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赤さびの魔女  作者: うめやす.
4章_ドラゴンを狩る魔女
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第五十三話 魔法使いの真実 2

レアルがリンを横目で見て声を掛ける


「魔法の才がある者を見つける……とは、どういう意味だ?」


リンが答えた


「魔法の才とは、人の個性であると、ナルは思っているのです」

「始祖からの血統によるものと、わたくしは教えていません」


少しの間、二人の足音が響く


そしてレアルが言った


「ナルの出自については私も調べた」

「彼女の母親は薄い縁戚ではあったが、父親は違う」

「その子供であるはずのナルが、なぜあれほど強力な魔力を持っている?」


リンの返答までは、少しの間があった


「わたくしにも分かりません」

「通常はありえない話です」

「ましてA級魔法使いなど、生まれようはずもない」


「親が違うのでは?」


「わたくしもそう疑いました」

「しかし……調べた限り、ナルの親は彼らに相違ありませんでした」


「そんなことがありえるのか?」


「ありえません」

「魔力とはドラゴンだけが持つもの」

「人が自然とそれを得ることはない」

「例外は、わたくしたちと同じ、ドラゴンの魂を取り込んだ始祖の血統のみ」


レアルは少し考え込むように顎に手を置いた


そして、なにかに気づいたように口を開く


「つまり、考えられる可能性は……」


「一番筋が通る可能性は、ナル自身が新たな始祖である、というものです」


レアルの表情が厳しいものに変わった


「ナルがドラゴンの魂を取り込んだとでも言うのか?」

「そんなことを、どうやって」


「分かりません」

「ただ、考えられるとすれば……悪食こそが、ドラゴンの魂だった」

「そういう仮説です」

「記録上、悪食のスキルを持つ者は、過去にも何度か見つかっています」

「ですが、その多くは短命でした」

「大人になれた者はいない」

「けれど、ナルは違います」

「そして、ナルが成長するにつれ、悪食もまた、大きくなっている」


レアルの声が、低く沈んだ


「だとしたら……最後に、ナルはどうなる」


リンは答える前に、短く息を吐く


「始祖は、忽然と姿を消したと記録に残っています」


「では、ナルもそうなると?」


「いいえ、ナルはわたくしの娘です」

「なにがあっても、どんなことをしてでも、守ってみせます」

「それに、わたくしの前から、ナルがいなくなるなんて……許しませんよ」


しばらく二人の足音が響く


「実はナルに飴工場以外にも、見せたいものがあるのだ」


「あなたのことだから、そうであろうと思っていましたよ」

「正直に言えば、わたくしは黒のドラゴン討伐に、ナルが参加することに反対です」

「ナルは始祖かもしれない……であれば、上位のドラゴンとの接触は、避けるのが賢明です」


「君の言うことは分かる」

「だが、他に勝機はない」

「ナルの悪食だけが、唯一の可能性なのだ」

「他のA級魔法使い全員でかかったところで勝ち目などない」

「君が飼っている化け物が、本気を出しても同じことだろう」


「ミナをそのように言わないでください」

「舌を引き抜きますよ」

「それに、そこまでして魔鉱石を得る必要はありません」

「人工太陽があります、そして、しばらくは城の地下のドラゴンから魔力を得られます」

「当面の間、ヴァルドリアは対話で抑えられるでしょう」

「それに、黒のドラゴンとやり合うくらいなら、ヴァルドリアが相手の方がましでは?」


「君の言うとおりだね」

「ただ、私は諦めるのをやめたのだ」

「ナルに頭を割られてしまったのでね、諦めんよ」


「ナルはまだ子供で、わたくしはその保護者です」

「あまり勝手なことはしないように」

「わたくし、それなりにあなたを気に入っているのです」

「あなたの墓に、花をたむけたくはありません」


「君に殺されるなら、本望かもしれんね」

「どうだね? 今晩一緒に、食事でも」


「あら、レアルからディナーの誘いなんて、珍しいこともあるものです」


「だめかね?」


「お互いに、もういい歳でしょう」

「からかわないでください」


「そんなつもりでは……ないのだがね」


レアルは切り替えるように


声の調子を変えた


「実は、領内で茶葉の生産に成功したのだ」

「ただ、発酵がうまくいかなくてね、君のアドバイスが欲しい」


「ここは気温が低く、乾燥している、あまり向いていないように思いますね」

「茶樹の冬越しには成功したということですか?」


「うむ、長年耐寒性の強い品種を探し、生き残ったものだ」

「布を使って冬囲いをしたり、手間はかかるが、生産にはめどが立っている」

「香りはいいのだが」


「紅茶のような発酵を目指さない方がいいように思いますね」

「発酵室はありますか?」

「もしあれば見せてください」


「もちろんある、こちらだ」


リンはレアルを追うように歩く


それから呆れたように言った


「今度はお茶の生産ですか……」

「あなたは本当にいろいろとやりますね」

「そんなんだから、結婚もせぬうちに白髪が増えてしまうのです」


そう言われても、レアルは意にも介さない様子だった


「跡取りなら、養子をもらって育てている」

「問題はなかろう」


少しの沈黙があり、足音だけが響く


すると、ふいにレアルが足を止めた


それから言った


「それとも、立候補してくれるのかな?」


レアルは少し振り返りリンの顔を見る


リンはレアルを無視するように前を向いたまま、足を止めなかった


レアルを追い抜いてから言った


「やめてください、見苦しいだけですよ」


レアルはまた歩き出し


すぐにリンに追いついた


「見苦しいのも、悪くはないがね」

「そういう君は、いっこうに見た目が変わらないね」

「私も、リンの白髪が増えてゆくのを……見たいものだ」


リンは横目でレアルを見る


彼の髪に、また少し……白髪が増えた気がした


レアルに聞こえないほど、小さく呟く


「白髪が見たい……ですか……」


リンは小さく笑って思う


悪くはないですね……


だが、言葉にはしなかった


それからリンが言った


「今日はいささか疲れました」

「明日のディナーであれば、ご一緒します」


レアルはすぐに落ち着いた声で答える


「誘いを受けていただき、光栄だ」


「わたくし、コブ付きですから」

「ナルと一緒に参ります」

「美味しいものを食べさせて、喜ばせてくださいね」


レアルの肩が少し落ちたような気がした


それから力強く前に踏み出して言った


「コブ付きも、悪くはない」


リンが小さく笑う


「あなたが、そんなことを言う人とは意外でした」


「今の君ほどには、意外ではないさ」

「私はナルとうまくやっていけると思うよ」


「そういえば、ナルに飴玉を与えないでください」

「一日五個までと決めているのです」


「食べ過ぎはよくないが、五個は厳しいのではないか」


「もう子供への方針が合いませんね」

「それに……コブは二つありますので」


リンの足音にレアルが合わせて歩く


そんな音が鳴っていた




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