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赤さびの魔女  作者: うめやす.
4章_ドラゴンを狩る魔女
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第五十四話 レアルの流儀 2

そこは露天風呂だった、今日は天気がよく雲一つない


空を埋め尽くすような星空が広がっていた


「うわー! 見てよリン、星がすごいよく見える」


「ここは王都と比べて街の明かりが少なく、空気が澄んでいます」

「それに今夜は新月です、幸運でしたね」


二人は服を脱いで洗い場で体を洗い始めた


「リン、頭洗ってよ~」


「わかっていますよ」


「これこれ、気持ちいい~」


リンは水の魔法でナルの髪を洗い始めた


少しして、魔法で髪を洗い終わるとナルが言った


「リン、背中流すよ」


そう言って、手慣れた様子でナルがリンの背中を洗い始めた


最近は毎日のように二人でお風呂に入っていた


ナルが髪を洗って欲しいから、リンと一緒に入りたがるのだ


リンもそう悪い気持ちではなかった


ナルがリンの背中を洗いながら言った


「レアルってあんな感じの人だったんだね」

「ほんと人使いがあらいよ」


「あら、でもおかげで手早く終わったじゃないですか」

「これなら、思ったよりも早くミナの所へ帰れそうです」

「レアルには感謝しなければいけませんね」


ナルが後ろからうかがうようにリンの横顔を見た


「なんか……らしくないんだよね……」


「なにがです?」


「相手が男だと、俗物とか、ありきたりな男とか、虫とか言うのがリンじゃん」

「レアルに対してだけ……変だよね」


「またあなたはそんなことを」

「言ったでしょう、俗物ではないというだけです」


「ふーん」


ナルの小さな赤い砂の塊が、脱衣所からナルの方へ飛んでくる


それからナルはリンの右肩をトントンと叩いた


「ねえ、リン、ちょっとこっちむいて」


それにつられてリンが振り向くと鼻先にナルが持っている何かが当たる


ナルの顔がにやりと笑う


その手には青い小瓶が握られていた


リンがいつも持ち歩いている正直者になれる薬


それをリンは吸い込んでしまった


リンの目が虚ろなものへ変わった


ナルが嬉しそうにリンに尋ねた


「レアルのこと、本当はどう思ってるの?」


「実直で誠実な奇異な男性です」

「昔、プロポーズされたことがあります」

「その時に、彼はいつまでも待つと言っていました」

「昨日、レアルに言われました」

「君の白髪が見たいと……」

「不覚にも少しときめいてしまって……」

「そんなことを言ってくれるのは、レアルだけでしょう」

「彼の髪に、白髪が増えているのを見ました」

「それでも彼は……若い頃の言葉を守り……わたくしを、待ってくれているのです」

「その白髪は、これからも少しずつ増えていく……」

「その隣に、わたくしがいるのも……悪くないのでは……」

「そう、思ってしまいました」


リンの目が正気に戻る


そしてすぐに立ち上がってナルに向き直った


なんら隠しもしない怒りが顔に出ていた


「なんてことをするのです!」

「今度という今度は、許しませんよ!」


「リンだっていつもやってることじゃん」

「てか、レアルと昔に浮いた話があったのね」

「ずっとリンが振り向いてくれるのを待ってるってこと?」

「いい加減に振り向いてあげなよ、可哀そうじゃん」


「余計なお世話です!」

「子供が大人の話に首を突っ込むんじゃありません」


「リンだって子供の話に首突っ込むんだから、お互い様でしょ」

「レアルだったら、わたしは賛成だよ」

「今日は二人でディナーに行ってきなよ」

「お邪魔虫は退散するからさ~」


リンが脱衣所の方をチラリとみた


ナルはそれを見逃さない


「これ、な~んだ?」


「あ……あなた……」


ナルの手には小瓶が六つあった


それは、リンが隠し持っているすべての瓶だった


ナルはダメ押しとばかりに


風呂場を悪食の光で包み込んだ


ナルはリンの声真似をして言った


「うかつですよ、リン」


リンが怒りの表情を隠しもせずに歯ぎしりする


しばらく手を握りしめてナルを睨んでいた


それから、ふっと力を抜くようにリンの表情が和らぐ


「わかりました、わたくしの負けです」

「早く湯船に浸かりましょう」

「ナルもお腹が空いたでしょう」


「にひひ、リンに勝っちゃった」


「完敗ですよ」


そう言って、二人は湯船に浸かる


今日一日疲れた体に染み渡る気がした


「気持ちいい~」


「これ、温泉ですね」

「こんなところに温泉は湧かないはず……」

「わざわざ運んできたということでしょうか」


「えーすごいね、わたしたちのためにかな?」


「恐らくそうでしょうね」

「あの合理主義者が、こんな贅沢をしているはずがありません」


ナルがからかうように言った


「さすが、リンの好きな人だね~」


リンが陽気に答えた


「やめてくださいな、照れるじゃないですか」

「ところで、悪食の光は消さないのですか?」

「どうも落ち着きませんよ」


「消すわけないじゃん」

「リンがなにするか分からないでしょ」


湯船から暖かげな湯気が出ている


ナルはお湯のなかで体を伸ばす


本当に気持ちがいい……


肩まで浸かり空を見る


「疲れが抜けるね~」


リンが微笑みを浮かべる


「ええ、そうですね」

「今日は少しだけ長湯しちゃいましょうか」


しばらく、ゆったりとした時間が過ぎる



すると、リンが微笑みを浮かべたまま目だけでナルを見た


そして、ナルの目を盗むように、音もなくリンが湯船に沈み込んでいく


リンは完全に湯船に潜り、魚のように静かにナルに近づく


そして、ナルの右足首を咥えるように口に当てた


次の瞬間


バチッ


鋭い電気の音が鳴り響いた


ナルは痙攣するように震え、そのまま気を失った


悪食の紫の光も、同時に消える


静かに水中からリンが出てきた


ナルを抱き寄せてから言う


「まったく……どんどんたちが悪くなっていく気がしますね」


リンはナルに取られていた瓶の中から黒い瓶を取り、ナルの口に差し込む


コクコクとナルに中身が入っていく


そしてリンは言った


「わたくしが先ほど話をした、レアルについてのことを忘れなさい」


ナルの記憶が、また闇に葬られた


リンに生まれた、レアルへの淡い想い


その秘密もまた、リンの勝利によって、守られたのだ




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