第四十七話 ミナとユアン 2
ミナはユアンの指した方へ車椅子を進めた
教会の建物の裏側に回り込むと、すぐに扉があった
「そこから入るんだ」
「これが鍵」
ミナは大きな金属の輪が付いた鍵を受け取り、扉を開けた
中へ入ると、銀色のパイプが何本も並んでいた
木の枠で支えられ、天井へ向かって伸びている
その奥の暗がりに、長い鍵盤が二段並んでいた
「なんかすごいね」
「これがパイプオルガン?」
「うん」
「ここは裏側で、普通は人に見せないんだ」
「表側から見ると、もっと綺麗だよ」
「わたしも入ってよかったの?」
「もちろんだよ」
「君は大切な友達だからね」
ユアンは自分で車椅子を動かし、鍵盤の前へ進んだ
上に掛けてあった布をどけ、楽譜を取り出して立てかける
「よし、準備完了」
「これから、少し待つんだ」
「ミサが始まって、最後にみんなで聖歌を歌う」
「僕の出番はその時ってわけ」
鍵盤の前には、小さな窓のような隙間があった
そこから教会の中が見える
ミナは窓に顔を近づけて、教会の中をのぞき込んだ
「ちょっとワクワクしてきたかも」
「なんか、かっこいいね」
ミナが急に近づいたせいで、ユアンは顔を赤くした
化粧の香りに混じって、ミナの甘い匂いがユアンに届く
「ねえねえ」
「あの頭が禿げてるおじさんが司祭なの?」
「すごい服着てるね」
そう言ってミナがユアンを見ると、すぐ目の前に真っ赤なユアンの顔があった
そこで初めて、ミナは自分がユアンにかなり近づいていたことに気づく
ユアンの膝の上で眠っていたムギが、小さく目を開けた
けれど、すぐにまた目を閉じる
ミナはぱっと離れた
「あ、ごめん」
ユアンは赤い顔のまま、困ったように言った
「その……」
「ミナは可愛いんだから、もっと気をつけてほしいかな」
「あはは、ごめんね」
「暑苦しかった?」
「そうじゃなくて……」
その時、教会の方で祈りの言葉が始まった
大勢の信者たちで席が埋まっている
しばらくして司祭の話が終わると、ユアンの出番が回ってきた
ミナはユアンの横に椅子を置いて座った
ユアンの指が鍵盤に触れる
次の瞬間、パイプオルガンの音が教会いっぱいに鳴り響いた
ミナは空気の震えを体で感じながら、その演奏を聴いていた
やはり、ユアンの演奏は何かが違う
とても気持ちが安らぐ
音色が暖かい空間を作ってくれる
とにかく…居心地がよかった
よく見ると、小さなお客さんもたくさんいた
ねずみや蜘蛛、小さな昆虫たちが、暗がりや柱の陰に集まっている
ミナは演奏するユアンの横顔を眺めた
演奏が終わるまで、一度も目を離さなかった
やがて演奏が終わると、ミナはすぐに拍手をした
ユアンはほっとしたような顔でミナを見る
「なんだか、ミナに見られてると思うと緊張したよ」
「こんなに手汗って出るんだね」
「びっくりしちゃった」
そう言って、ユアンはポケットからハンカチを取り出し、手を拭いた
「かっこよかったよ」
ミナがそう言うと、ユアンの顔がまた赤くなった
「あ、ありがとう」
「ミナに言われると、すごく嬉しいよ」
ユアンは少し迷ってから言った
「よかったら、朝ごはんをご馳走させてくれないかい?」
「近くに、いつも行くレストランがあるんだ」
「奢ってくれなくてもいいよ」
「多分、わたしの方がお金をたくさん持ってるし」
「それ以前に、リンの弟子って無料で食べられるから」
「そうなのかい?」
「ミナのお師匠様はすごい人なんだね」
「でも、今日は僕がミナを誘ったんだから」
「それくらいは、させてほしいんだ」
「わかったよ」
「じゃあ、次はわたしが出すね」
次は…
その言葉に、ユアンの目が少し見開かれた
それから、嬉しそうにうなずく
「うん」




