第三十九話 週刊イナクニュース 1
リンの明るい声が響いた
「毎週恒例~イナクさんにゅ~す」
ナルが一生懸命に拍手する
これをやらないとリンはイナク情報を教えてくれない
その様子を見ながら
ミナは机に頬杖をついた
毎週月曜日になると、リンはこれを始める
どう見ても、ナルのリアクションを楽しんでいる
ミナはぽつりと口に出す
「趣味わるすぎ」
リンの声が弾む
「今日はわたくし達のダッツ君がお手柄ですよ」
「なんと、イナクさんとお友達になったそうです~」
「おぉ~、いいぞ! ダッツ~」
ナルが歓声をあげ拍手をする
ダッツとはリンが第三軍に送り込んでいる潜入員の名前らしい
ミナは毎週訪れるこの時間にうんざりしていた
というより
この時だけ変なテンションになるリンが気持ち悪かった
「それで、イナクさんに聞いてみたそうですよ」
「好きな子とかいるの?」
「って」
ナルが食いつくように聞く
「それで、イナクはなんて?」
リンはわざと間を置いてから答える
「いないらしいですよ」
ナルは嬉しいような
なんとなく複雑そうな表情になった
「そ、そうなんだ」
そんなナルを見てリンがにやりと笑う
「それで、さらに聞いてみたそうです」
「好きな女性のタイプとかあるの?三人の女隊長だと、どれが一番好みなんだよ?」
「ってね」
ミナが少し呆れて言った
「ダッツ……普通に恋話して報告してきてるじゃん」
ナルは身を乗り出した
「それでそれで?」
「小柄で華奢で、薄い桃色のふわりとした長い髪で、琥珀色の目をした、無神経でザリガニを殻まで食べるような子が好みだ」
「と答えたそうです」
ミナが突っ込むように言った
「いや、それナルじゃん。具体的すぎるでしょ」
ナルが妙に静かだった
変に思って、ミナはナルを横目で見る
ナルの耳が真っ赤になっていた
それを見て、ミナは少し疲れたようにため息をついた
「ダッツ君は冗談だと思ったようです。それで聞いたそうですよ」
「三人の女隊長では誰が好みなんだよ? テッサとか良くね?おっぱいこんなんだぜ」
「とね」
ナルの目がぴくりと反応する
「なに余計なこと聞いてくれてんのよ! なによその下品な会話」
「ダッツはどっちの味方なの?」
「イナクさんはしばらく考えたあとに」
「ラミルと答えたそうですよ。この前の子ですね」
「根性があるところが良いそうです」
ナルは勢いよく立ち上がった
「なんですって!」
「やっぱりとどめをさしておけばよかったわ!」
ミナが面倒そうに言った
「あの子ってイナクに本気っぽかったもんね」
「ちょっと両想い~ってわけか」
ナルがじろりとミナを睨んだ
リンが続ける
「それでさらに聞いたそうです」
「じゃ、ラミルからでいいじゃん、抱いちゃえよ。もったいないぜ大将」
「俺だったら速攻いってるね」
「と言ったそうです」
ナルは机を叩く勢いで身を乗り出した
「ちょっとダッツ! なに言ってんのよ!?」
「なんで煽ってんのよ!裏切ったわね!」
リンは小さく首を横に振った
「どうも……任務を理解しきれていないようですね」
「イナクさんと、普通に友達になってしまっているようです」
ミナが両足を伸ばして疲れたように言った
「聞いてるだけでうんざりする下品な会話ね……」
それでも少し気になるらしく
ミナは横目でリンを見る
「っで? イナクはなんて答えたの?」
リンはテンポよく答えた
「小柄で華奢で、薄い桃色のふわりとした長い髪で、琥珀色の目をした、無神経でザリガニを殻まで食べるような子なら抱きたい」
「と答えたそうです」
「ユーモアがあって面白い奴だ、紹介してくれてありがとう」
「と、最後に書いてありました」
「冗談だと思ったんでしょうね」
ただ、期待したナルの反応がなかった
リンがナルの方を確認すると
ナルは両耳から広がるように顔が赤くなっていった
そんなナルを、リンは目をパチパチさせて見る
そして薄く笑って意地悪な質問をした
「イナクさんとは兄妹なんですよね?」
ナルが動揺したように答える
「そ、そうだよ」
ミナがもうどうでもよさそうに言った
「もうその設定いらなくない」
「あんたらみたいな兄妹がどこにいるのよ」
「いたら気持ち悪いでしょ」
ナルがむっとして言った
「なによその言い方、気持ち悪くなんかないわよ」
ミナがため息をつく
「妹の特徴並べて好みだとか抱きたいとか言う兄がいるわけないでしょ」
「お兄ちゃんに抱きたいって言われて、顔赤くする妹なんかいるわけないよね」
「別にわたしたちにまで、隠さなくていいから」
「異性として好きでいいじゃん」
ナルははっとした顔で目を見開いてミナを見た
「え?」
つられてミナも目を見開いてナルと目が合う
「へ?」
するとナルが微動だにせず長考に入った
リンが小さくため息をついた
「自分では気づいていないナルを、からかうのが楽しかったのに」
「なんてことを言うんですか、ミナ」
ミナが驚いて声を上げる
「えええ! 自覚がなかったの?」
「誰が見ても分かるでしょ、こんなの」
ナルは目を見開いたまま固まっていた
茫然とした目で考え続けていた
考えてみれば
ナルが17歳の誕生日に
イナクに結婚してくれと、求婚されて
驚いて自分の部屋に逃げ込んだ
でも次の日に、イナクが討伐の仕事を受けると言い出して
頼んでも止めてくれなくて
戦おうとするイナクを、軍人だった父親と重ねるようになって
母親と同じような人を好きになったことが
怖くなって、イナクのプロポーズを断った
でも、パパは本当はそんな人じゃなくて
パパとママは、やっぱり手紙の通りの良い人たちで
イナクがパパに似てたとしても……別に良いわけで
と……いうことは……
そして、ついに答えにたどり着いた
驚愕の発見をしたように
ナルは二人に告げる
「わたし、イナクのことが……」
「好きだったみたい!」
リンとミナは、ほとんど同時に言った
「でしょうね」
「でしょうね」




