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赤さびの魔女  作者: うめやす.
4章_ドラゴンを狩る魔女
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第五十九話 おかえり

もう深夜になろうという頃、二人の前に組合の建物が見えてきた


「もう少しですよ、ナル」

「今日はナルもわたくしも、限界近くまで魔力を消耗しています」

「集中を切らさないようにしてください」


「やっと帰ってきたよー」

「早くお風呂に入りたい」

「今日はたくさん汗をかいたから、気持ちわる~い」


「本当ですね」

「まずはお風呂に入りましょう」

「部屋に灯りがついています」

「ミナはまだ起きているようですね」


「きっと、わたしたちが急に帰ってきたら驚くよ!」


「そうですね」


「夜も遅いですから、できるだけ静かに降り立ちましょう」


二人は音を立てないよう、そっとテラスへ降り立った


掃き出し窓には白いカーテンが掛かり、その隙間から灯りが漏れている


リンが窓を開けようとしたところで、何かに気づいて手を止めた


「おかしいですね……」


「どうしたの?」


「話し声がします」

「ミナ以外に、誰かいるのでしょうか」


「え? 誰かって誰よ」


「まさか……あの虫」


「虫って、あの男!?」

「ミナがわたしたちの留守中に男を連れ込んでるの!?」


「まさか……そんなことをミナがするはずはありません」

「しかし、ことは慎重に進めましょう」

「まずは気づかれないように、誰といるのか確認するのです」


「うん……そうだよね」


ナルの喉が鳴った


「もしも、あの男と一緒だったら、どうする?」


「もはやこれまで、力で解決するしかありません」

「ミナが身構える前に、二人がかりで無力化します」

「ナルは悪食を最大まで広げて、可能なら砂で身動きも封じてください」

「その瞬間の隙を、わたくしが突きます」

「ミナを無力化したあと、虫を潰して始末します」

「あとはミナの記憶を消して、なにごともなかったことにします」


「わかった、それしかないね」


二人は恐る恐る、カーテンの隙間から中を覗き込んだ


すぐに、食卓に座るミナの姿が見えた


楽しそうに何かを話している


角度のせいで、話し相手の姿は見えない


それでも、誰かと一緒にいることは間違いなかった


ナルが小さくつぶやく


「アカ、出ておいで」


使い魔のアカが、ナルの左腕に巻きつくように現れた


そして窓の向こう側へ、鏡のような板を作り出す


そこへミナの話し相手が映り込んだ


ナルとリンは、驚いて目を見開いた


いつもナルとリンが座る二脚の椅子に、それぞれ人間ほどの大きさの人形が座っている


食卓の上では、ムギが丸くなって眠っていた


「なにあれ……人形?」


「そのようですね」

「ミナの魔法で、小さな光の箱を組み合わせて作ったのでしょうか」


「じゃあ、ミナは何をしてるの?」

「人形に話しかけてるってこと?」


「そのようですね……」


ナルはアカの魔法でメガホンを二つ作り出した


それをリンに一つ手渡す


「これを窓ガラスにつけて耳を当てれば、声が聞こえるかも」


ナルとリンは、メガホンの先を窓ガラスへ押し当てた


「それでね、今日はエビの揚げ物をどこかに落としちゃってさ」


聞こえた! ミナの声だ


今日あった出来事を、延々と人形に向かって話しているようだった


「ナルも今度一緒に行こうよ」


名前を呼ばれ、ナルの目がぴくりと反応する


「リンもたまには一緒に外食へ行こうよ」


リンも名前を呼ばれ、目がぴくりと反応した


「あの人形は、わたくしたちの代わり?」


「どうしたんだろう、ミナ……」

「一人で変な人形を相手にずっと話してる」

「なんか怖いよ……」


リンは人形を見つめたまま、口を開く


「いずれにしても、最悪のケースではないようです」

「少し不安ですが、中に入りましょうか」


その時、途切れることなく話をしていたミナの声が止まった


そして、すすり泣く声が聞こえてきた


ナルが戸惑ったようにリンを見る


「今度は、泣きだしたよ……」


「泣いていますね……」

「ナル、ことの事情が分かるまで、ミナを刺激しないように気を付けましょう」

「優しく、穏やかに、割れ物を扱うように接するのです」


「うん、分かった」


二人は掃き出し窓の前に立つ


互いに顔を見合わせ、頷いた


ナルが窓を引き開け、部屋の中へ入っていく


「ただいまー」


ミナがびくっと身体を震わせ、ゆっくりと振り返った


その顔は、涙でくしゃくしゃになっている


ミナはナルを見たまま固まった


ナルは満面の笑みを浮かべ、できるだけ明るい声で話しかける


「思ったよりも早く終わってさ~」

「今帰ったよー」


遅れてリンも部屋へ入る


優しい微笑みを浮かべ、穏やかにミナへ声をかけた


「ミナ、ただいま戻りました」

「変わりはありませんでしたか?」


ミナは目だけを動かし、リンを見た


それでも、固まったまま何も答えない


ナルが不安そうに尋ねる


「あの……ミナ、大丈夫?」


ミナがゆっくりと立ち上がる


よく見ると、ミナはリンのネグリジェの上に、ナルの上着を羽織っていた


のろのろと二人の方に歩み寄ってくる


そしてナルにゆっくりと腕を回して抱き着いた


「ミ、ミナ? どうしたの? なにかあったの?」


ミナは鼻をすりつけるようにして、ナルの匂いを嗅ぎ始めた


「ナルだ~」

「ナルの匂いだ~」


「ちょっと!」

「今のわたしは臭いって」

「嗅がないでよ」


「やだよ」

「久しぶりなんだから、たくさん嗅ぐもんね」


リンは驚いたようにミナを見つめていた

そして、ようやく答えにたどり着く


まさか……

わたくしたちがいなくて、寂しかった?


リンは胸元から香水の小瓶を取り出し、自分にひと吹きした


シュッ


それにナルが気づく


「あ! 自分だけ香水つけた!」

「ずるいよ! リンだって臭いくせに!」


ミナはナルに抱きついたまま、リンの方へにじり寄る


そしてリンの身体にも腕を回した


「リンの匂いだ~」

「本物の二人の匂いだ~」


リンはミナの髪を優しく撫でる


「一人にして、すみませんでした」

「寂しかったのですか?」


ミナはリンの胸へ甘えるように顔を押し当てた


「うん」

「もう、こういうのなしにしてね」

「でないとユアンの家に泊まっちゃうよ」


またミナはじっくりとナルの匂いを嗅ぐ


「ほんとだ、汗臭いね」


「ちょっと嗅がないでよ、お風呂入ってくるから」


「わたし、汗臭いナルの匂いも好きだよ」


「なによそれ! どういう趣味よ、いい加減に離れなさい」


「やだー」


その様子を見て、リンが優しく微笑む


「仕方がない子ですね」

「一緒にお風呂にはいりましょうか」

「今日はわたくしのベッドで三人で寝ましょう」

「ミナは真ん中に寝なさい」


「うん、でももう少しこのままがいいな」

「今のナルって匂いが強くて落ちつくの」


「やめてよ! くさいでしょ、先にお風呂入らせてよ」


「もうすこし~」


ミナはしばらく二人を離してくれなかった


その夜、三人は一緒に風呂へ入り


同じベッドで眠った


今日のミナは、ひどく甘えん坊だった




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