第7話 納豆風呂に入ってみた
……これもダメか。いったいどうすれば再生してくれるようになるんだ!?
動物もダメ、asmrや激辛焼きそばといったメシ物もダメ、偶然起きた交通事故もダメ!
いったいどうすれば再生してくれるんだ!?
「ハァ……」
動画がただの1回たりとも再生されない事で、すっかり気がめいっていた俺だったが、それでも腹は減る。メシを食ってクソをして寝なくてはいけない。
最寄りのスーパーで2~3日分の食料を買うためにうつむきながら店内でカートを押していた。その時だった。
ふと棚に目を向けると不自然なくらい大量の納豆パックが陳列されていた。
「パートが発注数のケタを1つ間違えて大量に仕入れてしまいました。どうか救ってください!」
という嘆きにも似た張り紙と共に投げ売り価格で売られていたのだ。
「!!」
それを見て俺に天啓が降りてくる。
「これはネタになるかもしれない!」
俺は導かれるように大金をはたいて納豆を何十パックという大量に買い込んだ。動画のネタとして使うためだ。
5月下旬。ついに『再生回数:0』からオサラバ出来る動画が撮れそうだ! 心なしか股間も反応する気がした。
「はいどうもー! マックスありさわでーす! 今回は、ジャン! 納豆風呂に入りたいと思いまーす! パチパチパチー」
俺が自宅の風呂場で海水パンツ姿になって撮影を開始する。勃起してたが多分大丈夫だろう。
「まずは……これです! ジャン! 納豆パック67個! これでお風呂を作りたいと思いまーす!」
そういって納豆パックを次々と開封し、浴槽に投入していく。途中で視聴者から飽きられないようにトークで場を繋ぎつつ全部入れていくが……
「うーん。想像していたのとだいぶ違いますけど、まあいいや! 納豆風呂の完成でーす!」
湯船の底は何とか隠れるくらいにしかならなかった。俺の予想だともう少し量が多くてもよかったのに……でもテンションを上げないと視聴者が離れると思い、無理やりアゲアゲ状態で撮影を続行する。
「それでは、いざ入浴したいと思いまーす!」
いざ湯船につかると……。
つるっ。
納豆で足が滑り……。
ゴッ。
湯船のふちに顔面を直撃させる。幸い歯は折れてなかったがとてつもなく痛い。
「ぐお! モロにぶつけた。いやー想像以上に滑りますね納豆風呂って……うわっ!」
立ち上がろうとしてさらにもう1回滑る。今度は湯船の底に胸をぶつけた。
「痛たたた。かなり滑りますねこれ。路面が凍った時よりも滑るなこれ」
2回ほど滑って転んだあと、撮影中だというのを思い出してトークを続ける。
底につめた納豆をすくい上げ、身体を洗うようにかけたりして納豆風呂をアピールする。この後10分ほど1人相撲をして……。
「今日の動画は以上となりまーす! この動画が良いなと思った方は、チャンネル登録と高評価を是非よろしくお願い致します!
チャンネル登録の後、ベルのマークの通知をオンにしていただければ最新の動画も見れますのでそちらもよろしくお願いします。
こんな企画してくださいとか、コメントも何でもOKですのでお待ちしています!
それではご視聴ありがとうございました!」
締めのセリフを言った後でビデオカメラを停止させると、俺は大きなため息をついた。
「うーわ、ぐちゃぐちゃだよ」
『納豆風呂に入ってみた』の撮影が終わった俺の前に待っていたのは、ねばねばした納豆67パック分の後始末。決して撮影されることのない舞台裏だ。
まずはバスタブに備え付けのシャワーで洗い流そうとするがなかなか流れない。いろいろ試したが結局素手で納豆をつかんで排水溝に押し込んでいくことにした。
またバスタブ内の納豆を洗い流してもそれから出たネバネバ、あるいは潰れた納豆は洗わないと取れない。洗剤を多めにつけて浴槽を洗うスポンジで洗うがなかなか落ちない。
それでも風呂に入れないのは嫌だと果ての無い作業を続ける。
それと同時に身体も洗う。やはりボディウォッシュタオルは納豆の粘りで酷いことになるが、背に腹は代えられない。
結局1時間ほど粘りと格闘してタオルもスポンジも捨てることにして、ようやく元のお風呂場で湯船に浸かれる事ができる程度には片付けができた。
気を取り直して動画の編集にかかる。夕食や普通の風呂を挟みつつ動画を編集する。何回か編集作業をやっていたのか、こなれてきて作業スピードは着実に上がっている。
6時間で動画の編集を終え、アップロードする。
翌朝、俺は動画の管理画面を見るが……。
『マックスありさわ 納豆風呂に入ってみた』
再生回数:0




