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赤さびの魔女  作者: うめやす.
4章_ドラゴンを狩る魔女
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第四十三話 マリーへの罰

ナルが、大きな紙袋を抱えて走っていた


中央の商店街で、たくさんの食べ物を買ってきたのだ


やがて王城が見えてくる


城の前の堀まで来ると、足元で赤い砂が弾けた


ナルの体がぴょんと跳ね、城壁を飛び越えて中へ入る


途中、何度か兵士とすれ違った


ナルは明るく挨拶する


「こんにちは~」


兵士たちはナルを見て少し笑った


けれど、慌てて見て見ぬふりをするように目をそらした


やがて、城内の敷地にぽつんと建っている小さな塔にたどり着く


その塔の周辺には、大勢の兵士が待機していた


ナルはそんなことを気にもしない


そのまま塔の扉を開け、らせん状の階段を上っていった


塔のてっぺんまで上ると、そこには部屋があった


入口は鉄格子になっている


ナルは鍵穴に魔法で赤い砂を差し込む


カチャリと音がして、鍵が開いた


ナルが中に入る


鉄格子の扉は音を立てて閉じ、勝手に鍵が掛かった


「ただいま~」


その部屋には、ベッドが一つ


椅子が二つ置いてある


他には何もない


部屋の隅には、トイレ用の穴が開いているだけだった


その穴の周りには、ミナが魔法で光の壁を作って囲っていた


ここは、城の罪人を入れるための牢屋だった


ベッドにはリンがいた


上半身を起こしている


「おかえりなさい、ナル」


その横の椅子にはミナがいた


「おかえり~、大丈夫だった?」


「うん、全然平気」

「兵士さんたちと仲良くなったから」


三人は、リック王を殺した罪で収監されていた


正確には、牢に入れられたのはリンだけなのだが、ナルとミナは勝手に牢屋へ住み着いていたのだ


ナルが、小さな箱をミナに差し出す


「ミナ、エビの揚げ物、買えたよ~」


「やった!」

「これ、すぐ売り切れちゃうのよ」

「ありがとう~」


ミナは箱を受け取り、開ける


そして中のエビの揚げ物を、さっそく口に放り込んだ


「リンも食べなよ」

「色々買ってきたから」


「いえ、わたくしは大丈夫です」

「あなたたちまで、こんなところにいる必要はないのですよ」


「リンは怪我してるし、一人にするのは心配じゃん」

「わたしたちがいれば、下手なことされないでしょ」


ミナはエビの揚げ物を食べながら、部屋を見回した

「それに、結構快適だよ」

「眺めも良いし」

「寝床はナルが魔法で作ってくれるしさ」

「ちょっと、トイレだけなんとかしたいかなぁ」


するとナルが、鼻歌まじりに何かの箱を開けた


すぐに中から飴玉を取り出し、口に入れる


「それに、ここなら飴食べ放題だもんね」


リンが小さく笑った


「一日五個までですよ」


「ええ~、いいじゃん」

「牢屋に入ってる時くらいは」


ふいに、階段を上ってくる足音が届いた


ナルが飴玉を口の中で転がしながら、階段の方を見た


「誰か来たね」


リンが静かに頷いた


「ええ」

「そろそろ来る頃だろうと思っていました」


牢の鍵を開ける音がする


勢いよく鉄格子の扉が開かれた


入ってきたのはルッツだった


その後ろには、マリーもいる


ルッツはリンの姿を確認すると、笑顔を作って手を広げた


「リン、今回は災難だったね」

「こんな部屋に入れてすまない」

「すぐに出てくれ」

「城にしばらく泊まってもいいし、組合に帰ってくれてもいい」


リンは静かにルッツを見た


「わたくし、王を、あなたの兄を殺したんですよ?」

「そんなことをして良いのですか?」


「なにを言っている」


ルッツは少しだけ声を強めた


「リンは忠義に厚いからな」

「リック王をお助けできなかったことを、自分の罪と言いたくなる気持ちは分かる」

「だが、リック王は刺客に討たれた」

「その刺客はリンが殺した」

「もう遺体の回収も済んでいる」


ルッツはそこで一度、息を吐いた


「行き違いがあって、リンはここに入った」

「それだけのことだ」


ナルが喜びの声をあげる


「やった!」

「帰っていいって!」


けれどリンは、小さく手を上げてナルを制した


「ルッツ」

「あなたにも聞きたいことがあったのです」


「なんだい?」


「あなたは、アルの死に関与していないのですか?」


ルッツの表情が変わった


「アルト兄上は、俺のことを昔から可愛がってくれていた」

「俺の尊敬する人だ」

「リックが怪しいと、俺も思っていた」

「リンが今回のようなことをしたということは、アルト兄上を殺したのはリックだったんだろう」


「はい、そうです」


「誓って、俺は関係ない」


「分かりました」


リンはそこで、左手を持ち上げた


その手には、小瓶が握られている


「では、一つお願いしてもよろしいですか?」


「なんだ」


「この薬を、後ろにいるマリーに飲ませてください」

「そして、同じことを聞いてほしいのです」


ルッツが困惑した表情を浮かべた


「戦いでアルを殺せるとしたら、リックとルッツの二人がかり」

「もしくは、守護のスキルで強化されたリック」

「これが、わたくしの結論です」


皆の目が、マリーに集まった


それが分かっていたように、マリーは動じなかった


ルッツが声を荒げる


「なにを言い出すんだ」

「マリーがそんなことをするわけがないだろう」


リンはマリーから目を離さずに言った


「そうでしょうか?」

「あなたの妻の顔は、そう言っていませんよ」


ルッツはマリーを見る


「なぜ黙っているんだ?」

「そんなわけがないだろ」


マリーは小さく笑った


そして、リンの前まで歩み寄る


「そんな薬、いらないよ」


マリーは、静かに言った

「リンの言う通り」

「わたしとリックで、アルトを殺したの」


ルッツが驚いて声をあげる


「なに!?」


「今更、隠したりしないよ」

「ルッツを王にする」

「それだけが……私の価値だったから」


マリーはリンを見る


「ねえ、リン」

「お願いがあるの」

「あなたなら、わたしの気持ち、分かってくれるでしょ?」

「わたしには、あなたの真似はできない」


マリーは両膝を床についた


手を合わせ、頭を下げる


「だから、この首を跳ねてちょうだい」

「あなたに、終わらせてほしい」


リンはベッドから立ち上がった


ナルが咄嗟に声をあげる


「だめだよ、リン」


リンは、そんなナルを包帯の巻かれた右腕で引き寄せた


そして左腕で、ミナも引き寄せる


リンはマリーに言った


「マリー、こちらを見なさい」


マリーは祈るような姿勢のまま、リンを見る


リンはナルとミナを抱き寄せたまま、微笑んだ


「わたくしの娘です」

「可愛いでしょう?」


リンの声は穏やかだった


「死んじゃったら、つまらないですよ」


マリーの表情が、わずかに揺れる


「あなたを許すことはできない」

「でもそれは、わたくし自身に対しても同じなのです」


リンは、まっすぐマリーを見た


「あなたが死んでしまったら」

「わたくしの同類が、いなくなってしまうではないですか」

「一緒に、惨めに……自分を責めて生きてください」

「わたくしのためにね」


マリーは肩を落とした


そして、ぽつりと言った


「リンは、いじわるだね……」


リンは牢屋の開かない窓へ手を向けた


水の刃が走り、四隅を切り裂く


窓は鉄格子ごと外れ、下へ落ちていった


「二人とも、帰りますよ」

「こんな臭いところは、もうたくさんです」

「早く帰って、まずはお風呂に入りますよ」


リンは窓の外を見た


「家まで競争です」

「一番遅かった人には、背中を洗ってもらいますからね」


そう言うと、水が弾け飛んだ


リンの体が空高く飛び出していく


「あーー、ずるいよ!」

「フライングじゃん!」


ナルがそれに続いて飛び出した


ミナも窓の前に立つ


そして、頭をかくように触ってからマリーを見た


「あんたさ」

「色々あるんだろうけど」


ミナはルッツを目で示す


「大事な人に、そんな顔させてちゃ嘘じゃない?」


マリーはつられるようにルッツを見た


ルッツの顔には、自分の不甲斐なさへの口惜しさがにじんでいた


ミナは言った


「辛いからって、捨てちゃだめなんだよ」

「ペットって、最後まで責任持たないとダメなんだってさ」


そう言って、光が弾けた


ミナも窓から飛び出していく


ミナはすぐにリンとナルに追いついた


「まだこんなところにいたんだ」

「やっぱ一番は余裕だね!」


「ミナ、早すぎだよ!」

「ずるいよ!」


「じゃ、先に行って待ってるよ~」

「わたしの背中を丁寧に洗ってね~」


そう言って、ミナは足に魔力を込める


その瞬間、ナルの方から紫の光が飛び込んできた


ミナの足元に集めた魔力が、不発に終わる


「ちょ! ええ!?」


突き出した足が、むなしく空を舞った


そしてミナは落下し始める


ミナは地面に向かって落ちていく


急いで下に向けて魔法を弾けさせ、落下を止めた


さらにもう一度、足元で光を弾けさせる


ミナはナルのところまで戻ってきた


「なにすんのよ!」

「地面に激突したらどうすんのよ!」


「ミナなら平気でしょ!」


「平気なわけないでしょ!」

「ぺしゃんこになった果物みたいになるわよ!」


二人に追いつかれそうになったリンが、振り返って言った


「わたくしも、負けず嫌いなんですよね」


すると、リンの周りから霧が広がった


リンはその霧に向けて、左腕を大きく振る


赤い粉のようなものが、ふわりと撒かれた


ナルとミナは、その霧へ飛び込むように入った


そしてすぐに突き抜けて出てくる


二人は目を押さえてせき込んでいた


「うえっ!」

「目が痛い!」

「ってか辛い、なにこれ!」


「とうがらし?」

「とうがらしだよね!?」

「ずるいよ!」


リンはにやりと笑い、組合に向かって飛んでいく


競争の結果は、


一位リン、二位ミナ、三位ナルだった




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