第四十二話 リンVSリック 1
城壁の上にリックの姿があった
この国の王であり
最強のA級魔法使いでもある男だった
リックは高くジャンプして三人の前に着地した
赤く短い髪は、以前と同じように整えられている
精悍な顔立ちも変わらない
けれど、前に感じた柔らかさはなかった
今のリックには
相手を押さえつけるような高圧的な眼差しと
厳しく固まった表情だけがあった
そして倒れたレアルを見る
「やはり反逆か」
「なるほどな、お前の手駒を王妃にすると言っても聞かないわけだ」
リンは深く頭を下げた
「ごきげんよう、リック王」
「突然の訪問、申し訳ありません」
リックは不快そうにリンを見下ろす
「白々しい、俺を殺しに来たんだろ」
「ルッツも関与しているのか?」
リンは表情を変えずに答えた
「リック王を殺したりしませんよ」
「用件はお分かりでは?」
「わたくし達は人工太陽を作ることに成功しました」
「もうドラゴンの魔力に頼る理由はありません」
リックは鼻で笑うように言った
「だから、ヴァルドリアの言うことを聞けというわけか?」
リンは即座に答えた
「はい、それが国益です」
「わたくしが交渉いたしましょう、可能な限りの支援を引き出して差し上げます」
リックは空の光球を見て問う
「あの太陽は冬の間、ずっと維持できるのか?」
「はい」
リックは少し悩むように空に浮かぶ光を見ていた
それからリンを見下すようにして言った
「だめだ、お前は俺に反逆をしている。信用できん」
リンは平然と返した
「あら、レアルは空の散歩をしていただけのわたくしたちを撃ち落としたのです」
「ですからお返しをしただけ」
「リック王に歯向かったわけではありません」
リックは有無を言わさない口調で言った
「ならば、証を見せろ」
「ナルを俺によこせ、王妃にしてやる」
「リンも大臣になって城に住め、望むならミナも連れて来ていい」
「敵ではないと言うのなら、俺の役に立て」
「これなら、文句ないだろ」
その時、雷が鳴って雨が降り始めた
リンはリックとナルの間まで歩き
立ちふさがるようにリックに向き直った
「だめです」
雷の光と共にリックの顔に強い影が入る
リックの声が低くなる
「どういうことか、分かっているな」
リンはリックから目を逸らさなかった
「ええ、分かっていますよ。リック」
呼び捨てにされて、リックの顔が歪む
リンは静かに続けた
「結局、こうなるんですね」
「でもわたくし、正直にいえば、こうなって嬉しいですよ」
「あなたにずっと聞きたいことがあったんです」
リックの眉がぴくりと動いた
「なんだと」
リンは穏やかな口調で、でもはっきりと言葉を置いた
「あなた、アルを殺しましたよね?」
リックは表情を硬くしたまま答えた
「俺じゃない」
リンは視線を外さずに問いを重ねた
「では、だれだと言うんです?」
「だれに、そんなことができるんですか?」
「アルを殺せるとすれば、あなたか、ルッツ…」
「それとも、その両方ですかね?」
リックは硬い声で言った
「違う、アルトは病死だ。殺されたわけじゃない」
アルト
リンがアルと愛称で呼んでいる男の名だった
リンがくすくすと笑い出した
「短気なあなたのこと…」
「本当に違うなら、わたくしに襲い掛かってきているのでは?」
「リック、正直者になれるお薬が、鼻から入りましたよ」
「この雨、わたくしの魔法ですからね」
「さぁ、正直に教えてください」
「あなたが殺したんですよね?」
「ルッツも協力しましたか?」
リック王の様子がおかしくなった
目が少し虚ろになり
呆然としたように答えた
「そうだ、俺が殺した、あいつが邪魔だった」
「ルッツは関係ない、あいつとは昔から馬が合わん」
すぐに薬の効果が切れたのか
リックは目を見開いた
雨脚はさらに強くなり、雷の音が響く
リンは静かに言った
「やっぱりあなただったんですね」
リックは答えなかった
王として取り繕う顔が消え
殺意だけが膨れ上がっていく
リックの魔力が爆発するように高まり
その体が光に覆われ始めた
ミナの魔法とよく似ていた
その光はリックの体から水を弾き飛ばしながら
外へ押し広がっていった
リンはゆっくりと前傾姿勢を取り、リックに向けて構えた
そして、ミナとナルに強い口調で指示を出す
「あなた達は離れていなさい」
「決して、手を出さないで」
「これはわたくしの戦いなのです」
ナルはミナの顔を確認するように見る
ミナが首を横に振ってナルの肩に手を置いた
そして静かに距離を取り始める
嵐のように雷と雨が強くなっていく
いつのまにかリンの胸には赤い宝石の首飾りがぶら下がっていた
「アルの仇討ちです、ご覚悟を」




