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赤さびの魔女  作者: うめやす.
4章_ドラゴンを狩る魔女
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第五十五話 ナル、魔女の決意 2

扉から出ると、そこは中庭だった


そこには大きな翼が付いた円形のテラスがあり


その中心にはテーブルと椅子が3つ置いてあった


テラスの上には小さなキッチンがある


そこには料理人が1人、その前には女性のメイドが1人立っていた


ナルが不思議そうに聞く


「なんで翼がついてるの?」


リンも翼を見上げて言った


「珍しいテラスですね……立派な翼がついています」


レアルが軽く手を広げた


「乗り心地は、保証するよ」

「さあ、こちらへ」


レアルはテラスのテーブルまで二人を案内し


椅子を引いてリンを座らせる


すぐにナルの椅子も引いてナルを座らせた


そして自分も席につく


「最初、少しだけ揺れるよ」

「上空に上がれば安定するから、心配しないで欲しい」


レアルがパチンと指をならす


すると辺りに緑の魔法の風が巻き起こり始めた


テラスは静かに上に浮き始めた


ナルがびっくりする


「えええ! ひょっとしてこれ全部飛ばすの!?」


「私の魔法は宙に浮かせることが得意なのでね」

「夜の空中散歩も、たまには悪くないよ」


テラスは風に乗って空高く舞い上がる


やがてレアルの屋敷が豆粒ほどの大きさになったあたりで上昇を止めた


かなりの速度で飛行しているのに


テラスには柔らかい風だけが静かに流れている


よくみるとテラス全体がレアルの風の魔法で守られていた


ナルは身を乗り出すようにして、夜空を見上げた


その瞳に、星明かりがきらきらと映っている


「うわー! すごいー! 360度、満天の星空だよ~!」


レアルが少しだけ満足げに目を細めた


「気に入ってもらえたかね?」


ナルは大きくうなずいた


「うん! すごいじゃんレアル」

「これ、今まで見た景色で一番かも!」


リンは星空ではなく、テラス全体を見回して言った


「ずいぶんと大がかりなものを作りましたね」

「あなたのことです、女性を合理的に口説き落とすために用意したのでしょう」

「わたくしたちは何人目ですか?」


「意地悪な質問をするね」

「もちろん、これに女性を乗せて飛ばすのは初めてだよ」

「目当ての女性のために作ったのでね」

「だが、いかんせん、その女性はガードが固い」

「ようやく隙を見つけ、誘い出せたので出番が来たということだ」


ナルがレアルの発言に反応する


「え、それってどういう意味?」


リンがレアルを遮るように言った


「わたくしが知らないとでも思っているんですか?」

「はやく食事にしてください」

「ナルもお腹が空いているでしょう」


「あ、うん、ペコペコ~、悪食が出てきちゃいそうだよ」


レアルが少し眉を上げた


「出る? そういうものなのか?」

「それは勘弁してほしいところだね」


レアルが手を小さく上げる


待機していた料理人とメイドがすぐに動き出した


銀の滑車に載せられた料理が次々と現れ、ナルの目がみるみる輝いていく


「今日はナルもいるのでね、料理を並べ、好きに食べられるよう手配した」

「またリンと二人きりの時には、自慢のコース料理を披露するよ」


リンはすぐに言い返した


「お気遣いなく」

「わたくしはコブ付きなので、二人きりはありませんよ」


ナルがその料理の一つをみて声を上げた


「これ! からあげじゃん!」


そこにあったのは確かにからあげだった


ナルの大好物だった


レアルが少し満足げに説明した


「ナルが好きだと聞いてね、用意したよ」

「そちらにチキンカツもある」


「すごい! ありがとう!」


ナルは早速からあげを一つとって口に入れた


「んー! これこれ!」

「下味がしっかりしてて、今まで食べたもので一番おいしいかも」


レアルは料理人の方を見て言った


「あそこにいる料理人は私の数少ない自慢の一つでね」

「どの料理も美味しいよ、どんどん食べなさい」


「うん!」


リンもからあげを一つとり、ナイフで切ってフォークで口に運ぶ


「とても美味ですね」

「ただ、少し油が多いようです」

「ナル、5個までですよ」


「ええー、からあげにまでそういうこと言うの?」

「いいじゃんか、普段は食べてないんだから」


「言っておかないとあなたはいくらでも食べてしまうでしょう」

「自分で自制できるようになりなさい」


レアルが少しだけ楽しそうに口を挟んだ


「今日くらいは大目に見てもよいのではないかね」

「ナルは随分と働いてくれた」

「ご褒美として、からあげを少し多めに食べるくらいは許されるだろう」


ナルはぱっと顔を輝かせた


「ほら! レアルは分かってる!」


「分かっていません」


リンはすぐに切り返した


「あなたを甘やかせば、からあげを山ほど食べるでしょう」


「それはそれで見てみたい気もするがね」

「料理人には、追加で揚げるよう伝えてある」


「レアル! 好き!」


リンが呆れたようにナルを見る


「あなた、食べ物で懐くクセが抜けませんね」


ナルはからあげを頬張りながら、リンとレアルを見比べた


「でもさ、わたし、レアルだったら賛成だな」

「リンと結婚すればいいのに」


リンの手がぴたりと止まった


その声が一段低くなる


「ナル」


レアルはその言葉を聞いて、珍しく上機嫌に笑った


「ナルはよく分かっているね」


そう言って、レアルはテーブルの脇に置かれていた小箱をナルの前に差し出した


中には、七色に光る至高の飴玉がぎっしりと詰まっていた


ナルの目が輝く


「おお! 真・至高の飴玉がこんなに!」

「これ、全部くれるの!?」


「もちろんだ」

「よく分かっている子には、正当な報酬を与えねばならない」


リンは低い声で言った


「ナルを買収しないでください」

「そして、ナルも買収されないでください」


「されるよ!」

「だって至高の飴だよ!?」


レアルは小さく笑った


「リンは少し自制しすぎではないのかね」

「君と飲もうと思って用意したものがある」


メイドがまた銀の滑車を押してこちらへ来た


その上には、赤ワインとワイングラスが二つ乗っていた


メイドはリンとレアルの前にワイングラスを置き


慣れた手つきで赤ワインを開けようとする


だが、その手をレアルが静かに止めた


「私がやろう」


メイドは小さく頭を下げ、後ろへ下がった


レアルはワインの瓶を手に取る


ラベルをリンの方へ向けるようにしてから、ゆっくりとコルクを抜いた


そして、まずリンのグラスに注ぎ始めた


リンはワインのラベルを見ていた


そして、呆れたようにため息をついた


「わたくしの故郷の、わたくしが生まれた年のワインですか……」


「君と飲むために手に入れておいたのだよ」

「もう飲むのは、半ば諦めていたのだがね」


「その辺の小娘じゃあるまいし、そんなものでわたくしの心は動きませんよ」

「いい加減に諦めなさい、わたくしに期待しても無駄です」


レアルは自分のグラスにもワインを注ぐ


「心が動いたとしても、君が表に出すはずもない」

「ならば、やるだけやったほうがよいではないか」


ナルはチキンカツをムシャムシャ食べながら、向かい合うリンとレアルを見比べた


「わたし……邪魔っぽくない?」


「いいえ、あなたは邪魔ではありません」

「あなたがいるから、わたくしは安心してここに座れるのです」

「レアルと二人だと、ついうっかり、このよく動く舌を引き抜いてしまうかもしれません」

「どこかの女で練習したものを、わたくし相手に披露しないでください」


レアルは苦笑した


「心外だね、私はただ君に喜んで貰いたいだけだ」


リンとレアルは右手でグラスを持つ


軽くグラスを掲げ合ってから、一口飲んだ


リンが小さく漏らした


「おいしい……」

「よくこんな状態のものが残っていましたね」


レアルは静かに答えた


「ずっと我が家の蔵で大事に貯蔵していたものだ」

「まだ、同じ物が9本ある」

「今日は3本持ってきているよ」


「呆れた人ですね、いったいいつから準備していたんです?」


レアルは当然のように答えた


「君と出会ってすぐからだよ」


リンはまたワインを一口飲んだ


「その執念深さだけは買いますよ」


ナルが興味深そうに二人のやり取りを聞いている


「さっきから……なんか変だよね」

「リンとレアルって、元々なんかあるの?」

「わたしにも教えてよ」


「大人の話に、子供が興味を持つものではありません」


「なによそれ、わたしそんなに子供じゃないからね」


その時、机の下に動くものがあった


ナルの赤い砂だった


それがリンの方へ向かい、こっそりと青い小瓶を抜き取ろうとしていた


リンは視線を動かさずに言った


「飴玉を卒業してから言ってください」


ナルは何食わぬ顔で言い返す


「飴玉は大人だって食べるわよ」


赤い砂がリンの懐に潜り込もうとしたその時


その砂は、リンの魔法の水に包み込まれた


リンは小さく微笑んでその水球を持ち上げてナルに見せる


「そんな手は通用しませんよ」

「最近手癖が悪くなりましたね」

「こういうことはおやめなさい」


「えー、なんでわかったの~」


「あなたのやることなどお見通しです」

「罰として1週間、飴玉禁止です」


「そんなぁ~」


それから、三人はゆっくりと食事を楽しんだ


ナルは次から次へと皿を空にし


料理人が驚いて慌てて追加の料理を作る


ナルが箸休めにリンとレアルを見ると


ワインを飲みながら、各々の仕事の話や相談などをしていた


特段変わった様子はない


だが、お酒のせいか


いつもよりリンの顔が楽し気で


少し頬が赤く見えた気がした


やがてナルが満腹になり


ワインも空になった頃……


リンがナルに声をかけた


「ナル」




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