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赤さびの魔女  作者: うめやす.
3章_過去からその先へ
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第四十二話 リンVSリック 3

ミナとナルがリンに駆け寄って体を支える

リンの右腕は、あちこちの骨が折れて、酷い状態だった


ナルがリンの背中に手を回す

「リン! 大丈夫?」


「ええ、あなた達のおかげで助かりました」

「ごめんなさい、行きがかりで王様殺しをしてしまいましたね」

「もう忘れようと思っていたんですけど」

「あなた方を、結局は巻き込んでしまった」


「仇討ちってなんだったの? 誰の?」


「わたくしが愛した人のことです。リックの兄でした」

「婚約もして将来を約束していました」


ミナが聞いた

「前にサラさんに取られたって言ってた人?」


「そうです」

「以前はああ言いましたが、実は少し違うのです」

「アルに惚れ薬を使ったのはわたくしです」

「わたくし自ら、アルに飲ませ、サラに彼の気持ちを移しました」


ナルは困惑した表情で聞いた

「え……なんでそんなことするの?」

「両想いだったんでしょ?」


「わたくしは、子供が産めない体なのです」

「月経が来たこともありません」

「アルは優しい人でした、そしてわたくしを心から愛してくれていた」

「彼ならわたくしへの気持ちを優先し、子を諦めるであろうと思いました」

「だから、サラに押し付けたのです」

「サラはアルを慕っていましたから」


リンは左手で自分の頬に触れた

「二人が婚約して、しばらくしたらサラに気づかれて…怒られました」

「それ以来、二人には会っていません」

「ある日、アルが病死したと聞かされました」

「わたくしは遺体すら、見ることを許されなかった」

「そしてサラも、アルとの間の子に、血も肉も骨も与えて死んでいた」


「もし……」


「もしも……わたくしが逃げずに、アルの近くにいれば…」

「サラに重荷を押し付けなければ……」

「ひょっとしたら、今も……三人で……」


そこまで話をして

リンは跪いて肩を落とす

どうしようもない虚しさに襲われる


ようやく……終わった


リックを殺したところで

何も変わらない、リンが救われることはない


分かっていたことだった

自分を突き動かしてきたものは無くなった……


そう……終わったのだ……

終われるのだ


リンは胸元のポケットに入った小瓶を見る

蒸気にして相手に吸わせるための3つの薬


一つは正直者になれる青い薬

もう一つは相手を麻痺させる黄色い薬

そして……

もう一つは相手を殺す赤い薬


赤い蒸気が、小瓶からゆっくりと上がった


リンの目から、光が消えていく


このまま……身を任せてしまいたい

そうリンは感じていた


とても……つかれた……

もう……休もう……


赤い蒸気がリンの顔に近づく


ナルはそんなリンの顔を覗き込んだ


それから、ナルはリンの前に回り込み

両腕を横に大きく開いた

「リン!おいで!」


リンが現実に引き戻されたように目を丸くした

「え?」


ナルはそのまま両腕を広げていた

あまり豊かではない胸を、リンに差し出すように


あの日、リンがしてくれたことを

ナルは真似ているのだろう


リンの目元が和らいだ

赤い蒸気は気が付けば消えていた


そして、ゆっくりと立ち上がり

ナルの頭に左手を置いて撫でる

それから小さくナルのおでこにデコピンした


「わたくしを慰めようなんて」

「十年早いですよ、ナル」


ボロボロな顔、泥だらけの体、乱れ破れた服装

それでも、いつもの表情で、綺麗な姿勢で、リンはそう言った


けれど、すぐに足がふらついてバランスを崩す

それをミナが、リンの腕を抱えるように横から支えた

「ボロボロのくせに強がらないでよ」


そう言われて、リンが答えた

「いやです」

「わたくしは、いじっぱりですから」


ナルも反対の腕を抱えるようにリンを支えた

「早くどこかで休もうよ。横になった方がいいよ」


二人に体を支えられて、リンはゆっくりと歩き出した

するとリンが口を開いた

「あなたたちには、言っておきたいことがあります」


ナルが小さく首をかしげる

「え、なに?」


ミナが聞いた

「まさか、こんな時までお説教?」


リンは二人に支えられたまま、静かに言った

「二人とも……ありがとう」

「感謝していますよ」


ミナとナルは、お互いの顔を見合わせた


そしていつもの口調に戻ってナルが言った

「だったら、私の胸で泣いてよね」

「ワンワン泣くリンを見れるチャンスだと思ったのに」


ミナも少しいたずらっぽく笑って頷いた

「そうそう、きっと子供みたいに泣くと思ったよね」


リンは呆れたように言った

「あなた達が、そういう子だと知っていますからね」

「その手には乗りませんよ」

「わたくしは死んでも、そんな姿は誰にも見せません」


ナルが不満そうに言った

「なによ、本当は泣きたいくせに」

「我慢ばっかりしてたら体に悪いよ」


リンはすぐに言い返した

「あなたの飴玉の方が、よほど体に悪いです」

「1日に3個までですよ」


ナルがすぐに反論した

「なんで減ってんのよ! 5個でしょ!?」


他愛のない軽口を叩きながら

リンは思った


今の私には

進むべき道が見えている


自分の全てを捧げて

力いっぱい、彼女たちの背中を押して


大きな、大きな、助走をつけてあげる

この子たちが、高く、遠くへ、羽ばたけるように


それが、私が歩く道なのだ

この子たちが私にくれた

人生なんだ



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