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注目されないYouTuber  作者: あがつま ゆい


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第16話 転機

 ……ダメだ。せっかくのコラボ企画だったのに再生されない。

 俺一人で撮った動画ならまだしも、コラボした以上、ましてや編集は俺が一任した以上は、この再生回数は俺の責任でもある。

 仲良くなって教えてもらった電話番号に俺は電話を入れた。




「もしもし、マックスありさわです。先日のコラボ企画が全然跳ねなくて申し訳なく思っています」

「ハァ? マックスありさわ? 誰ですかアンタ? 何なんですかそのコラボ企画って」

「へ?」


 いきなり誰ですかアンタ、コラボ企画って何? と言われた。意味が分からなかった。

 会話が全くと言っていいほどかみ合わない。




「い、いや。誰ですかって、マックスありさわですって。昨日『マックスたなかとダブルマックス動画』ってやりましたよね?」

「ハァ!? 何言ってんだお前! 俺はお前なんかと動画撮った覚えなんて無いぞ! ファンでもないのにいきなり電話してきて何がしたいんだ!?」

「ちょっと待ってくださいよ! さっきから何言ってるんですか!? 何で俺の事知らないって言いきれるんですか!?」

「お前いい加減にしろよ! 知らないものは知らないんだ! 赤の他人があれこれ絡んでくるんじゃねぇ! また電話するようなら警察に通報するぞ!」


 ブツリ、と電話が切れた。




 何が起こったんだ? 相手が何を言ってるのか分からないし、俺も何が起こったのかさっぱり分からない。

 まるで『コラボ動画を撮ったこと、それ自体が存在しなかったかのような』態度だ。どういう事だ?

 さすがにこれは何かある。と思っていた時に、スマホのアラームが鳴った……そういえば今日はサークルに集まる日だっけ。




「お飾り」でも良いから入ってください、って頼まれて入ったサークルにはメンバー、と言っても6人しかいないが……が集合する日がある。

 大学が夏休みの最中にも何日かあって、その1つが今日だったっけ。俺は荷物をまとめて大学へと向かった。




 サークルメンバーはこれから夏休みでどこ行こうか? とこれからの事に対してワクワクしていた。他人に話しても「何だソレ?」ってまるで理解できない悩みを持っていた俺とは大違いだった。

 こんな悩み誰にも相談できないし、ましてや的確なアドバイスだなんてもらえるわけがない。学校が休みの間も俺は相変わらずYouTubeのネタ探しの日々だ。まぁ苦痛じゃないけどね。




「今ならLINEでも出来る事」をサークルの伝統だから、と続けている事に「そんな古臭い風習が残っているからメンバーが入らないんじゃないか?」と呆れながら集まりを終えて、家に帰ろうとしていた時の事だった。


「!? あっ!!」


 大学構内に猫がいた。飼い猫なら「ユキ」という名前が与えられていそうな真っ白の猫だ。子猫は手足が黒かったから、その母猫だ。

 間違いない、俺が前に「猫の蒸し焼きを作ってみた」という撮影で蒸し焼きにした猫だ。




「!? な、何で!?」


 ……生きている!? どういう事だ!? 確かに蒸し焼きにしたはずなのに!?

 その猫は俺に蒸し焼きにされたことを全く覚えていないようで、俺を見ても警戒することなくついさっき獲ったばかりのネズミを咥えて寝床の茂みに入っていった。


 もしかして……いや、そうだ!




「どんな動画を上げても注目されない」のではない。逆だ。「俺がYouTubeに上げた動画はどんな内容だったとしても何もなかったことになる」のではないのか?


 まるでWEB小説に出てくるチート能力みたいなものだがそうとしか考えられない! それに気づいた俺は撮影のためにスマホで注文していた。




 数日後……午後10時55分。日が落ちて随分と時間は経つがアスファルトから熱気が漂う路上で、暗い中撮影を開始する。


「はいどうもー、マックスありさわでーす。今日はコンビニ強盗してみたいので早速押し入ろうと思いまーす」


 スマホのカメラに映る俺の姿はネットで注文した目出し帽をかぶり、同じくネットで手に入れた「チェストマウントハーネス」と呼ばれる器具で撮影中のスマホを胸に固定し、

 右手に包丁を持った状態でコンビニに押し入る。そろそろ閉店の時間という時の事だっただけあって、店員も大慌てだ。


「オラッ! カネだぜ!」

「な、何なんですかあなた!?」

「うるせえ! さっさとレジ開けろ! 俺はYouTuberだぞ!? 全世界同時配信だぞ分かってんのか!? とっとと金出せよ金!」


 俺は店員にムリヤリレジを開けさせると、中の札束をガシッとワシづかみにしてコンビニを去っていった。




「本日の動画は以上となります! この動画が良いなと思った方は、チャンネル登録と高評価を是非よろしくお願い致します!

 チャンネル登録の後、ベルのマークの通知をオンにしていただければ最新の動画も見れますのでそちらもよろしくお願いします!

 こんな企画してくださいとか、コメントも何でもOKですのでお待ちしています!

 それではご視聴ありがとうございました!」


 走りながらで息が切れていたがそれでも締めの言葉は欠かさない。胸に固定していたスマホを取り出し画面を見ながらそう言い切った。




 帰宅後、早速動画をまともに編集しないまま「マックスありさわ コンビニ強盗してみた」をアップロードした。翌朝になって動画を見たが、当然「再生回数:0」だった。

 にしてもなぜYouTubeは削除しないんだろう? コンビニ強盗はもちろん、猫の蒸し焼きとか裸踊りも消されておかしくないのだが……。




 ブレブレの動画で何が起こっているのかサッパリ分からない動画だったが「俺がYouTubeに上げた動画はどんな内容だったとしても何もなかったことになる」のが重要で、

 これさえできれば俺の予想通りだと「コンビニ強盗自体が無かったことにされる」はずだ。その割にはコンビニから奪ったカネはあるのが不思議だよなぁ。




 コンビニ強盗から1夜明けた朝……昨夜押し入ったコンビニに向かうとコンビニ強盗犯に関する注意喚起は一切なく、またパトカーが停まってたり警察官による事情聴取が行われている様子も無かった。

 普通だったらコンビニ強盗が起こったことを伝えて「犯人に関する情報を求む」と宣伝しても良いのに。風評被害を恐れて公表しないのかな?


 自宅にはコンビニから奪った27万円と言う大金が眠っているし、財布にもその中の3万円が入ってる。

 今の俺は無敵だ。何だって買うことだって出来るんだが、本当に「俺がYouTubeに上げた動画はどんな内容だったとしても何もなかったことになる」のかが重要だった。




 コンビニに押し入ってから3日経った。強盗したコンビニに寄ってみるが強盗犯の目撃情報を募る張り紙はやはり1枚も無い。

 しびれを切らした俺は思い切ってコンビニの定員に聞いてみることにした。


「え!? コンビニ強盗!?」


 店員は「寝耳に水」と言わんばかりな声を上げていた。




「どこのコンビニかまでは覚えてないんが、この辺のコンビニで強盗があったそうだ。物騒な話だから気を付けた方が良いよ」

「そ、そうですか。分かりました」


 ……普通に会話が終わってしまった。やはりこの店で強盗したことそれ自体が無かった事になってるらしい。




 コンビニに押し入ってから1週間が経った。地元TV局のニュースにもならないし、警察がやってくる気配も無い。こうなったら……と俺はここ一帯の治安を守る近所の警察署に向かった。


「ふーむ……コンビニ強盗、ねぇ」

「ええまぁ。風の噂で聞いたので確かな情報じゃあないんですが、近くのコンビニで強盗事件が起きたとか起きないとかで。ちょっと不安なんで捜査に支障がない程度で教えてくれませんかね?」


 一般人を装ってそれとなくコンビニ強盗の話をしたら、警察官はすぐに調べてくれた。




「ふーむ……特にこの辺のコンビニが襲われた、っていうのは無いですね。少なくても被害届は出されてませんね」

「……被害届が出ていない?」


 それによると、そもそもこの辺でコンビニ強盗なんて聞いたことも無くて、被害届も受理されてないとの事だった。




 ……やっぱりだ。どういう理屈かは知らんが「俺がYouTubeにアップロードした動画の内容は無かったことにされる」らしい。

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