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赤さびの魔女  作者: うめやす.
4章_ドラゴンを狩る魔女
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第四十四話 お風呂

三人は組合に帰ってきた


リンの部屋のテラスに降り立ち、そのまま部屋に入る


数日しか経っていないのに、ひどく懐かしく感じた


新しいガラスは、まだ届いていなかった


すぐにミナが魔法で光の板を張った


リンがすぐにキッチンへ向かう


食器や鍋を動かす音が鳴り始めた


それを見て、ナルが言った


「ちょっと、リン」

「なにしてんのよ!」


「お風呂に入る前に、少し食事の準備をしようと思いまして」

「お腹がすくでしょう?」


「リンはけが人なんだから、そんなことしちゃ駄目だよ」


「では、今日の食事はどうするのですか?」

「あなた達は、料理などできないでしょう?」


ナルが胸を張った


「ふふん、今日はわたし達が作るよ」

「わたし達にだって料理くらいできるんだから」


ミナがすぐに反応した


「ええ! ナルの料理なんか食べられないよ」

「鉄臭い砂みたいになるんだもん、あんなの毒だよ」

「わたしがなにか買ってくるから」


「なによ! できるって言ってるでしょ!」

「わたしに任せてよ! ミナも手伝ってよね!」


「え! わたしもやるの?」


「まぁ、ナルがそこまで言うのなら、おまかせしましょうか」

「それよりも早くお風呂に入りましょう」

「あの部屋の匂いが体についている気がして嫌なのです」

「あなた達も入りますよ、腐った牛乳のような匂いがします」


慌てて二人は自分の匂いを嗅いだ


「え、ほんとに?」


「あの部屋、トイレがそのままあったからね」


三人はお風呂場へ行った


この家のお風呂は広い


三人くらいなら余裕で入れる広さだった


リンが湯船に魔法で水を張った


その水にミナがムギを呼び出して熱を与える


あっという間にお風呂の準備が整った


「リン、右腕大丈夫なの?」


「包帯が濡れるのは困りますね」

「気を付けて入らないと」


「あ、それだったらさ」


ナルの使い魔、アカがナルの腕に巻きついて現れた


アカの魔法で、薄くてテカテカした金属の紙のようなものが、リンの右腕の包帯に巻きついた


「こうしておけば、濡れないよ」

「水を通さないから」


「すごいですね」

「金属なのに紙のようになっています」


リンは左手で金属の紙に触れた


「強度はあまりなさそうですね」

「手でも切れてしまいそうです」


「うん」

「でも水を通さないし、体に巻くと暖かいのよ」

「わたし、これをお腹に巻いて寝てるの」


ミナが服を脱ぎながら言った


「競争はナルがビリだったから、背中洗ってね~」


「もう、ふたりともずるいんだもん」


「リンはともかく、私はずるしてないでしょ」

「ってか、ナルこそ悪食使って妨害したじゃん」


「ミナ早すぎるんだもん」

「なによ、あれ」


リンは服を脱ぎ


浴室の入り口で二人を待っていた


「早く服を脱ぎなさい」

「わたくしは腕が使えないんですよ」

「ナルが洗ってくれるのでしょう?」


「よく考えたら、リンは魔法で洗えばいいじゃん」


「なんでも魔法に頼ってはいけません」

「わたくしはナルに洗ってもらいます」


ナルは急いで服を脱ぎ、浴室に入った


リンは椅子に座ると、すぐに頭を魔法で洗い始めた


それを見て、ナルはすぐに突っ込みを入れた


「あれ?」

「魔法に頼らないんじゃなかったの?」


「そういうことを言うと、あなたにはやってあげませんよ」

「手で洗いますか?」


「ごめんリン」

「わたしの髪も魔法で洗って!」

「それ気持ちいいんだもん」


ナルはリンの背中を洗おうとして、リンの背中を見た


あちこちにアザや赤い打ち身があった


大きな傷は縫い付けられた糸が見える


リンの治療を行った医師が言うには、体のあちこちの骨にもひびが入っているらしい


リックとの戦いは、リンにとってそれほどのものだったのだ


ナルはそっとお湯をリンの背中に掛けて聞いた


「痛くない?」


「大丈夫ですよ」


ナルはタオルに石鹸で泡を立ててから、そっとリンの背中を洗い出した


「ほんとに痛くない?」


「ええ、心地が良いですよ」


するとリンが、少しだけ目をミナの方に向けた


ミナの頭にも水の球が現れ、その髪を洗い始める


ミナが声をあげた


「うひょー、これこれ!」

「気持ちいい~」


「ミナばっかりずるいー」

「リン、わたしにも後でやってね」


「もちろんナルにもやってあげますよ」

「心配しないでください」


するとミナが、リンの右腕をちらりと見た


それから、体のあちこちの傷を見る


「変なことにこだわるからそうなるのよ」

「リンの魔法の雨に、リックが無防備に濡れた時点で、本当は勝てたでしょ」

「なんであんな危ないことしたのよ」


ナルはリンの脇を洗おうとして、口を挟んだ


「リン、ちょっと腕あげてよ」


そう言われて、リンが腕をあげる


ナルはリンの腕や脇を洗い始めた


「アルを殺したのはリックだと、確信めいたものはありました」

「でも、証拠がなかったんですよ」

「殺しちゃった後に、実は違った…なんて嫌ですから」


ミナが少し呆れたように言った


「まともに戦ったら、リンなんて弱っちいんだから」

「もう無理はやめてよね」


すると、またナルが口を挟んだ


「リン、ちょっと前に行くね」

「またぐよ」


そう言ってナルは、リンの左足をまたぐように越えた


リンと向かい合わせになり、胸元から洗い出す


そんなナルを見て、リンが言った


「なんだか、少し照れますね」


ナルが少し聞きづらそうに言った


「リンが話したくないなら、答えなくていいんだけど……」

「ようするに、ギルドにいるミナが、アルとサラさんの子供なんだよね?」


「そういうことです」

「結婚前の子でしたから、本来なら大問題なのですがね」

「もしリックが真実を知っていれば、ミナさんは早々に殺されていたでしょう」

「アルを失ったあとに、サラは別の人と結婚したことになっていましたから」

「サラが事実を隠したんでしょうね」


ナルはリンの体の正面を洗い終えた


次は黙々とリンの足を洗いながら言った


「リンって肌白いよね」

「いいなぁ~」


「ナルも白いじゃないですか」

「ただ、日焼け対策はしないといけませんよ」

「無防備でなんとかなるのは若いうちだけです」


「教えてね、日焼け対策」

「わたしもやる」


「分かりました」


ミナが言った


「リンには悪いけどさ」

「アルとサラさんが子供作ってくれたおかげで、わたしって存在してるんだよね」


リンがくすりと笑う


「そうですね」

「なにごとにも良い面があります」

「あなたが生まれてくれて、わたくしは幸せですよ」


ミナが少し顔を赤めた


「ちょ、なによあらたまって」

「調子狂うわね」


そこでナルが、思い出したように声を上げた


「あ!」


ミナが言った


「なによ、大きな声出して」


「ミナって世界滅ぼそうとしてたとか言ってたよね!?」

「なにあれ?」


「あー、そのこと?」

「もういいじゃん」

「今更その気はないよ」


「ちゃんと教えてよ!」

「気になるじゃん」


ミナの代わりに、リンが話し始めた


「ミナの体を直して、その意識が戻ったとき、ずいぶんとやさぐれていたんです」

「わたくしなんて、目覚めて早々のミナに、馬乗りになられてぼこぼこに殴られたんですよ」

「ほんとに死ぬかと思いました」


「そ、それは謝ったじゃん」


「なにそれ!?」

「なんでそんなことになってるの?」


「ミナはずっと、二つの魂があるのが当たり前だったわけですからね」

「突然一つの魂になって、感情がコントロールできなくなっていたのでしょう」


リンは昔を思い出すように続けた


「わたくしがされるがままに殴られていたら、そのうちにミナが殴るのをやめてくれましてね」

「聞いてみたんですよ」

「なにがしたいの? って」


ミナが言った


「それでわたしは、全部壊したいって答えたんだよね」


昔話をするように、リンが言った


「そうそう」

「それで、だったら手伝ってあげるって、わたくしが答えて」

「意気投合して、組合で一緒に暮らすようになったんですよ」


呆れたようにナルが言った


「なにその話……」

「あんたら滅茶苦茶ね……」


ミナが思いついたように言った


「そういえばさ」

「なんであの時、黙って殴られてたの?」

「あの時は、何もできないからだろうと思ってたけど」

「リンだったら反撃できたでしょ?」


「なんででしょうね」

「心地よかったからでしょうか」


「は?」

「なにそれ?」

「変態趣味みたいな話?」


「いえ、そうではありませんよ」

「ミナはわたくしと、アルとサラ、そしてその娘のミナさんから作られたんです」

「ある意味、わたくしの実の娘じゃありませんか」

「それも、アルと、サラとの……」

「そんなミナに殴り殺されるなら、結構いい最後なんじゃないかと思ったんですよ」


「なにそれ……」

「やっぱり変態じゃん……」


「話を戻しますと……」

「わたくしは、こんな国、というより王家を滅ぼしてやろうと頑張ってきたんですが」

「なかなか、決め手がなかったのです」

「ミナが来てくれて、念願が叶いそうで嬉しかったんですよ」

「万が一にも不覚を取って失敗しないように、ミナに色々と教え込んでから実行しようと思っていたのですが…」


リンは少しだけ、ミナを見る


「ナルと組合で会ってからというもの、ミナがひよっちゃいましてね」

「それまでは一度も笑わなかったし、ずっと荒んだ目つきで、とてもいい感じだったのですが」

「ちょっと組合を訪ねてきたナルと会話したら、ニヤニヤと笑い出しまして」


リンは小さく肩をすくめた


「その時に思いました」

「あ、こいつもうだめだ、って」

「それで、わたくしも諦めようかと」


「あんたら危険人物すぎるわね」

「更生してくれて、ほんとによかったわ」


「でも結果として、アルの死の真相を明らかにして、仇討ちまでできたのです」

「あなた達がいてくれなければ、絶対にできませんでした」

「ほんとうに、感謝していますよ」


そこでナルが、次に洗う対象を定めて言った


「リン、足を広げてお尻を上げてよ」


リンは答えた


「そこは自分でやります」

「洗ってくれてありがとうございました」


ミナが待っていたとばかりに言った


「ナル、次は私ね~」


ナルが少しむっとする


「分かってるよ、もう」


そう言ってナルは、リンについた泡をお湯で洗い流した


それからミナの後ろへ移動する


ミナが煽るように言った


「いっちょ頼みますよ~」

「ずるしても負けたびりっけつさ~ん」


ナルの目がぴくりと反応した


ナルは桶を取り、少しお湯を入れる


それを横に置いて、素早く石鹸をこすり、泡を立て始めた


その泡を両手に持って、ミナの体を撫で回すように洗い始める


「ひゃ!」


ミナが驚いて声をあげた


「なになに?」

「なんで手でやるの?」

「リンみたいにタオル使ってよ」


「こっちの方が気持ちいいよ」

「ミナには気持ちよくなってもらいたいのよ」


そう言って、ナルはぬめぬめの手でミナの体を撫で回す


「ちょっと! やめてよ!」

「やっぱあんた、そっちの気があるんじゃないの!?」


「あんたと違って、わたしは髪の毛とまつ毛しか生えてないわよ」


「その毛じゃないわよ!」


「洗ってあげてるんだから、文句言うんじゃないわよ!」


ミナは立ち上がって逃げ出した


「あんたのは洗ってるんじゃなくて、セクハラしてるんでしょ!?」

「欲求不満をわたしで発散しないで!」

「この変態!」


両手に泡を持ってナルが追う


「だれが変態よ!」

「洗えって言ったのはあんたでしょ!?」

「大人しく洗われてなさいよ!」


リンは右腕を湯船の縁に置くようにして、ゆっくりと肩までお湯につかった


「ふぅ」


小さくため息のような声が出た


体のあちこちにお湯がしみて、きしむように痛みが走る


リンは、大騒ぎして争っている二人を眺めた


それから微笑みながら言った


「わたくしって、実は運が良かったんですね」

「逆かと思っていました」


ずっと自分を縛り付けていたものから解放されたように、なにかが軽くなった


そうリンは感じていた




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