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赤さびの魔女  作者: うめやす.
4章_ドラゴンを狩る魔女
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第五十二話 ナルVSリン&レアル 2

しばらくすると、街が見えてきた


ナルがいる王都と比べると小さい


おそらく十分の一の規模もなかった


王国の人口の八割は王都で暮らしていると、以前リンが言っていた


だから二番目に大きな町も、比べ物にならないほど小さかった


ナルはすぐに、あまり見たことがない景色に気づいた


立ち並ぶ家々の煙突から煙が出ていた


何かを燃やしている煙


王都では魔力で火を起こす


その場合、煙は出なかった


街の中心には、大きな石造りの黒い屋根の屋敷があった


それを指さしてリンが言った


「あれがレアルの屋敷です」

「どうやら滞在しているようですね」

「あの屋敷に降り立ちます」

「ついてきなさい」


「うん」


二人が屋敷へ降り立とうと、降下を始めた


するとリンが言った


「やれやれ、またですか、来ますよナル」


次の瞬間、屋敷から緑の三日月状の刃がナルとリンに向けて飛び込んできた


ナルは赤い砂で弾き


リンは水の盾で防ぐ


そして屋敷の前の広場に着地した


ナルが呟く


「なんかデジャブね、前にもこんなことなかった?」


すぐに屋敷の門の前に一人の男が降り立った


「誰かと思えば、リンとナルか」

「あなたたちは、なぜ突然飛んでくるんだ」


攻撃の主はレアルだった


リンが服についたほこりを払いながら言った


「あなたも、毎回相手を確かめずに攻撃しない方がいいですよ」


ナルは気さくに声を掛けた


「こんにちはー、レアル」

「飴を送ってくれてありがとう」

「新作のレモン味が美味しかったよ、またちょうだいよ」


「君は相変わらずだね」

「君のように生きられたらと、たまに思うよ」


「それは無理だよ、レアルはおじさんだもん」


レアルは少し疲れたようにため息をついた


それからリンに向けて言った


「それで? 何の用だ」


「ナルの提案で、国中の人間に能力検査を受けてもらうことにしたのです」

「わたくしとナルは貸与の力が使えますから、手分けして一気に終わらせます」


「なんだと? 検査を受けていない連中に、そんな金はないぞ」


「無料ですよ」


「無料……? 検査は魔法省の主要な収入だろう……なぜそんなことを」


「ナルが言い出したことですからね、叶えてあげたいじゃないですか」

「それに、人工太陽の活用が始まれば、そちらから十分に収入は入るでしょう」


「守銭奴と呼ばれてたリンとは到底思えないセリフだな」


「もうその必要はないのです、わたくし、案外無欲なんですよ」


その話を聞いていて、ナルの中で一本の線がつながった


「あ! 女ひとりで生きていくのに頼りになるのはお金だけだったけど」

「リンにはわたしとミナがいるから、お金に執着しなくなったんだね」


「なんですかそれは、変なことを言わないでください」


「え? 隠すことないじゃん」

「リンの日記に書いてあったよ、ずいぶん昔のだけど、すごく力強い字で「頼りになるのはお金」って」


リンの表情が曇った


鬼気迫る声が出る


「日記……?」


「うん、リンの机の奥の隠し棚にあるじゃん」

「わたし全部読んだよ、すごく面白かった」

「リンって文才あるよ、本とか書けばいいのに」


「まさか……あなた……わたくしの日記を、勝手に読んだのですか」


「あはは、ごめんね、飴玉探してたら見つけちゃって」

「リンって、子供の頃からずっと日記をつけてたんだね」

「ある日を境に別人みたいになっちゃって、すごかった」

「こんな夢ばかりみていたピュアな子が、リンみたいになっちゃうんだな~って」

「でも、すごいエッチな話も書いてあって、ドキドキしちゃったよ」


その瞬間、ナルの鼻先に黄色い蒸気が飛んだ


リンは麻痺の薬を蒸気にして、ナルに吸わせようとしたのだ


しかし、それは失敗した


「あぶない」

「それ、バレてるからね」


ナルは得意げに笑った


「リンなら、勝手に日記を読まれたって知ったら、なにするか分からないと思ってたよ」

「わたし、鼻と口の中は常に悪食でガードしてるから、その手は効かないよ」


リンは黒い瓶に入った薬を取り出し、ナルに見せた


「ナル、この薬を飲みなさい」


「いやだよ、そんな気持ち悪いの」


「わたくしの尊厳にかけて、絶対にあなたの記憶を消してみせます」

「あなたは、わたくしを本気にさせました」


「ふふ~ん」

「リンがわたしに勝てるわけないじゃん」

「全部知ってるんだからね」

「いい加減、素直に……」


ナルの言葉を遮るように稲光が輝き、リンとナルの間に何本もの雷が落ちた


リンの表情は、隠しもしない怒りに満ちていた


「いつの間にか、ずいぶんと鼻っ柱が高くなりましたね」

「調子に乗らないでください」

「わたくしは、誰にも負けませんよ」

「レアル、あなたはナルに仕返ししたいはず」

「今なら手伝ってあげます。わたくしに協力しなさい」


「なかなか魅力的な提案だね」

「勝機はあるのかな?」


「いらぬ心配です」

「わたくしは、ナルを誰よりもよく知っています」


そのとき、ナルは足元が濡れていることに気づいた


いつの間にか、水たまりが広がっている


次の瞬間、バチッと電撃が光り、鋭い音が鳴った


しかし、すでにナルの体は紫の光に包まれていた


「へへへ、それも効かないよ」

「リンの戦い方なんて散々見てきたからね、リンはわたしに勝てないよ」

「リンの秘密……いろいろと勉強になったから、忘れたくないんだよね」

「諦めてよ」


「レアル、ナルは強い……チャンスは一度きりです」

「あなたはナルを攻撃してください、わたくしが隙を突きます」

「悪食が消せるのは、あくまでも魔法で作ったものだけです」


「なるほど、そういうことか」


レアルは手を上げた


すると、あたりに激しい風が起きる


そして周辺にある石や壁を砕き、風に巻き上げ始めた


レアルが手を下ろす


すると風は一斉にナルの方へ向き


巻き込んでいた石や、砕けた壁を放った


ナルは悪食の光を広げ、レアルの風を打ち消したが


飛ばされた石までは消せなかった


ナルが右腕を横に薙ぎ払う


すると、分厚い赤い砂が周辺に舞ってそれを一瞬で弾き飛ばした


「そんなんで、なんとかなるとでも思ってるの?」


ナルがリンを見ると、リンはかがんで地面に右手を置いていた


「ん? なにしてるの?」


次の瞬間、ナルの足元から噴水のように水が噴き出した


悪食で消えない、本物の水だった


とっさのことで、ナルは水を飲んで巻き込まれた


呼吸ができない


ナルは水に押し上げられ、上空に飛ばされた


一瞬、赤い砂のガードが取り残された


リンは飛ばされたナルを確認すると


思い切り足元で魔法を破裂させてナルに向けて飛び込んできた


一瞬でナルの胸元をその手でつかんだ


水を飲んで咳き込みながらも、ナルはまだ冷静だった


とっさにナルは悪食の光をさらに広げて、自分とリン、どころかレアルまで飲み込む


レアルが驚いて声を上げた


「でかい! 前に戦ったときよりも、さらに大きい」


ナルはまだ出そうになる咳を抑えて勝ち誇る


「これで、あんたたちはなにもできないでしょ」

「降参した方がいいんじゃないの」


リンは小さく笑って言った


「うかつでしたね、ナル」

「油断しすぎですよ」


リンは、掴んだナルの胸元を強く引き寄せた


そして体を伸ばし、噛みつくようにナルの首元へ口を寄せる


次の瞬間


バチッ


鋭い電気の音が鳴り響いた


ナルは痙攣するように震え、そのまま気を失った


悪食の紫の光も、同時に消える


リンはナルを抱きかかえ、水の魔法で体を支えながら、ゆっくりと地上へ降りてきた


水のベッドを作り、そっとナルを横たえる


そして、ナルの髪を撫でながら、言い聞かせるように言う


「悪食に包まれていても、唯一魔法を使える場所があります」

「それは、自分の体の中です」

「たとえ悪食でも、術者自身の体内にある魔力までは食べられません」

「だから、口の中で雷撃を生み、直接流し込めばいいのです」


リンは静かに微笑んだ


「まだまだですね、ナル」


そう言って、リンはナルの口に黒い瓶の先を差し込んだ


中身が、こくこくとナルの中へ入っていく


「わたくしの日記について、すべてを忘れなさい」


黒い薬は、記憶を消す薬だった


リンは、自分の秘密をナルの記憶から取り戻した


日記も、家に帰り次第、すべて処分するつもりだった


これで永遠に、リンの秘密はリンだけのものになる


リンの尊厳を守る戦いは


リンとレアルの勝利で終わりを告げた




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