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赤さびの魔女  作者: うめやす.
4章_魔女の決意
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第四十九話 至高の飴 1

前王リックが崩御してから、二か月が経った


新たな国王となるルッツの即位準備は、着々と進められてきた


そして今日はいよいよ、その戴冠式の日だった


広いテラスの向こうには、色とりどりの布で飾られた町並みが見える


城へ続く大通りには花びらがまかれ、朝早くから人々の列がゆっくりと流れていた


町中が、新しい王の誕生を待っている


リン、ナル、ミナの三人は城で催される式典に招待され、その準備をしていた


「ミナ、じっとしてよ」

「もっと締めないと、ドレスが入らないでしょ」

ナルはミナのコルセットの紐を、一生懸命に引っ張っていた


「無理、無理だって」

「これ以上は、なにかが出てきちゃうよ」


「前は着れてたじゃない」

「あんた太ったんじゃないの?」


「ナルと違って成長してるだけだよ」

「もっと大きいのに変えてよ」


「なんですって!」

「誰が幼児体型よ!」

「もう許さないからね」


「わたし、そんなこと言ってないよ!」


悪戦苦闘の末、ミナはなんとかコルセットを身につけた


そして、白いドレスに身を包む


ナルは赤いドレスを着ていた


今日、ルッツはこの国の王になる


三人は、それを見届けに行くのだ


リンは小さな鞄に化粧道具を入れていた


「まったく、大騒ぎですね」

「もう少し淑女らしくしなさい」

「品の低さは自分の価値を下げますよ」

「だから変な男が寄ってくるのです」


ナルはいまいち理解できなかったようだった


「そうなの?」


ユアンのことを言われている


そう思ったミナは、すぐに言い返した


「品があるリンには誰も寄り付いてないじゃん」

「品より性格なんじゃないの?」


リンは化粧道具を鞄にしまう手を止めず、涼しい顔で答えた


「あら、わたくしはもてるんですよ」

「求愛されたことなど、星の数ほどあります」

「全て断ってきただけです」


ナルが何かに気づいたように言った


「あ、そうか」

「リンは品がない胸をしてるから、変な男が寄り付くんだね」

「だから全部断ってるんだ」


リンは呆気にとられたようにナルを見た


「ナルからすごい悪意を感じますね」

「わたくしの胸に、なにか思うところでもあるんですか?」


ナルが顔を逸らす


「べ、別にないよ」


ミナがにやりと笑う


自分の胸を両手で横から寄せるように強調して、ナルに見せる


「わたし、分かってるからね」

「最近ちょっと差がついちゃったもんね、わたしと」

「絶対気にしてるでしょ」

「よくわたしの胸をちらちら見て、自分のと比べてるのバレバレだよ」


ナルは自分の胸を手で隠すようにした


「うるさいな」

「わたしはこれから大きくなるのよ」


ミナが嬉しそうにほくそ笑む


「ナルはそういう体質なんじゃないの?」

「小さい方が好きって人もいるらしいよ」


その時、リンが何かに気づいたように顔を上げた


「どうやら、来たようですね」


ナルが首をかしげる


「なにが?」


「わたくしたちのエスコート役です」

「是非にと言われて承諾しました」


ナルはますます分からないという顔をした


「エスコート?」

「なにをする人なの?」


「一緒にいて案内したり、付き添ったり、護衛したりすることですね」

「要するに、わたくしたちと仲良くなりたいのでしょう」


「へー」

「だれなの? それって」


「レアルですよ」

「ナルが、ぐうの音も出ないほど打ち負かした彼です」


ナルが驚きの声を上げた


「え! なんで!?」


ミナも顔をしかめた


「ナルの顔なんて二度と見たくなさそうなのに」

「わざわざ会いに来るなんて、ある意味すごいわね」

「求婚し始めたりしないでしょうね」

「リック二号みたいな」


「もう最上階の入口にある噴水のところで待っているようです」

「お待たせするのも悪いので、行きましょうか」


そう言って、リンは立ち上がった


ミナとナルもそれに続く


ナルは少し不安そうに、ミナにすり寄った


「どうしよう」

「きっと怒ってるよね」


「別に怒っててもいいじゃん」

「ナルの方が強いんだからさ」


入口の噴水には、王様らしき男を女性が踏みつけている大理石の像が置かれていた


それはリンの渾身の作品だった


その前に、レアルが立っていた


背筋を伸ばし、手袋をはめた手を軽く前で重ねている


広い入口は静まり返っていた


その静けさの中で、レアルはまるで大理石の像の一部のように、微動だにせず立っていた


レアルの視線は、大理石の像へ向けられている


リンたちが近づくと、レアルはすぐに気づいてこちらを向いた


レアルはリンの前に跪き、うやうやしく右手を求めた


リンは少しだけ目を細めたあと、拒むことなく右手を差し出す


レアルはその手を取り、手の甲に静かに唇を寄せた


リンがレアルを見下ろしながら言った


「お迎えに来ていただき、ありがとうございます」

「こう言ってはなんですが」

「どんな風の吹き回しですか?」


レアルはゆっくりと立ち上がった


「美しい女性が三人もいるのだ」

「迎えに来たがらない男などいないだろう」


そう言って、レアルはナルの前に立つと、再び跪いた


驚いた顔をするナルに、リンが言った


「尊敬や敬愛を示す儀式です」

「手を預けなさい」


ナルはおそるおそる右手を差し出した


レアルはその手を取り、手の甲に静かに唇を寄せる


しかし、レアルはそこで終わらなかった




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