最終話 塩素ガス自殺してみた
9月下旬。大学ではそろそろ後期が始まる頃だが、俺は終始動画を撮っていた。
『マックスありさわ コンビニ強盗してみた 第3弾』
3日前に撮った動画だ。もちろん「再生回数:0」だ。
過去に2回コンビニ強盗をやって今回で3回目だが、警察や被害に遭ったコンビニすら何も言ってこない。
完全に「コンビニ強盗それ自体が」無かったことになっている。
『マックスありさわ 女子大生を昏睡レイプしてみた』
1週間前に撮った奴だ。合コンで会った相手に睡眠薬を飲ませて昏睡レイプしたものだ。これも「再生回数:0」だ。
被害に遭った相手からは何も言ってこない……被害者が訴えない以上、完全犯罪だ。
……虚しい。
カネなんてコンビニを襲えばいくらでも手にはいる。女だって誰だろうが襲い放題だ。 ただ、注目されない。何をやっても注目されない。
裸踊りしようが、猫を蒸し焼きにしようが、コンビニ強盗や宝石店強盗をやってもなお、注目されることだけは無い。
「カネがある」から何だ? カネじゃ再生回数は買えない。買ってもバレたら規約違反でアカウントごと消される。
まぁそもそも何で強盗動画やレイプ動画が削除されないんだ? っていう謎はあるが。
……誰か再生してくれ。誰か俺を見てくれ。それこそ強盗や昏睡レイプしてもYouTubeすら何も言ってこないのは苦しい。でもYouTuberを辞めるという選択肢は一切なかった。
4歳の頃から、幼稚園児だった頃からYouTubeに「どっぷりと浸かってた」からYouTubeはもはや俺の身体そのもの、俺の人生=YouTubeだと断言しても良かった。
俺は、賭けに出た。これが最初で、最後の配信だ。
その日、俺は配信を行っていた。
『マックスありさわ 塩素ガス自殺配信』という、速攻で配信停止させられそうなタイトルだ。
「はいどうも。マックスありさわです。今日は塩素ガスで自殺するところをライブ配信したいと思います」
カメラに映っているのは自宅のカラの浴槽。栓をしていつでもお湯を入れられる状態にしたうえで俺は浴槽の中に立っていた。塩素ガスで自殺する、という物騒なコメントをカメラに向かって言う。
通販で買った塩素系洗剤を右手に、近くのホームセンターで買った酸性洗剤を左手に持ってカメラに向かってアピールしていた。
2つともスプレーの部分を外し、ひっくり返せば中身が全部出てくるようになっている。この時点でもコメントは1件も来ない。
塩素ガスは人体に猛毒で数分で死ぬとは知識では知っていたが実感はなかった。再生回数のためならと思い切って中身をぶちまける。
シュウウウウウ……
洗剤からは炭酸水のような泡が出始めていた。おそらくこれが塩素ガスなのだろう。
「!? ぐっ!?」
異変はすぐ起きた。鼻がヒリつくような刺激臭が飛び込んでくる。その上のどや目から焼けつくような痛みが走る!! 更には呼吸も苦しくなり、いくら息を吸って吐いてを繰り返しても良くなるどころか、ますます悪くなる。
生命の危機の前では、実況するどころじゃない。足に……いや全身に力が入らない! 浴槽の中に倒れてしまった。呼吸が苦しい、のどや目だけでなく肺が痛い、急速に意識が遠のいていく。
意識が飛びそうになりながらも俺はスマホの画面を見る。
『マックスありさわ 塩素ガス自殺配信』
視聴者数:0
そうか……結局俺は……0なのか……。
俺は絶望を抱えたまま意識が飛んだ。
◇◇◇
その後、その辺の自殺者と同じように処理され、普通に葬式が行われ、普通に墓の中に普通に納骨された。特に変わった様子も無く、気に留める人なんて誰もいない。
彼には両親がいたから彼らが生きている間は完全には忘れ去られたりはしないが、あと40年もしたらその親も亡くなり、忘れ去られてしまうだろう。
結局彼が望んでいた承認欲求は一切満たされることは無かった。
生きている間はもちろんの事、死んでもなお誰からも注目される事無く、彼は20年にも満たない短い一生を終えたのだった。
完




