第五十話 新たなる王 2
ナルがミナに耳打ちした
「なんでわたしたちまでここにいるの?」
ミナも小さくうなずいた
「わたしもそう思った」
「知らないうちに巻き込まれてる気がするよね」
リンが二人に声をかける
「A級魔法使いは、我が国の力の象徴です」
「わたくしたちが国王を囲んでいるから、皆が安心することができるのです」
ミナは小さくため息をついた
「そういうの、どうでもいいけど、いつ帰れるの?」
「今日はユアンが教会でオルガンを弾く日だったのに」
それを聞いて、ナルが少しむっとする
「またユアン?」
「最近ミナって冷たくない?」
「付き合い悪いし」
「わたしのこと放って、ユアンのところに行っちゃうし」
「わたしのことなんか、もうどうでもいいんでしょ」
「え、違うよ」
「ほとんどナルといるじゃん」
「ユアンは週に一、二回しか会ってないでしょ」
ナルは納得しなかった
「それって、休みとなればユアンと会ってるってことじゃん」
「わたしは休みになると独りぼっちにされてさ」
「ユアンとわたし、どっちが大事なのよ」
ミナは呆れたように言い返した
「なによそれ」
「ナルって絶対束縛するタイプだよね」
「あんたもイナクのところに遊びに行けばいいじゃん」
「もう会っても問題ないんでしょ?」
ナルはそこで、少しだけ目を逸らした
「無理だよ」
「だって怖いんだもん」
「怖いってなによ」
「あんた、イナクが好きだって言ってたじゃん」
「好きだけど」
「イナクと恋人になるとか、その……キスとかするとか、想像できないんだもん」
「やっぱり兄妹でいたほうがいいのかも」
「気持ちがはっきりしないのに会えないじゃん」
「はあ?」
「あんた、また振り出しに戻ってるじゃない」
「いつゴールにたどり着くのよ」
「付き合うのはゴールじゃないんだよ」
「始まりなの」
「そこからが長いんだから、ちゃんと考えないと」
「今の関係すら壊れちゃうじゃない」
「うるさいわね」
「あんた散々色々あって、やっと気持ちに気づいた感じだったじゃない」
「今さら小賢しいこと言ってんじゃないわよ」
「付き合ったこともないくせに」
ナルはむっとしたまま、話を戻した
「とにかく、ミナだけ抜け駆けしないでよ」
「わたしといてよ」
「なによそれ」
「なんでわたしまで巻き込むのよ」
「関係ないでしょ」
「前に、わたしがいい人を見つけるまで傍にいてくれるって約束したじゃん」
「それとこれとは話が別でしょ」
「それに、傍にいるじゃんか」
「自分だけ彼氏作ってるじゃん」
「わたしから離れてるじゃん」
「ユアンは彼氏じゃないって言ってるでしょ」
「友達だから」
「あいつと会う時だけ化粧していくし」
「たまにぼーっとしたり、にやにやしたりするようになったじゃない」
「ばれてるからね」
「と、友達と遊べば、そういうこともあるじゃん」
「化粧は、やり方を忘れないためにちょうどいいと思ってやってるだけだよ」
「じゃ、今度からわたしも一緒に行くよ」
「友達なんだから問題ないでしょ」
「え…」
「ユアンは人見知りするからさ」
「それに、ナルにはつまらないと思うよ」
「あー!やっぱりだ」
「邪魔なんだ」
「わたしを捨てる気ね」
「違うって」
「だって、ナルを連れていったら、敵意むき出しでユアンになにか言うでしょ?」
「い、言わない」
「絶対、言うよ」
「ナルが我慢できるわけないじゃん」
「ユアンは、ナルといつか会えたら嬉しいなって言ってくれてたのに」
「そんな状態のナルを連れて行けないよ」
「なんでユアンがわたしに会えるのを楽しみにしてるのよ」
「そんなに自信があるの?」
「上等じゃない」
「それは……」
「わたしがナルの話をよくしてるから」
「ユアンがナルのことを素敵な子だねって言ってくれるから、つい色々話しちゃって」
ナルは疑いの目をミナに向けた
「あんた、敵にわたしの情報を渡してるわね」
「そんなにわたしから逃げたいの」
「敵ってなによ」
「そんなんじゃないわよ」
「わたしより弱い奴には、ミナを渡さないからね」
「わたしの能力を相手に教えないでよ」
「ずるいじゃん」
「あんた、なに考えてんのよ」
「ユアンは戦ったりしないから」
「そういう人じゃないの」
「ナルより強い人なんか探してたら、わたし一生彼氏できないじゃない」
その間にも、会場では厳かな式典が続いていた
誰もが新しい王の姿を見つめている
そんな中で、ナルとミナだけが、真剣にまったく別の問題に向き合っていた
リンは二人を、感心したようにしばらく見ていた
それから、呆れたように口を開く
「あなたたち、輪をかけてふてぶてしくなってきましたね」
「よくこの場で、そんな話ができるものです」
「わたくしにも興味深い話ではありますが」
「今がこの国の歴史の転換点なんですよ」
「少しは意識してください」
「そういう話は、家に帰ってからにしなさい」
やがて、戴冠の儀は一区切りついた
重々しい音を立てて、会場の扉が開かれた
ルッツが玉座から立ち上がると、マリーやノアたちもそれに続いた
リンも席を立ち、ナルとミナへ視線を向ける
「行きますよ」
「次は城下のパレードです」
ナルが首をかしげた
「パレード?」
リンは当然のように答える
「馬車に乗って、街を回るのです」
ナルは少し拍子抜けした顔をした
「えー……」
「馬車に乗ってるだけなの?」
ミナも首をかしげる
「それ、楽しいの?」
「なんかつまんなそう」
そう言いながらも、ナルとミナは立ち上がった
二人はリンの後について、会場を出ていった
城の前には、きらびやかな装飾を施された大きな馬車が用意されていた
金色の縁取りに、白い花飾り
車輪にまで細かな模様が彫られている
その後ろには、黒い馬車が何台も並んでいた
大きな馬車に、ルッツとマリーが乗り込んだ
他の者たちは、それぞれ黒い馬車に分かれて乗った
リンとナルとミナも、その一つに乗り込んだ
やがて馬車はゆっくりと動き出す
城門を抜けると、外から大きな歓声が押し寄せてきた
街はお祭り騒ぎだった
道の両側には人々が並び、紙吹雪や花びらが絶え間なく舞っている
ナルはすぐに馬車の窓を開けた
外の景色を見た瞬間、ぱっと顔を輝かせる
「なんか楽しいね」
「みんな笑ってる」
そう言って、ナルは大きく手を振った
すぐにリンがナルを注意する
「ナル」
「わたくしたちは毅然としていなければならないのですよ」
「気軽に姿を見せて手を振ってはいけません」
「えー」
「いいじゃん」
「みんな喜んでるよ」
ナルは少し不満そうに席へ戻った
けれど、すぐにミナの耳元へ顔を寄せる
小さな声で何かを囁いた
ミナはにやりと笑った
「いいよ」
リンはすぐに気づいた
「なにがいいのですか?」
「大人しくしていなさい」
ミナは何事もなかったような顔で座っていた
ナルも知らんぷりをしている
その直後だった
外の歓声が、一気に大きくなる
空から、拳大の光の粒が次々と降り注いでいた
光はゆっくりと落ちながら、街を包み込むように広がっていく
子供たちが歓声を上げた
大人たちも空を見上げ、口々に驚きの声を漏らしている
ミナは窓の外をちらりと見て、満足そうに笑った
「お祭りなんだから」
「みんなが楽しいほうがいいよね」
リンは窓の外を見た
「あなたたち」
「なにかと思えば……」
ナルは得意そうに笑った
「いいじゃん、お祝いなんだからさ」
「みんな喜んでるよ」
ミナも続ける
「せっかくのお祝いなんだし」
「ただ馬車に座ってるだけなんて、わたしたちらしくないわ」
そう言われて、リンは少しだけ黙った
それから、小さく笑う
「そうですね」
「わたくしも本来は、堅苦しいのが性に合いません」
その言葉の直後、外でさらに大きな歓声が上がった
降り注ぐ光の粒に、いくつもの虹がかかっていた
ナルがまた窓から身を乗り出す
「うわー! 虹だー!」
ミナも窓から顔を出した
「すごい! 綺麗だね!」
「この虹、リンの仕業?」
リンは小さくうなずいた
「ええ、ミナとの合作ですね」
「こういう魔法も、たまにはいいでしょう」
ナルは嬉しそうに手を上げた
「アカ! 出ておいで!」
ナルが呼ぶと、アカはナルの腕に巻きつくようにして現れた
ナルが空へ手をかざす
すると、光の粒と虹の中に、星型のつやつやした金属が無数に現れた
降り注ぐ光と虹が星の表面で反射し、さらに細かな輝きとなって空へ広がっていく
虹色の星明かりが、空いっぱいに散らばった
町の歓声が、さらに大きくなった
その日は夜遅くまで、町の人々が新しい王の誕生を祝っていた
新たなる時代
より良い未来
三人の魔法のショーは、町の人々にそれを信じさせた




