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赤さびの魔女  作者: うめやす.
4章_ドラゴンを狩る魔女
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第五十一話 ミナ、初めてのお留守番 3

目の前にはユアンがいる


急にユアンとの距離が近くなった気がした


ミナは心の中で思った


ど、どうしよう


わたし、すごい意識しちゃってる……


ユアンとは、いつも吊り橋と二階の窓越しに話していた


それなのに今は、同じ部屋の中にいる


急に近すぎる


しかも、ここはユアンの部屋だった


ミナはユアンを見る


いつの間にか、先ほどまで乱れていた髪が整えられていた


眠そうだった青い目も、今はすっきりとしていた


ミナはあらためてユアンの部屋を見る


部屋の真ん中には、グランドピアノが置かれていた


板張りの床


楽譜や本が並ぶ大きな本棚


部屋の隅にはベッドがあり、その近くに小さなキッチンと洗面台がある


奥には扉が一つ


おそらく、トイレだろう


大きめの机の上には、たくさんの紙の束が山積みになっていた


ここに、ユアンは暮らしているんだな……


ミナはそう思って部屋を見渡す


そして思った


この匂い……好きだな……


ユアンの匂い……


そう考えたところで、頭を振って自分に言い聞かせた


匂いとか、変態みたいじゃん


わたしはそんな女の子じゃないわ


するとユアンはピアノの横に置いてあった椅子から、手でほこりを払うようにした


「この椅子に座りなよ、僕は車椅子だから、普段は使ってないんだけど、役に立つ日が来たよ」


「う、うん」


ユアンはキッチンに行ってお湯を沸かし、ポットでお茶を作る


それから小さな盆にポットとコップを二つ乗せて、膝の上に置いたまま戻ってきた


「ごめん、お茶しか用意できなくて」

「甘い物でも用意しておけばよかったね」


「ううん、お構いなく」


ユアンは盆を机の上に置き、コップにお茶を注いだ


その時、ユアンの手が少し止まった


「……?」


ミナが首をかしげると、ユアンはミナの顔をじっと見ていた


薄く化粧した顔


癖のある茶色の髪


黒い瞳


ミナは、急に見つめられていることに気づき、思わず目をそらした


な、なによ……


そんなに見ないでよ……


そんなユアンを、膝の上のムギが見上げるように見ていた


「ちょっと、ユアン! お茶こぼれてるよ!」


「あ! ご、ごめん」


ユアンは慌ててお茶を注ぐのをやめた


ただ、コップの周りはお茶がこぼれてしまっていた


ムギはユアンの膝の上から飛び降りた


「拭くものとかある? わたしがやるよ」


そう言ってミナは立ち上がる


次の瞬間、ミナの背中にムギが体当たりしてきた


「ちょっ……!」


バランスを崩したミナは、そのまま前に倒れ込む


ユアンが慌てて両腕を広げた


気づけば、ミナはユアンの胸の中にいた


ユアンの匂いがする


体温が伝わってくる


早く離れなきゃ


そう思った


思ったのに、体が動かなかった


吸い寄せられるように、ユアンと触れ合っていることが心地よかった


少しの間、二人はそのままだった


だめ!

なにやってんのよ、わたし!


ミナは思い切るようにユアンから離れた


慌てたようにミナは言った


「ごめんね、転んじゃっ……」


すると今度は、ユアンの両腕がためらうように伸びた


その手は、一度は止まりかける……


けれど次の瞬間には、ミナを抱き寄せていた


離れたはずのぬくもりが、さっきより強くなって戻ってくる


「ひいいいいいいいい」


ミナは心の中で悲鳴を上げた


それからユアンはミナの両肩に手を置いて


少しミナの体を離し、距離を取った


そして、ゆっくりと顔を近づけてくる


ミナは混乱した頭の中で思った


やばい! キスされる!


それはだめ……だめ……だけど……


そこで考えるのをやめた


ミナもうっすらと目を閉じようとした


その時、ミナの脳裏にナルの顔が浮かんできた


もしもナルとリンに知られたら、とんでもないことになる


きっとわたしは隠しきれない、態度に出て気づかれる


一度疑えば、どんな手を使ってでも、あの二人はわたしに自白させるだろう


次の瞬間、ユアンの唇に何かが当たった


薄い光の壁、ミナが魔法で作った光の板だった


すぐにミナは立ち上がって窓のそばに逃げる


右手を握り、胸に押し付けるようにして、自分を落ち着けようとした


ユアンが慌てた様子で言った


「ごめん……僕……ミナの気持ちを無視して……」

「でも……僕は本気なんだ! いい加減な気持ちじゃない」

「ミナと、ずっと……ずっと一緒にいたいんだ」


ミナは握りしめた手をさらに強く自分の胸に押し付けた


息ができないほど心臓がうるさい


顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる


ミナは自分を抑えるので手一杯で、ユアンに返事ができなかった


ユアンは、我に返ったように下を向いた


「ほんとに……ごめん……」

「困らせないって……約束したのに」


するとミナが思い切ったように振り返った


腰に両手を当てて立つ


そしてユアンを叱るように大きな声で言った


「もう! 急すぎだよ!」

「わたしはそういうのに耐性がないんだからね!」

「心臓が破裂したらどうするのよ!」

「そういうことがしたいなら、ちゃんとナルとリンに挨拶して、認めてもらってよ!」


ユアンは顔を上げ、青い瞳を大きく開いた


「それって……挨拶すれば……してもいいってこと……?」


「違う! しちゃだめ!」

「そうじゃなくて、順番があるでしょ!」


それから急に、ミナは手を合わせてもじもじし始めた


「もっと……ゆっくり」

「ゆっくりがいいよ……ゆっくり……」


ユアンがいたずらっぽく笑う


「ゆっくりなら、してもいいってこと?」


「ちがーう! わかってるくせに! 怒るよ!」


「うん、ごめん」

「きちんと君の家族に挨拶して、認めてもらって」

「それからまた、君に気持ちを伝えるよ」


ミナは床であくびしていたムギの首根っこを右手でつかんで持ち上げた


「わたし、もう帰るから!」

「やっぱり男は狼なのよ、油断も隙もあったもんじゃないわ」


「また遊びに来てくれるかい?」


「吊り橋ならね」


それからミナは振り返る


そしてユアンにあっかんべーをして言った


「部屋だと襲われるからやだよー」


次の瞬間、窓から飛び出すようにミナが空高く舞い上がる


まだ顔が熱い、きっとまだ真っ赤になっているはずだ


ミナは空を飛ぶ

頬に当たる風が、残った熱を冷ましてくれるようで、心地よかった


ミナは右手で首根っこをつかんだムギを、自分の顔の前に持ち上げる


「あんた、さっきの絶対わざとでしょ」

「ああいうのやめてよね」


最初にユアンと出会った時から


こうなる予感はしていた


きっとこれは運命なんだ


ユアンとの関係は、特別なものになる


だから、ゆっくり……


ゆっくり育てたい


ミナは、そう思っていた




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