が起こったのかと思ったが
公爵令息サムイ様が外へ出ると言う。
これは止めねばと、急ぎ馬で駆けつけたが、見るとモヤが出ておらん。
立派なマントな上にモヤが出ていないと言うことは、魔道具確定だ。
これまで、会うこと叶わず、不測の事態に備え鍛錬の毎日。
いつ会えるかと気を揉んでいた所へ、舞い込んできた幸運であった。
初めて言葉をかけられた時は、年甲斐もなく心が浮き足だってしまった。
公爵様がまだ生きている希望がある以上、令息様はまだ公爵ではないが、
行方不明になって10年過ぎれば、令息様は公爵を継ぐ事になるだろう。
私は今後、この方にお仕えしていくのだ。
令息様、いやもうサムイ様とお名前を呼んでいいのだった。
サムイ様と一緒に馬に乗り、頷くだけでお言葉を発してくれなかった時は、
私のせいかとも思ったが、普段から声をお出しになっていなかったと聞き
お可哀想にと、胸が痛くなった。
魔道具屋での事は、もう忘れたい。
慌てたとはいえ、なぜ死んでお詫びをと考えてしまったのだろうか。
死んでしまってはサムイ様をお助け出来ないのに。
まだまだ未熟者だな。私は。
しかし、あのサムイという少年。
アツイ様を誑かした訳ではなさそうだが、一生の制約をかけた契約までするとは。
そしてなぜ18歳にしたのか。
気に入ったのなら、今からでも公爵家に引き取れば、
平民にとっては大出世になるのだから、親御達もお喜びだろうに。
ああ!もしかしてアツイ様は少年が親のもとで幸せに暮らしているのを知り、
成人までは親元にと考えてのことか!
うっ、ううっ
ご自分は、親からの愛情をかけて貰っていないというに。
グッグっ、うおおおおおお!
涙を流しても何も生まれぬ。
アツイ様の優しさを胸に秘め、このグレイ、生涯をかけてお仕えいたしましょうぞ!
はあ、それはそうと、
アツイ様は、ご自分のスキルが私に影響されるか気にしておったなあ。
また、自分のスキルは何なのかを。
確かに占い屋や鑑定屋へ行けばわかるだろうが、
私はアツイ様に知って欲しくはない。
あれは、アツイ様が生まれた日、メイド長から聞いた話だ。
もちろん公爵家なので、アツイ様をお世話する乳母を、篩にかけて用意し、
公爵夫人のお産にも立ち会わせた。
アツイ様が生まれて、そのまま夫人が亡くなった折、全身モヤがかかった赤子を乳母は気丈にも抱き上げた。
その時点で、夫人の死、赤子の異様な姿に、皆泣き崩れておったが、乳母だけが赤子のために抱き上げたのだ。
だが、乳母が乳をやろうとすると乳は出ない。
乳母の乳の出が悪いのかと、自分の赤子にやろうとすると乳は出た。
出たが、自分の赤子は飲もうとしない。乳母の赤子は生後3ヶ月であったと聞いた。
アツイ様が生まれるまでは、乳を良く飲んでいたと。
口に押し込んでも、まるで吸おうとしないので、その乳を搾り、布に染ませてアツイ様にあげたと。
アツイ様はそれで漸く生き延びたが、乳母の子はそのまま飲もうとせず、痩せ細って死んだと聞いた。
子が死んだ時点で、アツイ様を乳母に抱かせるわけにいかなくなり、王から依頼された下女が乳をやることに。
乳を絞るのも監視の下、それでもいいからと乳母は1年間、公爵家に住み込んで乳を搾り続けた。
子が死んだこともあるのだろう、キッカリ1年で乳母も痩せ細り亡くなった。
身近で仕えるのは王から依頼された下女のみ。
他の者はなるべく離れたところから世話をおこなった。
掃除、洗濯、食事等をするための下女は必要だ。
そのあと、2年をかけて検証が行なわれた。
人がどこまで近付いたら影響があるのか。
期間はどれくらいか。
サムイ様に気付かれないよう、最新の注意が払われた。
目の前で何者かが倒れるなど、あってはならぬ。
その結果、サムイ様の近くに5日ほどいると、何かしらの影響が出るとわかった。
本人又は身内で死、病、怪我、等だ。
死んだ者は丁重に弔った。
病気や怪我は良くなるまで医者に見せた。
我らに出来るのは、そのくらいだ。
わかってからは、当番制にして、連続5日の奉公を禁じた。
近寄らなければいいのだが、アツイ様に部屋に閉じ籠ってもらうわけにいかぬ。
2歳ごろからヨチヨチと部屋から出て遊び始めたと聞いた。
どこへ行かれてもいい様にし、誰も不幸にならない様に最善を尽くした。
このころに公爵家に使える主要な人物は全て別館に移動した。
この事を知り得た公爵家の者全てに口外禁止の契約を行った。
話そうとすると声が出なくなるという条件付きだ。
もちろん、これはアツイ様のせいではない。
スキルのせいであったとしても、アツイ様自身のせいではないのだ。
これまでに知り得たこと一切合切、誰にも言わずに墓まで持っていく所存だ。




