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第五話 悪しき師

傷つけ刻む

魔女の教え

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」

赤いジャージ姿のナルが、白い岩肌の崖道を必死に駆け上がっていた


「なんでこんなことしなきゃいけないのよ~~!」


悲痛な叫びが、山にこだまする

その後ろを、馬にまたがったリンが涼しい顔でついてきていた


「魔女は一に体力、二に体力、三四がなくて五に体力です」

「ナルは貧弱すぎます。まずは体を鍛えます」


「なにそれ!? 思ってたのと全然違うんですけど!」


「魔道とは筋肉です。体力です。貧弱な魔女など無価値です」


「リンだって細いじゃん!」


「あら、失礼な物言いですね。見ます? 私のシックスパック」


「あなた、その見た目で実はムキムキなの!?」


「当然です」

「筋肉がないから、あなたは軟弱な精神なのです」

「魔女なら、誘惑でも洗脳でもなんでも使って、欲しいものは手に入れなさい」


「リンは魔女云々の前に心が死んでるだけでしょ!?」


「あらあら、生意気ですね。もう一往復行きましょうか」

「私が立派な魔女にしてあげます」


「あんたみたいにはなりたくないわよ!」


ナルの声が山に響き渡った


リンに弟子入りしてすぐ、ナルは町から連れ出され、この岩だらけの山で修行をつけられていた

ギルドには、リンから「しばらく留守にする」とだけ伝えてあるらしい

そして着いて早々やらされたのが、走り込みと筋トレだった


ようやく一段落すると、リンが言った


「さあ、次は食事です。ゴールデンタイムを逃してはいけません」


そう言って差し出されたのは、大きなコップに入った白い液体だった

よく見ると、何か色々浮いている

ナルは露骨に顔をしかめた


「あの……食事って……これ?」


「そうです」


「これ、飲んでも大丈夫なやつ?」

「というか、飲みたくないんだけど」


「それを飲まないと筋トレが無駄になります。早く飲みなさい」


ナルはしばらく悲しそうにコップを見つめたあと、覚悟を決めて口をつけた


「うぇぇぇ……なにこれ……まずいんですけど……」


「全部飲みなさい」

「そんなブヨブヨの体だから、1年も二人で暮らしたのにソラさんがその気にならないのです」


「なにそれ!? ブヨブヨなんかしてないもん!」

「無駄なお肉なんかないから!」


「筋肉もないでしょ?」

「そんな貧弱な体で生意気を言うんじゃありません」


「リンの言う通りにしてたら、わたしまでムキムキになっちゃうじゃん!」

「それこそ、その気になってもらえないよ!」


「それならあなたが押し倒せばいいでしょう」

「筋肉があればできます」


「言ってること意味分かんないんだけど!? そんな人だったの!?」


「意味なんかいりません!」

「グチグチグチグチと、その軟弱さはその体から来ています」

「さあ、全部飲みなさい!」


「いい加減してよ!」


ナルは白い液体の入ったコップを投げ飛ばした

中身が岩場にぶちまけられる


「こんなこと、なんでやらなきゃいけないの!?」


「必要だからやっています。それだけです」


「なによそれ!」

「そもそも、リンはわたしより弱いじゃない!」

「軟弱はそっちの方なんじゃないの!?」


リンが、すっと目を細めた


「わたしがナルより弱い?」

「面白い冗談ですね」


「もういい! わたし帰るからね!」


「許しません。どうしても帰りたいなら、わたくしを倒しなさい」


「わたし帰るから!」


ナルの周囲に赤い砂が舞い上がった


「悪いけど、リンが動けなくなるまでやるよ! 恨みっこなしだからね」


空気が震え、何本もの紫色の蛇が現れる

ナルの中に巣くう魔力を食らう蛇、悪食のスキルだった


だがリンは、薄く笑った


「うんうん、いいですよ、ナル」

「そういうのが良いのです」


「手加減なんかしてあげないんだから!」


「あら、本気ですね」

「でも、そんなことして大丈夫ですか?」


「なにがよ!?」


「この山、魔力消費が普段の千倍ですよ」


次の瞬間だった

ナルの全身から力が抜けた

赤い砂が消え、悪食の蛇も霧みたいに掻き消える


「え……」


膝から崩れ落ち、そのまま地面に倒れ込んだ

指一本、まともに動かせない


リンはゆっくりと歩み寄ってくる

その影がナルに落ちた

見上げた先で、リンは勝ち誇ったように笑っていた


「これで分かりましたか?」

「ここに来た時点で、私は勝っているのです」


ナルは言い返したかった

けれど声が出ない


「愚かな私の弟子に、一つ教えましょう」


リンはナルの前にしゃがみ込んだ


「あなたは一年もあったのに、自分が欲しいものを手に入れられなかった」

「それはあなたの怠慢です。弱さが原因です」


リンの指が、ナルの顎をつかむ

ぐいと持ち上げられ、無理やり視線を合わせさせられる


「欲しいなら、失いたくないなら、なんだってやる」

「それが魔女です」


「努力を怠り、メソメソするのはやめなさい」


リンの声は静かだった

けれど、一言一言が突き刺さる


「現にあなたは後悔しているでしょう?」

「諦めきれていないでしょう?」


ナルの目が揺れる


「出来ることをやらなかったからです」

「彼の寝室に行って、誘惑しなかったからです」


ナルは唇を噛んだ


「やれば、彼は拒否しない」

「分かっていたのでは?」


心を覗かれたみたいで、ナルは息を詰める


「ミナさんに遠慮して、自分を誤魔化し、譲った」

「だからあなたは失ったのです」


リンは、白い液体の入った新しいコップを持ち上げた


「あなたは魔女にならなければいけません」

「軟弱は許されない」


そして、ナルの口元へコップを押しつける


「さあ、飲みなさい」


「んっ……! やっ……」


無理やり流し込まれ、ナルは激しくむせた


「ゲホッ、ゲホッ……!」


だがリンはお構いなしに最後まで飲ませ切る

それから、まるで小さな子供を褒めるみたいに、ナルの頭を優しく撫でた


「ほら、飲めたじゃない」

「ナルは、やれば出来る子でしょう?」


ナルは声も出せないまま、リンを睨みつけた

それを見てリンは、満足そうに微笑んだ


「それでいいんですよ」

「私の可愛い、ナル」


ナルはリンを睨みながら、心の中で吐き捨てた


好き勝手に言って

この女、絶対許さないんだから

火曜の朝に定期更新

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