第9話 ゲーム実況:コイン取ったら初めからやり直し
……これもダメか。一体何の動画なら見てくれるんだ!?
6月。梅雨特有のどんよりとした空気すら逃げ出すほどの重苦しい絶望が俺を覆っていた。
大学の講義の時間、最後方の席に座りスマホでライバル候補の動画を見て研究していた。ふーむ、最近は「ゲームのサブスク」もあるらしく、レトロゲームの配信が目立つな。
……よし、もう一度行くか? ゲーム実況動画を。
「はいどうもー! マックスありさわでーす! 今回は「コインを取ったらリセット」な「ウルトラマリオネットシスターズ」のゲーム実況をしたいと思いまーす!」
ゲームをしている画面が映ってるテレビがカメラに収まるよう設置し、実況がスタートした。
「ウルトラマリオネットシスターズ」……日本はおろか世界中でテレビゲームブームを巻き起こし、テレビゲームという新たな娯楽を世に広めた傑作アクションゲームだ。
発売されてからかれこれ40年は経つが、今遊んでも面白い不変の楽しさがあるゲームだ。
股間もフルスロットルでギンギンだ。今度こそ再生回数:0から抜け出せるはず!
「じゃあさっそくプレイしたいと思いまーす」
ゲームが始まると同時に、いわゆる「ピコピコ」と言われる電子音で構成された音楽が流れ出した。
俺はキャラをダッシュさせると一番最初に現れる敵に突っ込んで1ミスした。
「あー、さすが世界で最も多く主人公を倒した敵なだけありますねぇ。良い撃墜率だと思います」
受け狙いのためにわざとミスをした。これでつかみはOK……な、はず。誰か見て欲しい。
気を取り直してもう一度最初から。今度はジャンプして踏みつけて倒す。
「まぁコイツにぶつかってミスるのは誰だって1度はある、よくある事ですよね。慣れればどうってことないのですが」
しゃべりながらのゲームって意外と難しい。ゲームするのと同時にしゃべるのは常時マルチタスクで頭をフル回転させるのだが、その苦労は出さないようにこらえる。
ゲームに熱中してるため積極的にはしゃべらないが、パワーアップアイテムを取り、順調にゲームを進めてアスレチックな面までたどり着く。
「ここは慣れないとジャンプの挙動制御が難しくてミスするかも……」
実況しながらしゃべっていた、その時!
「コイーン」
突如コインを取った時の特徴的な音が鳴る。頭の上には何もなかったはずなのに、ジャンプしたら突如ブロックが現れた。
後で調べたところ「隠しブロック」って奴だそうだ。
「ハァアアアア!?」
思わず声が出る。納得いかないが、リセットだ。せっかくノって来たのに急に冷や水をぶっかけられる展開だが仕方ない。
「ハァーア、また最初からやり直しかー……!! あっ!」
最初のステージでついうっかり地下のボーナスエリアに入ってしまった。コインが山ほど置かれていて当然、1つでも取ったらまた最初からだ。
「えーと待って、逆にここでコイン取らずに出れたら凄くない!? ここは、そうですねぇ。端っこに足を引っかけて一気にジャンプして……」
突如舌が回りだし、でかい声を出してギャーギャー騒ぐように実況しながらキャラを操作するが……。
「コココココイーン!」
「あーあ、取っちゃったよ」
リセットだ。
「……」
これでもう7回はやり直している……また最初のステージからだ。正直飽きて来た。俺はもちろん、視聴者もだろう。
もう疲れた、終わりにしよう。股間もすっかり萎えている……死ぬほどグダグダだがもう無理なモノは無理だ。
「今日の動画は以上となります。この動画が良いなと思った方は、チャンネル登録と高評価を是非よろしくお願い致します。
チャンネル登録の後、ベルのマークの通知をオンにしていただければ最新の動画も見れますのでそちらもよろしくお願いします。
こんな企画してくださいとか、コメントも何でもOKですのでお待ちしています。
それではご視聴ありがとうございました」
テンションだだ下がりの中、グダグダの極みの中でゲーム実況動画を終えた。ある意味このグダグダぶりが逆に新鮮なのかもしれない。普通はカットされるんだから。
撮影を終えて編集作業に入る。慣れた物でコツは完全につかんでて、6時間ほどかけて編集を終えた。
今日は日曜日で朝から撮影してたので編集が終わったのは午後3時。いつもは夜中にアップロードするから、上げる時間帯を変えれば少しは違う客層に届くのかな?
そんな淡い期待を胸に秘めながら動画をアップロードした。
その日、夜になって寝る直前に動画を見てみると……。
「マックスありさわ ゲーム実況『コイン取ったらやり直しのウルトラマリオネットシスターズ』」
再生回数:0




