第15話 「マックスたなか」との「スネハーモニカ」動画
「……」
試験も終わり大学が夏休みになったが、俺にとってはこれっぽちも晴れやかな事ではなかった。
特に出かける場所も無いというのもあるし、何より動画が全く再生されない……ただの1再生すらされないのがキツい。
これまでに撮った動画全てを見ても、1回も再生されていなかった。完全に、非の打ち所がないくらいに、再生回数:0だ。
特に前回撮った「猫の蒸し焼きを作ってみた」だなんて動物愛護の点でガチアウトのはずなのに、YouTubeからも何も言われていないし警察も動いてないようだ。
動画の設定で検索されないのか調べても特に問題はなさそうだ。タイトルを打ち込めばきちんと検索されるから「検索避け」されているわけでもない。
何が問題なのだ? 何で誰も再生しないんだ?
悩んでいたところに、とあるゲームの広告が飛び込んできた。コラボ……?
あ……そうか! コラボだ! 何で気づかなかったんだろう!
その日、メールでめぼしいYouTuberと連絡を取り、その中から仲の良くなった相手とコラボの企画を持ちかけた。
具体的には動画撮影も編集も全部俺がやる代わりに俺のチャンネルに掲載する、というものだ。交渉は上手く行き、撮影のための準備が始まる。
8月になったばかりの頃、俺達は6人も入ったら満杯になる小さな会議スぺースを借りて、撮影を始めた。
幸いエアコンはしっかりと効いていて、夏の暑さとは無縁だった。
「はいどうもー! マックスありさわでーす!」
「はいどうもー! マックスたなかでーす!」
「さてさて今日は、ダブルマックスコラボ企画となっておりまーす! ダブルマックスコラボ企画と称して! スネハーモニカチャレンジ、行ってみたいと思います!
いやー、やってみたかったんですよねぇコレ! 早速やってみましょう!」
マックスたなかがそう言って俺達は準備に入る。
スネハーモニカ……ハーモニカを口にくわえた状態で、スネにいろんな物をぶつけて鳴らさないようにするというもの。とあるYouTuberが始めた人気企画だ。
「!? 何だお前、勃ってるのか!?」
「あーこれ? 4歳の頃からYouTubeに関わるとこうなるんだ。噂じゃモナリザの手を見て勃起した人もいるらしいからそれと似たようなもんだろ?」
「そ、そうか……変わった奴だなぁ」
「よく言われるよ。でも気にしないでくれ」
準備中、相手から指摘されたがいつもの事だ。慣れた口調で説明した上で俺は口にハーモニカをくわえ、更に簡単に外れないようゴムひもを使ってマスクするかのように耳とハーモニカを結ぶ。
会議室に備え付けのパイプ椅子に座り、足は半ズボンだったのでそのままでもスネが露出しているのでこれでいい。準備OKだ。
「じゃあ行きますよ。レベル1、割り箸!」
マックスたなかは割り箸を俺のスネにぶつける。
ぺちっ。
「……」
「クリアーです! まぁこのくらいは余裕ですよね」
まずは肩慣らし、割り箸でぺちっと叩くのはクリアーだ。
「次はレベル2、フォーク! 行ってみたいと思います」
フォークの「背」の方を俺のスネに叩きつける。
ぺちっ。
「……」
「これもクリアー、順調ですねぇ。……あっ」
その時、マックスたなかがあることを思いついたらしい。
「ありさわさん、もう一回フォークやっていいですかね?」
「……」
俺は余裕の表情で「何でも来い」と言いたげなジェスチャーをする。それを見たマックスたなかは……
ブスッ。
俺のスネにフォークを突き刺した。しかも力を込めて結構本気で。
「ファー♪」
「うはは! いい音が!」
こ、この野郎! そんなの聞いてないぞ! コイツ、こんなにあくどい事を考える奴だったのか!?
「ファー! ファファファーッ!!」
「ごめんごめん! もうやらないから!」
ったく……大丈夫かよ。絵的には美味しいから良いけどさぁ。
「次、レベル3。オタマ」
気を取り直して再開。今度はオタマだ。
ガッ!
「……」
「おおー、クリアーだよ。これ結構痛くないか?」
「……」
余裕だ。と言わんばかりの意思表示を身体を使って伝える。
「おおー、言うねえ。次、レベル4! 小豆バー!」
今度はアイスの中で最も固いと言われる小豆バーだ。
ガッ!
「……」
「おーすげー! これもクリアーだよ。次で最後だけどこれ全部クリアー出来るんじゃない? もし出来たら伝説なんだけど。行きます! ファイナルレベル、鍋!」
マックスたなかは直径8センチほどの小型の鍋を取り出し、俺のスネに叩きつけた。
パァン!
「ファー♪」
「あー、さすがにダメかー」
「ファー♪ ファー♪ ファー♪ ファー♪ ……トゥー♪」
「うはははは! トゥー♪ ってすごくいい音!」
マックスたなかにはウケたのか爆笑している。
「よーし、じゃあクリアー出来るまで挑戦しようか」
「ファーッ!?」
こ、コイツ! 思いつきで言っただろ!? 聞いてねえぞそんなの! よくよく考えたらまぁそっちの方が面白いから付き合うけどさ。
「じゃあ行きます。ファイナルレベル、鍋! ラウンド2!」
パァン!
「……ファー♪」
痛みに耐える為に、もだえてごまかそうとするが漏れてしまった。
「あー、耐えられなかったかー。漏れるように出たかー。んじゃ気を取り直して参りましょう、ファイナルレベル、鍋! ラウンド3!」
間髪入れずにラウンド3か。今度こそ、大丈夫……な、はず。
パァン!
「……」
さっきよりも激しくもだえるが、何とか我慢が出来た。
「おおーっ! クリアーしたよ! オールクリアー達成です! おめでとう!」
クリアーしたので俺はハーモニカを外して、野球で言う勝利投手のようにコメントを述べる。今までしゃべれなかったので、しゃべりたい気持ちは大いにある。
「視聴者の皆さん見ましたか? 無事クリアー出来ました!」
「コメントありがとうございます。結構強く叩いたんですけど大丈夫ですか?」
「実を言うとまだ痛いですね。じゃあ締めに参ります」
俺はお決まりの締めに入った。子供の頃からそうだったけど、ここだけはもはや暗記していてスラスラいえる。
「本日の動画は以上となりまーす! この動画が良いなと思った方は、チャンネル登録と高評価を是非よろしくお願い致します!
チャンネル登録の後、ベルのマークの通知をオンにしていただければ最新の動画も見れますのでそちらもよろしくお願いします。
こんな企画してくださいとか、コメントも何でもOKですのでお待ちしています!
それではご視聴ありがとうございました!」
マックスたなかが拍手する中、撮影を終えた。
「いやぁ、ありがとうございました」
「いえいえこちらこそ。俺もコラボ動画でスネハーモニカ動画作りたかったからちょうど良かったですよ」
「じゃあこちらで編集してアップロードするのでお待ちいただければなと思います」
「分かった。じゃあ後はよろしく頼むよ」
お互いにお礼を言って解散となった。
家に帰った後は全力の編集作業だ。夕方に帰ってきてから簡単な夕食しか摂らずに7時間かけての編集作業の末、動画を完成させる。
「今度こそ上手く行くといいんだけどなぁ……」
俺は期待を込めて出来た動画をアップロードする。
その翌日、YouTubeの管理画面を見てみると……。
『マックスありさわ ダブルマックスコラボ企画! 「マックスたなか」との「スネハーモニカ」動画』
再生回数:0




