第6話 交通事故の現場を取材してみた。
……どうすればいいんだ。これまで上げた動画は全部、実質再生回数:0。いったい何が足りないんだ? なぜ俺の動画はこんなにも伸びないんだ?
ブログやSNSでの情報発信もやってるし、動画も定期的に配信している。やれることは全部やってるのに何が足りないというんだ!?
動画が一向に伸びない。悶々としたものを抱えていた俺だったがそんな5月の20日、事件が起きる。
その日の早朝……それは起こった。
キキーッ! ドガシャァン!!
まだ太陽が顔を出したばかりという時間帯に、女性の悲鳴のように甲高いブレーキ音の後何かがぶつかりガラスが砕け散る音が響いた。
「!? 何だ!?」
その音にたたき起こされた俺は窓の外を見る。
アパートから出てすぐ近くにある交差点で、2台の車が事故を起こしていたようだ。正面衝突したらしく、フロントガラスが砕けた車2台がぐったりとしている。
「!! これは……使える! 使えるぞ! とっておきのネタだ!」
寝起きだというのにそれを見た俺の脳みそはエンジン全開で回りだし、これを撮影すれば動画は伸びるはずだという結論に達する。
眠気なんて一瞬で吹っ飛んで今までにたたき出したことのない速さで普段着に着替え、カメラ片手に事故現場に突っ込んだ。股間もビンビンだ。こいつは行ける! と確信した。
「はいどうも! マックスありさわです! 今日は事故現場のリポートを行いたいと思います!」
自撮りの要領でカメラで自分の姿を映した後は早速事故の現場へと急行する。現場には既に何人かの人が集まっていて救急車を呼んだだの警察に通報しただのと言っている。
「はい! 事故の現場です! 時刻は……えーと午前6時7分ごろで、今住んでいる場所の近くの交差点で起こった事故です! これから取材しようと思います!」
俺はそう言ってTV記者のまねごとを始めた。
地元住民の話では「追突した側」である運転席には血だらけのドライバーがぐったりとしていた。時折うめき声を出しているから意識はあるとは思うのだが……。
「うわぁ血だらけだ、ぐったりしてる。生で見るのは結構グロいなぁ……視聴者の皆様見えますかね?
グロ画像になってしまうかもしれませんけど大けがをしてます。意識はあるようですが」
グロいと言いながらもカメラはしっかりと回す。途切れ途切れなトークをある程度収めた上でもう一人の事件当事者の「追突された側」である中年男のドライバーに話を聞く。
彼は不幸中の幸いとでもいうべきか軽傷で、自力で車から降りて歩ける事ができた。
「あの、事故の状況を述べてもらいたいのですがよろしいでしょうか?」
「普通に運転してたら相手が信号を無視して突っ込んできたんだ。俺は巻き込まれたんだよ、相手が100%悪いと思うぞ」
「そうですか。体調とかは大丈夫でしょうか? 気持ち悪いとか頭を打って気分が悪いとかはありませんよね?」
「ああ大丈夫だ。っていうかお前TV局の取材のつもりなのか? 救急車呼べよ何やってんだテメェは」
俺は不愉快になりつつある事故の当事者にズケズケと聞き出す……俺には再生回数のことしか頭になかった。
「追突された側」からしたら普段、事件の被害者家族を取材しにくるTVに嫌悪感を抱いており、俺がやってることはそんな彼らと何一つ変わらなかったのにいら立っているのだろう。
でもあの時の俺はチャンスが転がり込んできたことに夢中でそんなのはどこかに吹っ飛んでいた。
やがて……
ピーポー、ピーポー、ピーポー、ピーポー……
ウーウウウ、ウーウウウ、ウーウウウ……
住民からの通報でパトカーと救急車がやってきた。ここが潮時だろうと思い事件の現場を後にする。
「というわけでマックスありさわの事故現場レポートでした! 今日の動画は以上となりまーす! この動画が良いなと思った方は、チャンネル登録と高評価を是非よろしくお願い致します!
チャンネル登録の後、ベルのマークの通知をオンにしていただければ最新の動画も見れますのでそちらもよろしくお願いします。
こんな企画してくださいとか、コメントも何でもOKですのでお待ちしています!
それではご視聴ありがとうございました!」
お決まりのセリフを吐いて現場を後にした。
後日の調査で「追突した側」は深夜に飲んだ酒が抜けきっていない状態で運転した酒気帯び運転だということが発覚。
また、事件の現場の調査やドライブレコーダーに残っていた画像からも証拠が取れ「追突した側」の過失であるとの結論になったそうだ。
今日は日曜日なので講義は無かった分、集中して動画を編集していく。今回は多くの人が映っているので顔をぼかす作業が多く入る。7時間ほどかけて納得できる形に動画を仕上げ、早速アップロードする。
翌日、YouTubeの管理画面を見てみると……。
『【緊急】マックスありさわ 交通事故現場レポート』
再生回数:0




