第10話 永嶋茂雄の孫です。じいちゃんがお世話になりました
……動物もダメ、奇を狙って納豆風呂に入ってもダメ、事故の現場をリポートしてもダメ。ゲーム実況もダメ。いったい何が受けるのかさっぱりわからない。
なぜ誰も見ないんだ? なぜ再生回数がどれもこれも0なんだ?
改めて今まで上げた動画を見ても一切再生されていないようだ。一体……なぜ?
◇◇◇
6月、梅雨の時期に入り鉛色のどんよりとした雲が空を覆う。
その天気同様の暗い顔をした俺は大学の講義も頭に入らず、なぜ動画が再生されないのか? それがずっと頭から離れなかった。
講師の話を右耳から左耳に流し、数合わせだからと参加したサークル活動にも熱が入らず、1日を終えて自宅に戻りボケーッと無気力にテレビを見ていた、その時だった。
「速報です。元プロ野球選手、およびプロ野球監督の永嶋茂雄氏が今月3日に肺炎のために死去したと関係者からの話で明らかになりました。89歳でした」
夕方のニュース番組を見ていると飛び込んできた速報。野球に一切かかわらない人でもその名を1度は聞いたことがあるであろう日本野球界の伝説。その巨星が墜ちたことを知らせていた。
それを見て俺は瞬時に脳がフル回転する。
「!! こいつはネタにできるかもしれねぇ!」
再生回数が0ばかりの俺は何としても注目されたい。そんな「狂おしいまでに」再生回数を求めていたため、すぐに着替えて撮影を開始した。
「はいどうも。マックスありさわです」
カメラには黒一色の服を着た俺の姿が映っていた。声のトーンもやたらと低めで重苦しい雰囲気を漂わせている。
「永嶋茂雄じいちゃんが今月3日に亡くなったことが報じられましたが実は私、マックスありさわはあの永嶋茂雄の孫息子だったんです。
今日はじいちゃんとの日々をお話しできればなと思います」
そんな『大嘘』からその動画は始まった。人の死をネタにしているというのに、股間だけは正直でビンビンだ。
「じいちゃんは裏表がない人で、TVでも有名なあのキャラがプライベートでもそのままでした。
いつもあんな調子で周りを振り回していた。とはいえ身近にいたからそれにも慣れてしまってて違和感とかはなかったんですけどね」
人様の死すらネタにして大嘘つけるとはずいぶんと神経の座り具合が酷いものだなと思われるだろうが、とにかく再生回数を稼ぐためにはこうするしかなかった。
こうでもしないと注目してくれない世間が悪いんだ。という事にして俺は撮影を続ける。
話題は「設定上は」おじと言う事になっている永嶋一茂のものに移る。
「一茂おじさんとも仲良くしていて、おじさんは小さい頃「自分は「永嶋一茂」ではなく「永嶋茂雄の息子」としか周りの大人たちは見てくれなかった」
と言って恐怖を感じながら話してくれたことは今でも鮮明に思い出せます。
おじさんは子供の頃にじいちゃんが大好きな人からプレゼントをたくさんもらっていたそうですが、あれで大人の残酷さを学んだとも語っていました」
30分ほどの下調べで得たエピソードを垂れ流し続けて、場数を踏んだのか少しはマシになったトークを続け、締めに入る。
「今日の動画は以上となります。この動画が良いなと思った方は、チャンネル登録と高評価を是非よろしくお願い致します。
チャンネル登録の後、ベルのマークの通知をオンにしていただければ最新の動画も見れますのでそちらもよろしくお願いします。
こんな企画してくださいとか、コメントも何でもOKですのでお待ちしています。それではご視聴ありがとうございました」
そう言い終えてビデオカメラを止め、パソコンに動画データを転送し編集作業を始める。
作業開始から7時間、途中夕食や入浴、歯磨きなども行って終わったのは午後11時半。眠い目をこすりながらも作業を終えてアップロードし、寝た。
翌日、YouTubeの管理画面を見てみると……。
『マックスありさわ 永嶋茂雄の孫です。じいちゃんとの日々をお話しします』
再生回数:0
また0だった。気になってこの動画と似たような物の検索を行った。すると……。
『永嶋茂雄の孫です。おじいちゃんがお世話になりました』
再生回数:54.293
『永嶋茂雄のひ孫です。すべてをお話しします』
再生回数:76.849
同じコンセプトだった他人の動画はそれなりに再生されているようだった。
……何故俺だけ?




