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赤さびの魔女  作者: うめやす.
4章_ドラゴンを狩る魔女
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第四十六話 音色の出会い 1

ナルとミナは、リンに許可をもらって街に遊びに来ていた


最近はリンの管理も少し緩くなり、報告すればいつでも出かけられるようになっていた


二人は飴玉のお店にいる


店の半分はカフェになっていて、飴玉とお茶を楽しめるようになっていた


出かけるたびに、ナルはよくここへ来た


休みとなると、一日中この店に入り浸って飴を食べ続けることもあった


リンが隠していた飴玉は、気づけばナルが全部食べてしまっていた


それが発覚したため、今のナルにはリンから飴玉禁止令が出されている


だから飴玉を食べられるのは、リンの目が届かない外出時だけだった


最初はミナも付き合って店でお茶を飲んでいたが、最近では少し飽きている


ナルを店に置いたまま、周辺を散策することが増えていた


ミナはナルに言った


「じゃ、少ししたら帰ってくるから、ここにいてね」


飴をもごもごと口に含みながら、ナルが答えた


「うん、いってらっしゃい」


実は、ミナには気に入っている場所があった


最近は暇さえあれば、そこへ足を運んでいる


道の途中、チラシを配っている兵士がいた


ミナもそれを受け取ると、そこにはルッツ王戴冠式と書かれていた


どうやら、正式にルッツが王様になる日が決まったらしい


当日は街をあげてお祭りをやるようだ


しばらく歩くと、小さくピアノの音が聞こえてきた


「お、今日もやってるな~」


道の先には水路があって、古い吊り橋が掛かっていた


その吊り橋の前にある家の二階の部屋から、いつもピアノの音色が流れてくる


ミナは、その吊り橋の上に座ってピアノの音を聞くのが気に入っていた


ピアノの音色に引き寄せられたのはミナだけではなかった


家の屋根の上には、小鳥たちが集まっている


水路の縁には、亀が何匹も首を伸ばしていた


ねずみや蛙、昆虫、小さな生き物たちも、不思議とこの場に集まってきている


鳥は鳴かず、羽を休めていた


亀は水の中へ戻らず、じっと音の方を向いている


草むらでは、小さな虫が光を避けるように葉の裏へ入り込んでいた


ここは街の中なのに、街とは少し違っていた


人の声よりも、水の音と風の音の方が近い場所だった


ミナは途中で買った小さなエビの揚げ物が入った袋を取り出し、水筒に入れておいた紅茶を横に置いた


いつの間にか、魔猫のムギがミナの横に座っていた


ここに来ると、ムギはいつも勝手に現れる


「また勝手に出てきて、あんたも好きなの?」


ムギはミナをちらりと見たあと、素知らぬ顔で丸まった


この水路の両岸には、ツバキの木が植えてあった


まだ花は開いていない


けれど、つぼみは少しずつ膨らみ始めていた


心地よい風に、ほんの少しだけ花の香りが混ざる


水の匂い、草の匂い、揚げたエビの匂い


そこに、二階の窓から流れてくるピアノの音が重なっていた


ミナはこの場所が好きだった


なにが好きなのか、自分でもうまく言えない


ただ、ここにいると落ち着いた


すると、ふいにピアノの音が止まった


「あれ? まだ途中だったのに」


ミナは音の主である二階の部屋の窓を見上げた


そこに、少し痩せた青年がいた


明るめの茶色い髪が肩まで伸びている


青い瞳がミナを見ていた


青年は柔らかく微笑んでいた


ここに通うようになってから、初めてのことだ


彼がピアノの音色の主なのかな、とミナは思った


青年がミナに声を掛けた


「こんにちは」


ミナも足をぶらぶらさせながら答えた


「こんにちは」


「よく、そこに座って食事をしているよね」

「なにを食べているの?」


「エビの揚げ物だよ、美味しいよ」


「そうなんだ、僕は食べたことないや」

「どんな味がするの?」


そう言われて、ミナはエビを一つ手に取った


そして青年に向けて軽く投げる


青年は慌てたように受け取ろうとした


けれど、うまくいかず、胸で受けてから下に落とした


なんか……どんくさい奴ね……


ミナは内心そう思った


青年は落ちたエビを拾って、ミナに見せた


少し困ったように笑ってから、手で軽く払うと、そのまま口に入れた


「うん、美味しいね」

「初めて食べたよ、ありがとう」


ミナは青年に尋ねた


「あなたが、いつもピアノを弾いていたの?」


「うん」

「他にできることが、あまりなくってさ」


「ふーん」

「好きなの? ピアノ」


「どうかな……弾くのは楽しいよ」

「あの……違ったなら笑ってくれていいんだけど」

「君は僕のピアノを聞くために、そこで食事をしてくれているのかい?」


「まーね」

「わたしは好きだよ、あなたのピアノ」


「やっぱり! 嬉しいよ」

「実は、君が初めてそこで僕のピアノを聞いてくれた時から、声を掛けたいと思っていたんだ」


青年は少し言いづらそうに視線を泳がせた


「僕は、この部屋にいることが多くてね」

「友達があまりいないんだ」

「図々しいお願いなんだけど、もしよかったら、また話しに来てくれないかな?」

「友達みたいに…って言ったら、変かな」


「なに? ナンパ?」

「そういうのお断りだよ」


「え! いや、そんなつもりはないよ」

「君と話してみたかったのは本当だけど」

「でも、ほんとにそんなんじゃないんだ」


「急に友達になれって言われてもね」


「そ……そうだよね……ごめん……」


「まずは名前でしょ」

「わたし、君の名前も知らないよ」


「あ! そうだった、ごめん」

「僕の名前はユアン」

「君の名前は?」


「ミナ」


「ミナ……さん」


「ただのミナ」

「変なの付けないで」

「わたしはミナなの、ミナって呼びなよ」


「ご、ごめん」

「うん、ミナ、よろしくね」


ユアンは慌てたように、どぎまぎと言った


「よかったら、なにかリクエストとかないかな?」

「あ、ごめん」

「ほら、曲ってこと」

「あの、そうじゃなくて、僕がピアノで弾くってことで」


「四回目だよ」


「え、なにが?」


「ユアンがわたしにごめんって言った回数」

「わたしと友達になりたいなら、それやめてよね」


「ご……」


ユアンはまたごめんと言いそうになって、自分の口を押さえた


それから、落ち込むように肩を落とす


なんか……頼りない奴ね……


ミナは内心そう思った


「曲名とかは分からないけど」

「わたしが二回目にここに来た時に、ユアンが弾いていた曲が、この子も、わたしも、一番好きかな」


そう言って、ミナは横で寝ているムギを撫でた


「よかった! 分かったよ、少し待ってね」


そう言って、ユアンは部屋の奥に入って見えなくなった




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