表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
注目されないYouTuber  作者: あがつま ゆい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/19

第14話 猫の蒸し焼き作ってみた

 7月。梅雨が明けて辺りからセミの鳴き声が聞こえ始め、サークルの先輩や同僚たちが大学が夏休みになったら何をしようか? というのが話題に上がり始める時期。

 そんなカラッとした夏の太陽がさんさんと降り注ぐのが嫌味や皮肉に感じる位、俺の心には分厚い雲がかかっていた。




 ゲーム実況もダメ、炎上動画もダメ、捨て身の裸踊りをやってもダメ。

 普通の人間ならとっくにYouTuberを諦めているところだが、俺にとってはYouTuberは人生そのもの。

 それこそ4歳の幼稚園児の頃からずっとずっと、ずーーーーっとなりたかった職業ゆえに、何とか食らいつきたかった。




「……」


 ふと、大学の中庭に目を向けると4月の頃子猫を撮影した時にいた、母猫がいた。一点の曇りも無く真っ白な猫で、飼い猫だったら「ユキ」という名前が与えられていそうな白猫だ。

 子供は巣立ったのだろうか彼女1匹しかいなかったのを見た瞬間、ピシッと話が思いついた。


 ……ここまで来たら、やるしかねぇ。裸踊りや炎上動画だって撮ったんだ。今更新たに炎上動画を追加で配信したところでどうだというのだ?

 後日、俺は猫用おやつとキャリーケースを使いその母猫を捕獲し、自宅へと連れ帰り撮影を開始する。やってやるぜ、俺は!




「はいどうもー、マックスありさわでーす。今日は猫の蒸し焼きを作りたいと思いまーす」


 猫の蒸し焼き……? 何を言っているんだお前は? と思う視聴者もいるだろう。まずはつかみはOKだ。


「まずは材料ですね。ハイ、猫ちゃんになりまーす!」


 そう言ってキャリーケースから猫を取り出す。飼い猫だったら「ユキ」という名前が与えられそうな白猫だ。

 猫が出て来た直後、俺は金属バットを持って構えた。




「まずは下ごしらえをしましょう……カッキーーーン! ホームラーン!」

「ギニ゛ャ゛ッ!」


 金属バットのフルスイングで猫を殴った。金属の塊と何か重いものがぶつかる鈍い音が響く。金属バットをふるう両手にはずっしりと重たい感触が伝わる。

 真っ白い毛が赤く染まる事は無かったが猫の叫び声が辺りにこだまする。その全てを克明にカメラは記録し続けていた。


「ヒット! ヒット! ヒット! 2ベース!」


 そう言いながら猫を金属バットで殴り続ける。最初は反抗していたが次第にぐったりとした様子になり怒りから怯え、恐怖の表情へと変わっていく。




「ミ……ミィイ……」


 暴れる気力さえ湧いてこないのか声を出すのもやっとにまで衰弱した猫を、俺はフライパンの上に乗せる。そして蓋で押さえつけ、ガスコンロの火をつける。


「ギ……ギニャ、ギニャ、ギニャ……」


 もはや逃げ出そうとする気力さえ湧いてこないのか、フライパンの上で焼かれることになっても抵抗しない。

 白猫は加熱されるとともに静かに目をつぶり、息絶えた。




 俺はそれを特に気にせず、蒸し焼きと言ったからには、と水を加えて蒸し焼きにする。しばらくして……。


「はーい。『じょうずにやけました~!』猫の蒸し焼きの完成でーす!」


 ふたを開けた瞬間に凄まじい程の獣の臭いに加え、フンの臭いや血の臭いが混じった「不愉快の極み」とでも言うべき悪臭があふれ出ていた。

 自殺した人間を見ると「反射的に身を引いてしまう」恐怖があるそうなのだが、それと似たような雰囲気はこの猫から漂っていた。


「うわ臭っせぇ! なんだこれ!? 猫ってここまで臭かったの!?

 うーん、実食なんてしたくないですねぇ……毛だらけで食うのも苦労するし。それにタイトルで『作ってみた』って言ってるんで『食べてみた』とは一言も言ってないんでこのままゴミ箱に捨てても良いですよね」


 そう言って俺は調理した猫をビニール袋に包んで捨てた。そして何事も無かったかのように締めのコメントに入った。




「この動画が良いなと思った方は、チャンネル登録と高評価を是非よろしくお願い致します!

 チャンネル登録の後、ベルのマークの通知をオンにしていただければ最新の動画も見れますのでそちらもよろしくお願いしまーす!

 こんな企画してくださいとか、コメントも何でもOKですのでお待ちしています!

 それではご視聴ありがとうございました!」


 そう言って、カメラを止める……やった、やり切った。

「猫を蒸し焼きにする」という過激な動画を撮った。これなら誰かは見てくれるはず。そんな期待を込めて編集作業を始めた。




 最初の頃に比べれば編集作業の技術はだいぶ上がっている。簡略化はもちろんよりゴージャスに、より高度な編集が出来るようになっていた。

 6時間かけて編集を終え、終わったころには夜の10時を過ぎていた。いやぁ、働いたもんだなぁ。

 動画をアップロードし、眠りについた。




 翌朝、パソコンを立ち上げ動画の再生具合を見ると……


『マックスありさわ 猫の蒸し焼きを作ってみた』

再生回数:0


「……」


 これですら、0だった。YouTubeに何か問題があるわけでもない。動画はきちんとアップロードされているはずだ。それなのに何で誰も再生してくれないんだ?

 俺にはサッパリ分からなかった。というか、こんな動物虐待動画を天下のYouTubeが許すわけがない。アカウントごと吹っ飛んでもおかしくないというのに……。




◇◇◇




 今日も大学で授業が始まる。もうすぐ夏休みという時期だったがそんなのどうでもいい、と思えるくらいにふさぎ込んでいたこの時の有沢は気づいていなかった。

 大学中庭の草むらに「猫がいた」のだがその猫は「先日金属バットで殴って蒸し焼きにした猫と『同一の存在』」だというのを。

 死んだという事を「無かったことにされた」それ以前に「連れ去られたのを無かったことにされた」というのに、気付いていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ