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赤さびの魔女  作者: うめやす.
3章_過去からその先へ
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第三十八話 二人の自慢

ナルは組合へ戻る道を急いだ


その途中、ラピスギルドの前を通り過ぎる


ナルは前だけを向いて歩いていた


帰り着いた頃には


もう夕方になっていた


ナルはエレベーターで最上階へ上がり


リンの部屋の扉を開ける


部屋の中では


リンとミナが片づけをしていた


ガラスの破片はなくなっている


けれど、部屋はまだ荒れていた


割れた窓ガラスの代わりなのか


窓枠には薄い光の板が張ってある


ミナの魔法のようだった


「あ! ナル、お帰り~」


「ただいま~」


「もう、一人で行くことないじゃん。起こしてよね」


「ごめんね、気持ちよさそうに寝てたからさ」

「部屋の片づけ、わたしも手伝うよ」


リンが言った


「二人ともお腹が空いたでしょう。いま準備しますね」


そう言われて、ナルは空腹に気づく


「あ! そうだ、わたし今日なにも食べてないよ~」


ぐう~


ナルのお腹が目覚めたように鳴りだした


ミナが驚いて言った


「ええ! なにも食べてないの? ナルなのに?」


「ナルなのにってなによ、悪意を感じるわね」


ミナが思い出したように言った


「そうだ!」


ミナはポケットをごそごそ探り


ナルに耳打ちした


「これ、あげるよ」


そう言って、ミナはナルの手に何かを渡した


そこには飴玉が3個あった


ナルの目が輝く

「え! え! どうしたの? これ」


「部屋の片づけしてたらさ、見つけちゃったの、飴玉の隠し場所」

「後で教えてあげるね」


「ほんとに!? ナイス! ミナ」


すると、キッチンから美味しそうな香りが流れてきた


ナルがお腹を抱えて苦しみだした


「お腹が空きすぎてて変になりそう」


「悪食だけは出さないでよ!はやくその飴を舐めてよ」


「いや、だって貴重だし、3個しかないし」


「なに言ってんのよ! なんのためにあげたと思ってるの!」


すると、小さく震えて耐えていたナルの動きが止まった


ナルはゆっくりミナを見る


頬が、薄く赤くなっていく


「ミナ、好き」


やばい!


ミナは飛ぶようにナルから離れた


次の瞬間


ミナが立っていた足元から


紫の光が柱のように立ち上がった


ミナはそれを見て胸をなでおろす


「あっぶな~」

「絶対捕まらないもんね!」


素早くミナは窓から逃げ出そうとした


しかし、窓へ向かうより早く


紫の光が横から広がり、逃げ道を塞いだ


「ちょ! うそでしょ!?」


ミナが周りを見回すと、既に紫の光に囲まれていた


「なにこれ……悪食ってこんなに大きかったの」


ナルがミナに近づいてくる


「逃げるなんて酷いよミナ」

「ずっと一緒にいようよ、わたしのこと好きでしょ?」


「一緒にはいるけど、そういうのは駄目!」

「しっかりしてよナル!」


どんどん紫の光が四方八方からミナに迫る


「いいじゃん、ミナ好きな人いないんだから」

「わたしが暫定一位でしょ? お試ししなよ」


「お試しってなによ!?どっから出てくるのよ、そんな発想」


「駄目な男のセリフ総集編って本に書いてあった」


「変な本は読むなって言ってるでしょ!」


ミナは意を決して窓の方を向いた


光の弓が現れて悪食に向けて虹色の矢を向ける


「わたしの操はわたしが守るわ!」


するとリンが、鍋を持ってキッチンからパタパタと出てきた


「そんなもの、こんなところで撃たないでください」

「やっと片づいてきたのに」


今日の料理はシチューだった


リンは食卓に鍋を置くと


またパタパタとキッチンに戻った


温かい香りが部屋に広がる


すると、紫の光がすっと消えた


ナルはシチューだけを見つめたまま


食卓へ向かって歩き出した


ほっとしたミナは弓を消して警戒を解いた


ミナも食卓に座ろうと歩き出す


するとまたリンがパタパタと戻ってきた


「鍋の蓋を忘れていました」

「せっかくのシチューが冷めてしまいますね」


そう言って鍋に蓋をする


即座にナルの視線が


ぎらりとミナへ向いた


そして悪食の光がミナを包み込み


赤い砂が両手足をつなぎ留めた


ミナはあっけにとられた顔をした


「う……うそでしょ……」


次の瞬間ナルの唇がミナのそれを塞いだ


「んーーーー!!」


ミナの断末魔が響いた


すぐにリンは気づいた


「あら、ごめんなさい」


そして鍋の蓋を持ち上げた


またシチューの香りが広がる


ナルはすぐにミナを解放し


食卓に座ると


自分でシチューを皿によそい、食べ始めた


ミナはその場に座り込むようにして肩を落とす


「もう……4回目なんですけど……」


ナルが食べながら言った


「ごめんミナ、後でちゃんと謝るね」

「ノーカンで行こうよ」


「だから! わたしはカウントされてんのよ!」

「もう4回目なのよ! どうしてくれんのよ!」


ミナはしばらく怒っていたが、やがて食卓に座った


なんにせよ、リンのシチューは美味しかった


ナルは、ぽかぽかと胸まで温まる


それはシチューだけのおかげではない気がした


食事を終えると


ナルはメイクを落とし、肌の手入れをしてから部屋へ戻った


ミナがまだプンプンと怒っていたのを思い出す


ナルは小さく笑った


「明日また、きちんと謝らなきゃね」


それからベッドに横になり


暗くなった部屋の天井を見ていた


すると部屋の扉がノックされた


「はい」


扉が開く


訪ねてきたのはリンだった


「少しいいですか?」


「いいよ」


ナルは起き上がろうとする


それを止めるようにリンは言った


「そのままでいいですよ」


リンは机の横にあった椅子を取り


ベッドの横に置いて座った


「どうしたの? リン」


「わたくしがナルのそばにいたいのです」


そう言って、リンは両手でナルの右手を握った


「今日は、がんばりましたね」

「ナルが眠るまで、こうして手を握らせてください」


リンの手は暖かかった


なにより気持ちが伝わってくるようだった


「ねえ、リン」


「なんでしょう」


「一つだけ、自慢してもいいかな」


「はい、聞かせてください」


「わたし……受け止めたよ、泣かなかったよ」


リンは左手を伸ばしてナルの頭を優しく撫でた


「がんばりましたね、ナル」

「あなたは立派です」


「わたくしも一つだけ自慢してもいいですか?」


「うん」


「わたくしの胸、大きいでしょ?」

「顔を押し当てたら、気持ちがいいんですよ」


そう言って、リンはゆっくりと両手を広げた


「ナル……おいで」


ナルは飛び起きるようにして


リンの胸に飛び込んだ


そして、大声をあげて


子供のように泣き出した


リンはナルを守るように抱き寄せる


ナルが泣き疲れて眠るまで


ずっと優しく頭を撫でていた




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