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赤さびの魔女  作者: うめやす.
4章_ドラゴンを狩る魔女
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第五十一話 ミナ、初めてのお留守番 1

戴冠式から、数日が過ぎていた


その夜、リンは自分の部屋で肌に薄くオイルをなじませていた


眠る支度をしていると、扉が控えめに開く


「リン、まだ起きてる?」


顔をのぞかせたのはナルだった


「ナル、まだ起きていたのですか?」


「うん」

「リンに相談したいことがあってさ」


「なんでしょう?」


リンは、しばらくナルの話を黙って聞いていた


ナルの声は、いつもより真剣だった

リンはナルの話を聞き終わると

少し嬉しそうに返事をした


やがて、部屋の明かりが静かに落ちる


それから夜は、静かにふけていった


翌朝……


ミナが目を覚まし、目を擦りながら部屋から出てきた

すると、洗面所ではすでにナルとリンが身支度をしていた


「あれ? どうしたの? 二人とも」


ナルが鏡の前で口紅をなじませながら、振り返る

「おはよー、ミナ」

「わたしたち、今日から一週間は帰ってこないから」


「え? どこ行くの?」


「国中を回って能力検査をしてくるのよ」

「最初はこの町の旧市街からだけど、今はそんなに未検査の人は残ってないはずだから」

「終わり次第、あちこちの町や村を回ってくるわ」


ミナは寝ぼけた顔のまま、何度かまばたきした

「そうなの? なんか急だね」

「それなら、わたしも行くよ」


今度はリンが、髪を整えながら答えた

「昨夜、ナルが相談に来たのです」

「やるなら早い方がよいという話になりました」


リンはミナへ向き直る

「ミナには申し訳ありませんが、一人でここに残ってください」


「え…なんで? ついて行っちゃだめなの?」


「わたくしたちは王都の守りの要なのです」

「この町に今いるA級魔法使いは、わたくしたち三人とルッツだけ」

「さすがにルッツ一人にするのは危険です」

「なにかあれば、ミナが助けてあげてください」


「う…うん、分かったよ…」


ナルが口紅をぱくぱくしてなじませながら言った

「できるだけ早く帰るから、寂しいだろうけどごめんね」

「自分の魔力に気づいてない人が、まだどこかにいるかもしれないから」

「そう思ったら、いてもたってもいられなくなってさ」


ミナはナルの服装を見た

リンが着ているような紺のマントを羽織っていた


「その服は?」


「リンと一緒に仕事するからね、形だけでもってやつよ」

「あっちにミナのもあるよ」


「う、うん」


そうこう話しているうちに、二人は身支度を終えた


三人はリンの部屋を通り、テラスへ出た


ナルがミナの方を向き、軽く手を振る

「じゃ、ミナ、しばらく留守をお願いね」


続けて、リンが落ち着いた声で言った

「なにかあれば、組合の受付に言って連絡してください」

「時間は掛かりますが、かならず返事をいたします」

「今日の朝食は用意してあります」

「それ以外は、なにか外で食べてください」


「う…うん、わかった」


ナルは明るく笑って、テラスの端へ向かった

「いってきます!」


ミナは少し遅れて、手を振り返した

「いってらっしゃい」


二人は魔法を弾けさせ、空高く舞い上がっていった


急にあたりが静かになった


いつもなら当たり前のように感じている二人の気配が、今日はない


ミナは部屋に戻る

机の上には朝食が用意され、白い布が掛けられていた


ミナはその布をとって畳んでから横に置く

それから、少しゆっくりとよく噛んで食べる

リンによく噛めと注意されているからだ

今日の朝食は、いつもと同じはずなのに、ひどく味気なく感じた


食べ終わった皿を片づけて、キッチンの洗い場で洗う

それが終わると、部屋はまた静かになった


いつもの部屋なのに、今日はやけに広く感じる


当たり前のようにあった二人の気配だけが、薄く残っている気がした


ミナはしばらく、ぼうっと部屋を眺めていた


ふいにミナが頭をがばっと両手で抱えた


それから力いっぱい叫んだ


「どうしよう!」

「超さびしいんですけど!」

「なにこれ!? もう泣きそう!」

「嘘でしょ! わたしってこんなに寂しがり屋になってたの!?」


自分でも驚くほど、二人としばらく会えないと思うと寂しく感じた

一週間は帰らないと言っていた

とてもじゃないが、耐えられそうにないとミナは思った


二人以外にミナの寂しさを紛らわしてくれる人物は一人しかいなかった


ぽつりとミナは呟いた

「ユアンの家に……泊めてもらおうかな……」


それからすぐに頭を振って思い直した

「だめ!そんなことしたら、なにもなかったって、いくら説明しても、あの二人は絶対に信じないわ」

「ナルとリンは、思い込んだらなにをするか分からないもの」

「下手したら、ユアンが殺されちゃうかも……」


ユアンを頼ることはできない、そうミナは思った

それから、また静かになる

ミナの足元に影が現れた

それを見てミナの顔がぱっと明るくなる


「ムギ!」

ミナの使い魔ムギだった

「そうだ、あんたがいたんだった、よかったー」


ミナはムギを抱き上げて頬ずりする

ムギは最初は受け入れていたが

しつこく頬ずりされると体をねじってミナから逃げて床に降りた


すると、ムギの気持ちが流れ込んできた気がした


ミナは少し目を細める

「え? ユアンのところに行きたいの?」


ムギは返事をするように、尻尾をゆらした


「わたしも行きたいけど、ナルに誤解されたら大変そうなのよね」

「行くのはいつもの通り、休日だけにしようよ」


ミナがそう言うと、ムギは不満そうに顔をそむけた

そして、そのまま影に溶けるように消えてしまった


「あー! 待って、待ってよ! なんで消えるのよ」

「一緒にいてよ、あんたしかいないんだから!」


出てきなさい、ムギ


そう念じても、ムギは現れなかった


「なんなのよ! 使い魔のくせに言うこと聞かないとか、あるの!?」


部屋がまた、しんと静まり返る

それに耐えかねたようにミナが言った


「わかったわよ! 行くから」

「ユアンがいたら、ピアノ聞かせてもらって、ちょっと話をして帰ってくるから」



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