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赤さびの魔女  作者: うめやす.
3章_過去からその先へ
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第四十一話 ナルVSレアル 2

深い紺色の上質な服を着た、中年の男


整えられた口ひげ、後ろへ撫でつけた髪、白い手袋


その姿には、乱れたところが一つもない


レアルは城門の前に立ったまま、低くよく通る声で言った


「誰かと思えば……なんの真似だリン、気でも狂ったのか?」


リンが姿勢を正して言った


「リック王からの招待です、いつでもいいから訪ねて来いと、手紙に書いてありました」


「そんなバカげた話を信じるとでも思っているのか?」


レアルはミナとナルを見た


「そいつらを連れて、城を襲いに来たのだろう」

「やはりそのつもりだったか」


リンはまばたきひとつせずに返した


「あら、レアル。それは考えすぎですよ」

「わたくし達は平和な魔女です、話をしに来ただけです」


「この時期にか?」

「だったら、きちんと手続きをしてから来ればいいだろう」

「なぜ急に飛んできた?」


「その方が早いからです」

「とても大切な話がリック王にあります」


「リン、芝居はもうやめろ」

「おまえのその手駒が、王の名を呼び捨てにしていたことは知っている」

「貴様らは最初から反逆するつもりだろう、違うなら今すぐ帰れ」

「王に会いたいなら俺を殺さなければ無理だぞ」


「ふぅ、そうなりますか」

「この子たちは礼儀を知らないだけです、悪意はありません」

「ただ、レアルがそう考えるのは仕方のないこと、その点は謝っておきます」

「ですが、わたくしも引く気はありません」


そう言って、リンは歩み出た


「わたくしが相手をしましょう」

「あなたでは、この子達の相手にもなりませんから」


レアルの表情が歪む


「まって!」


ふいにナルの声が響いた


リンがあっけにとられたようにナルを見る


ナルは、リンのそんな目線は素知らぬ顔でレアルに歩み寄った


そして頭を下げた


「レアル、飴玉をくれてありがとう」

「あなたが用意してくれて、初めて食べて、私、すごく好きになったの」


レアルの顔に困惑の色が浮かぶ


ナルは一度だけ息を吸った


そして顔を上げ、まっすぐレアルを見た


「それから、旧市街にも魔力を送ってくれてありがとう」

「そのおかげで、わたしも、家族も、凍えて死ななくてすんだの」

「だから、お願い。皆が死なない未来の為に、リックに会わせて」

「わたしね、レアルを嫌な奴だと思ってたけど」

「皆のためにやってるんでしょ?」

「だったら、わたしたちに協力してよ」


「ほら、あれ見てよ」


ナルが指差す方向に先ほどミナが作った光の球が浮いている


その光は城にも届いていて、ポカポカと暖かかった


「ドラゴンの魔力なんか、いらない国にするの」


そのセリフにレアルが反応した


そして、ナルを見て言った


「あれもおまえらの仕業か」

「ナル、君は前に会った時と全く違うね」

「ずいぶんと立派になったようだ」

「君はなにがしたい?」

「俺はなにに協力すればいい?」

「言ってみろ」


ナルは力強くレアルの目を見つめ返す


「わたし、自分がやりたいことが何なのか……よくわかってなかった」

「美味しいもの食べて、旅行なんかもして、家族と暮らせればそれでよかった」

「でもね、もうそれじゃ駄目なの、満足できない」


そして胸を張って高らかに言い放った


「私は悲しいことを全部食べちゃう魔女になりたい!」

「誰も凍えない、誰も不幸にしない」

「皆が、何も心配せずに家族と楽しく暮らせる……そんな国にするの」

「だから、手伝ってよ!」


レアルは少しの間、目を閉じていた


そして、何かを振り切るように目を開くと


ナルを睨みながら言った


「ドラゴンの魔力などいらない国……」

「もう、30年以上は経つ。同じセリフを私は吐いたことがある」

「だが、わたしが出来ることなど知れていた」

「それが、戦争の原因になろうとしていることなど知っている」

「だが、他にどうしろと言うのだ……」

「弱い者から見捨てるのか? そんな国が正しいのか?」

「お前には出来るとでも言うのか?」

「私だけじゃない、リンも他のA級魔法使いも、先人たちも出来なかったのだ」

「不完全でも、今が……皆の努力の結晶なのだ」

「これを捨てたら、何人死ぬ?」

「そんなことはさせない……」

「間違っているというのなら、わたしを殺して進め」


ナルは静かに前に踏み出した


そしてレアルとしっかりと対峙する


「ぐたぐたと弱音ばっかり煩いわよ、おじさん」

「ようするにあんた、諦めてるんでしょ?」

「いいよ、だったらあんたはやらなくて」

「代わりに、わたしたちがやるから」

「かかっておいで、レアル」

「ついでにあなたを、しがらみから解放してあげる」

「自分でできないなら、その固い頭を、わたしがたたき割ってあげるよ」

「あんたが負けたら、もっと良い未来を、わたしたちと作りなさい!」


ナルにそう言われて明らかにレアルの雰囲気が変わった


目元がけいれんするようにぴくついている


レアルの周囲で風が舞い、その身体がふわりと浮く


空気が低く唸った


緑色の魔法の風がレアルを包み込むように広がる


城門の石畳に細い傷が走った


「いいだろう」

「そこまで言うのなら、俺を倒してみせろ」

「俺は風の魔法を使う、かまいたちを操り敵を引き裂く」


ナルが少し驚いた顔をした


「え? 教えてくれるの? なんで?」


ナルの反応を無視するようにレアルは身構えた


次の瞬間


レアルは両手を重ね、ゆっくりと上に上げた


そして鋭く大きく振り下ろす


巨大な緑の風の刃が現れ、高い音が鳴った


刃は地面を引き裂きながら


猛烈な勢いでナルに向かって飛ぶ


リンが呟くように言った


「うかつですね、レアル」


次の瞬間、紫の光が広がった


レアルが放った魔法は飲み込まれてあっという間に掻き消えた


レアル本人も紫の光に飲み込まれる


「なんだ!? これは」


レアルが気が付くと、周辺は紫の光に包まれていた


ナルの悪食の光だった


ナルはゆっくりとレアルに歩み寄ってくる


「私の悪食は魔力を食べるの」

「あなたはもう、魔法を出すことはできない」


レアルはまた腕を振り下ろした


だが、彼の風の魔法は出ない


レアルは驚いて声を上げた


「こんなばかげたことが!?」


レアルの体を赤い砂が包み込む


「なに!」


慌ててレアルは逃れようとするが無駄な抵抗だった


あっという間に、レアルの顔以外は砂に囲まれた


ナルはレアルのすぐ前で足を止めた


「もう終わりにしようよ」

「このまま顔も砂で覆って、息ができないようにする?」

「それとも、砂を締め上げて体の骨を折る?」

「その砂を針に変えて、体を穴だらけにする?」

「あなたじゃ、わたしには勝てない」

「降参しなさい」


レアルはナルを睨みつけて言った


「殺せ」


ナルはあっかんべーをしてレアルに言った


「やだよ!」


赤い砂が周辺から金属を集めてきた


手すりや装飾、つり橋の金具


それはレアルの顔の近くで急速に酸化して崩れ落ちる


それと同時に、レアルは白目をむいて気を失っていた


急速に酸素が失われた空気を吸い込んだのだ


ナルはゆっくりと砂を動かしてレアルを地面に横たえた


ナルが小さくすきっぷしながら戻ってくる


「勝ったよ~」




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