第五十三話 魔法使いの真実 1
ナルはレアルの屋敷の客間のベッドで首をかしげる
その横でリンがリンゴの皮をむいていた
ナルが言った
「あれ~、なんでわたしとリンが戦ってたんだっけ?」
リンは、一本につながったリンゴの皮を切らさずに答えた
「あなたが腕試ししたいと言い出したんじゃないですか」
「まだ起きてはいけません、もう少し横になっていなさい」
「強めに雷撃を撃ち込んでしまいましたから、念のためです」
ナルはまた首をかしげた
「わたしが?」
「腕試しなんかに興味ないけどな」
「なんでそんな話になったんだっけ」
リンは皮をむいたリンゴを切り分け、ナルに一つ渡す
「ナルは気分屋ですからね」
「そんな気分だったのでしょう」
ナルはリンからリンゴを受け取り、一口食べた
「そうかなぁ~」
すると部屋の扉がノックされた
リンが返事をする
「はい」
扉の向こうから声がする
「レアルだ、入ってもよろしいか?」
「どうぞ」
返事を確認してから、レアルは部屋に入ってきた
そしてすぐに尋ねた
「ナルの様子はどうだね?」
ナルはリンゴを口に放り込むと、レアルに手を振って気さくに声を掛けた
「お、レアル~、もう元気だよ~」
ナルはすぐに、レアルが手に持っているものに目を付ける
「その箱! なに?」
レアルは箱にかけてあった布を取る
箱の中には、赤紫色の飴玉がいくつか入っていた
「ナルは目ざといね、これは新作の飴だよ」
「私の領地ではラズベリーの栽培に力を入れていてね」
「それを利用して飴玉も作ってみたんだ」
「ぜひ感想を聞かせてくれないか」
ナルはベッドから降りてレアルに駆け寄る
そしてレアルから箱を受け取り
どれから食べようか見比べ始めた
「相も変わらず、商魂たくましいですね」
「会うたびに新しいことをやっている気がします」
「仕事をしているだけだ」
「それより、魔法省からの肥料の納期が遅れている」
「いつ届くのだ? 在庫もそう多くない」
「馬車で運んでいる最中ですよ」
「明日には届くはずです」
「ここは遠くて道も悪い」
「いろいろ大変なんですよ」
ナルが食べる飴玉を選び
ラズベリー味の飴玉を口に放り込んだ
「これ美味しいよ、レアル」
「でも、普通の飴と同じで、ちょっと酸味を加えてるでしょ?」
「ラズベリーだけで十分甘味が引き立ってるから」
「酸味は抜いた方がいいよ」
そう言われてレアルも試作の飴玉を一つ口に入れる
それをナルは目で追い、しまった、という顔をした
「ふむ、なるほど、ナルの言う通りだね」
「しかしすごいね、すぐに見抜くとは」
ナルは残りの飴を守るように箱を自分の後ろ側に隠す
「飴玉については、ちょっとうるさいのよね~」
リンが指先で頭を押さえながら言った
「ちょっとどころか、かなりうるさいですね」
「あなたから延々と飴玉を要求されて、わたくしは最近夢にまで出てくるようになりました」
「リンがケチだからじゃん、飴玉くらい好きに食べさせてよ」
「好きにさせたら、あなたは毎日何個食べるんですか」
「そんな食生活をしていたら、健全な体など得られるわけがありません」
「何度言ったら分かってくれるのです」
ナルとのやり取りを聞いて
レアルが少し意外そうにリンの顔を見て言った
「これは驚いた、リンにこんな一面があったとは、まるで母親ではないか」
「独身貴族がうるさいですね」
「あなたも人のことは言えないでしょう」
「黙らせますよ」
「私は相手がいないだけだよ」
「そんなはずはありませんけどね」
ナルが思いついたように口をはさんだ
「あ! そうだ、飴玉を作ってるところを見せてよ」
「レアルが作ってるんでしょ?」
ナルに声を掛けられ、レアルはナルに目を向ける
「この屋敷のすぐ近くに工場があるよ」
「いつでも案内しよう」
リンが割って入る
「お待ちなさい、ナルはもう少し寝かせます」
「それに、わたくしたちは遊びに来たわけではありません」
「レアル、領民の中で能力検査を受けていない者を集めてください」
「場所などはお任せします」
ナルも張り切った口調で言う
「そうだね、先にお仕事しなきゃ」
「魔法の才能がある人を見つけてあげなきゃね」
レアルはナルの言葉に反応するように、ナルを見た
それから言った
「分かった、すぐに手配しよう」
リンはナルの肩に両手を置いてベッドの方へ連れて行く
「ほら、まだ寝ていなさい」
「えー、もう大丈夫だよ、全然平気だよ」
「飴玉の工場に行こうよ」
「駄目です、眠りなさい、工場は逃げませんから」
「能力検査が終わったら、一緒に見せてもらいましょう」
「約束だからね」
ナルはおとなしくリンの言う通りにして、ベッドに横になる
リンはカーテンを閉めて、部屋を暗くした
「少し……乾燥していますね」
「地域性でしょうか」
そう言うと、魔法で水球を作りナルの横に浮かべた
「様子を見に来ますからね、きちんと眠るように」
リンは確かめるようにナルにかかった毛布を整える
「はーい」
レアルとリンは部屋を出て、扉を静かに閉める
それから、二人は一緒に廊下を歩き出した
足音が廊下に響く




