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赤さびの魔女  作者: うめやす.
4章_ドラゴンを狩る魔女
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第五十四話 レアルの流儀 1 

翌朝になるとレアルの屋敷の前は人でごったかえしていた


レアルは昨日のうちに能力検査を受けていない領民を徹底的に集めた


馬車と配下の兵士を総動員し


早朝にはすでに最初の一群が屋敷の周辺に集まっていた


その光景を屋敷のテラスからナルが見下ろしている


起きたばかりで、まだ寝巻きの白いネグリジェを着ていた


「うわー! なにあれ、人がたくさん集まってる」


リンがそんなナルに注意する


「そんな格好で覗き込んではいけません」

「こちらに来なさい、髪を整えます」

「今日は忙しくなりますよ」


ナルは軽い足取りでテラスから部屋に戻る


「レアルって実はすごい人なの?」

「昨日の今日でもうこんなに集めちゃうなんて」


「ええ、レアルは実力者です」

「仕事にしか興味がないような人です」


ナルはリンの前の椅子に座った


リンはナルの髪を丁寧に櫛でとかしはじめた


ナルが嬉しそうに言う


「わたしレアルのこと好きだよ、飴くれるし、真面目だし、実は優しいし、頑張ってるって感じがするもん」


「あなたは……まだ食べ物をくれると懐くクセが抜けていないようですね」


「それにさ、レアルだけだもんね」


「なにがです?」


「えー、気づいてないの?」

「リンが悪く言わない男ってレアルだけなんだよね」

「他は何かしら悪く言うのにさ、レアルのことだけは、むしろ褒めるの」


髪をとかす手の動きが一瞬止まる


それからすぐにまた動き出した


「彼は実力者です、一緒に仕事もしています」

「俗物ではないというだけですよ」

「そういえば、ディナーに誘われています」

「今夜はレアルと夕食を食べますよ」


「誘われたの? よかったじゃん」

「レアルも独身だよね、わたし賛成するよ」


「なにか誤解していますね、あなたも来るのです」


「えー……わたし邪魔じゃん」


「なにを勘違いしているのです」

「わたくしとレアルはそんな間柄ではありません」


「ふーん、そうなんだ、ちょっと残念かな」


「なにが残念ですか、大人をからかうものではありません」


「からかってるわけじゃないよ」

「リンだって、そういうことがもう一回くらいあっても良いんじゃない?」


「え?」


「ずっとアルのこと引きずってきたんでしょ?」

「でも、それも一区切りついたはずじゃん」

「だったら新しい恋だって、してもいいと思うのよね」

「相手がレアルなら、わたしも安心なんだけどな~」


「あなたね……わたくしを何歳だと思っているのです」

「今更そんなものに興味などありませんよ」


「リンって何歳なの?」


「永遠の二十歳ですよ」


「二十歳なら恋くらいするんじゃないの?」


「揚げ足をとるんじゃありません」


リンは櫛を置いてナルの肩を軽くたたいた


「はい、今日は忙しいですよ」

「着替えてきなさい、すぐに出ます」


「はーい」


ナルは立ち上がりいそいそと着替え始めた


準備が整うと二人は部屋を出て屋敷の入り口へ向かう


入口のあるホールにたどりつくと、すでにレアルが準備万端で待ち受けていた


ロープで誘導路が作られ、人が整然と並んでいた


幕で仕切られたスペースが二つあり、それぞれに椅子が一つずつ置かれていた


その前には大きな机があり、水差しとコップが用意されている


そして片方の机にだけ、飴玉の箱が小さな山となって置いてあった


ナルは迷いもせずに自分の席に向かう


それを見て小さくため息をついたあと、リンも席へ向かった


ナルは席につくとすぐに飴玉の箱を一つ取り、開ける


そして飴を一つつまんで口に入れた


「お、ラズベリー味だ」

「もう改良したんだ、さすがレアル、仕事はやいじゃん」


席の前には屈強な男が二人待機していた


ナルとリンの席の中心に踏み台が置いてあった


そこに、レアルが立った


「これより、能力検査を始める」

「皆、係員の指示に従うように!」

「はじめ!」


するとナルの前にいた屈強な男二人が参加者を誘導し始めた


ナルの前に最初の人が歩いてきた


若い男性だった


「これからわたしが……」


ナルが検査について説明しようとした時、待ったがかかる


屈強な男の一人が言った


「説明は不要です、事前に伝えてあります」

「ナルさまは素早く貸与をかけてください」


「へ、そうなの?」

「わかったよ」


そう言われてナルは貸与をかけた


すると即座に屈強な男が男性をナルから引きはがすように連れて行く


そしてもう一人の屈強な男が次の人を連れてきた


それから流れ作業で次々と検査が行われる


目が回るくらいに大勢の人がナルの前に現れ、すぐに連れていかれる


なんだかすごい速さ……目が回りそう


そうナルは思った


その時、踏み台の上のレアルが喝を入れる


「1人7秒も掛かっている! 急げ! 5秒にしろ」

「今日中にこの会場で2000名! 3時間で片づけるぞ」


場内のレアルの部下が声をあげた


「オオ!!」


ナルが驚いて声を上げた


「ええええ!まだ遅いの!?」


その後三時間と少し、ナルは怒涛のごとく流れてくる人に貸与をかけ続けた


飴玉を食べる余裕すらない


ようやく終わったころには、ナルは精も根も尽き果てていた


自分の席で机に体を倒してぐったりしているとリンが歩いてきた


リンも疲れた顔をしていた、ナルと同じ目にあったのだろう


「ナル、大丈夫ですか?」


ナルはリンが座れるように赤い砂で椅子を作った


それにリンは座って一息ついた


「疲れた……レアルって人使いが荒くない?」


「まったくですね、効率しか考えていません」

「しかし、これで一気にレアルの領地での検査は終わったでしょう」


するとレアルがつかつかと早歩きで二人の前に歩いてくる


「ご苦労さま、では次の会場に行くよ」


二人があっけにとられて声が重なる


「は?」

「は?」


「周辺の領主にもまとめて領民を集めさせてある」

「すこし時間が押している、急がねばならん」


ナルが戸惑いながら言う


「これで終わりじゃないの……」


「なにを言ってる、今日中に国の北側三分の一を終わらせる」

「あと3会場あるのだ、行くぞ、ついてきなさい」


すると風がふわりと広がりレアルは飛び上がった


リンがため息をついて立ち上がる


「まさかここまで手配してくるとは思いませんでした」

「あの男は仕事バカなのです」

「行きましょうか……」


リンが水をはじけさせて飛び上がった


「そんなぁ~」


少し肩を落とした後にナルは思い出した


わたしが言い出したことだもんね


そして、飴玉を一気に四個つかんで口の中に放りこんだ


「女は気合よ! 何万人でもやってやるわよ!」


赤い砂をはじけさせてナルも飛び上がった


それから二人は


第二会場で1500名

第三会場で1300名

第四会場で1600名


最初の会場も含めて

おおよそ5000名の能力検査を一日で終了した


夜遅く、ようやくナルとリンはレアルの屋敷に帰り着く


ナルは帰り着くと、待合室のソファーに倒れ込んでぐったりしていた


リンもその横の椅子に崩れ落ちるように座っている


つかつかとレアルが歩いてきた


レアルも今日一日働きづめだったはずだが


顔色一つ変わった様子がなかった


「二人とも、ご苦労様」

「予定よりも時間が掛かってしまった、すまなかったね」


リンがすっと姿勢を正し、いつもの調子で言った


「これだけ早く終わらせたのに、まだ納得していないのですか」

「このようなものはデスマーチと呼ぶのです」

「よくあなたに部下がついてくるものです」


「私は可能なことしかやらせないからね」

「君たちならできる、だからやらせた、それだけだよ」

「現に達成できたではないか」


「呆れた人ですね」

「あなたが独身の理由がようやく理解できた気がします」


「お褒めにあずかり光栄だよ」

「湯船を用意してある、疲れを抜いてくるといい」

「君たちが入浴している間に、ディナーを準備しよう」


「お言葉に甘えるとしますか」

「ナル、まずはお風呂に入ってきましょう」


ぐうううう


ナルのお腹が大きく鳴った


「おなか空いた~」

「先にご飯食べたいよ~」

「今日って簡単なサンドイッチしか食べさせてもらってないんだもん」


するとレアルがナルに手を差し出した


「ディナーの支度に少し時間が必要なのだ」

「それまではこれを食べていなさい」


ナルも手を差し出すと、その手に三つの七色の飴玉が置かれていた


「至高の飴をさらに進化させ、七つの味の変化が楽しめるようにした一品だよ」


さきほどまでが嘘のようにナルは元気に立ち上がる


「おおお!至高の飴!しかも進化!」

「お風呂はいってきまーす!」

「レアル、美味しいごはんおねがいね~」


「承知した」

「着替えはお持ちだろうが、こちらでも用意してある、よければ使ってくれ」


リンがナルに少し遅れて歩き出す


そして呆れたようにレアルに言った


「まったく、なにからなにまで」

「あなたは働きすぎだと思いますよ」


「性分だ」


レアルをその場に残し


ナルとリンはレアルの屋敷の浴場へ向かった




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