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赤さびの魔女  作者: うめやす.
3章_過去からその先へ
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第三十五話 美容の恩師 2

次の日の朝、うかれたナルの声が響く


「見て見て! ほっぺがプルンってしてるの!」


ミナもはしゃいだ声を出した


「私のも見てよ! 全然ちがうでしょ?」


美容修行の効果は、すぐに出ていた


リンは、はしゃぐ二人の頬を見比べた


もう目に見えて肌が変わっている


リンは冷たい目で二人を見る


「若いって……いいですね」

「もう教えるのやめたくなりました」


二人はリンの左右の手を、それぞれ掴んだ


ナルは甘えるようにリンの手を軽く引っぱる


「いじわる言わないでよ、リン」


ミナも反対側からリンの手を握りしめ


期待に満ちた顔で言った


「もっともっと教えてよ、恩師様!」


そんな二人の笑顔に、リンの表情が和らいだ


「しかたがありませんね」

「今日はわたくしの魔法で髪を洗ってさしあげます」

「シャンプーだけでなくコンディショナーもするようにしなさい」

「今日はわたくしがやってあげましょう」


「髪もわたくしの魔法で適度に湿気を与えながらとかします」

「ポイントは豚毛で作った櫛です」

「驚くほどのキューティクルを体感できますよ」


二人は嬉しそうに答えた


「はーい、恩師様~」


その次の朝、ミナの喜びの声が上がる


「みて! ナル! 起きてもバサバサ、カサカサじゃないの!」


ミナは何度も自分の髪に指を通している


いつもなら跳ねて広がっている髪が、今日は素直にまとまっていたのだ


ナルはミナの髪を見た


ツヤがある気がする


けれど、ナルにはそこまで大きな違いは分からなかった


「う、うん。良かったね」


ミナは少し涙目になって言った


「いつもは起きたらとんでもないことになってるのよ」

「寝帽子が手に入らなくて、ずっとタオルをまいて寝てたの」

「でも朝になるとあちこちに跳ねてて」

「いくらやっても治らなくて」


ミナはもう一度、自分の髪を撫でた


「でも、今日は全然、そう、全然なのよ」


その声を聞いて、リンがすっとミナの後ろに立った


「よかったですね、そのどうしようもないくせ毛」

「わたくしなら、もっと色んな方法を知っていますよ」


ミナは目を輝かせてリンに抱きついた


「大好き! 恩師様!」


「それから、これはミナへのプレゼントですよ。寝帽子を欲しがっていたでしょう」


そう言ってリンはミナの頭に長い耳が垂れたウサギの寝帽子を被せた


「え? 寝帽子? ありがとう!」


ミナの頭の横で垂れたウサギの耳が揺れている


リンはその様子を見て、ほんの少しだけ満足そうに目を細めた


その様子を見て、ナルはくすりと笑った


それから、自分の髪を触る


なめらかで、心地よい手触りだった


今までとは全然違う


それはナルにとっても同じだった


「恩師様……だね」


ナルはそう呟いた


それから、並べられた化粧道具に目を向ける


肌も髪も、リンの言う通りにしたら確かに変わった


でも、これはまだよく分からない


なんで化粧なんかしなきゃいけないんだろう


その日の手入れを一通り終えると


リンはいそいそと次の道具を並べ始めた


そして、当然のように言った


「今日は脇の毛の処理について教えますよ」

「永久に生えないようにできます、ただ、ちょっと痛いですけどね」


ナルは意味が分からないという顔で、きょとんとした


「え……なにそれ? わたし、脇に毛とか無いよ?」


ミナが驚いた声を出す


「え! ないの? なんで!?」


ナルはきょとんとしたまま、ミナを見る


「え? ミナってあるの?」


ミナが少し目を逸らした


「ないよ、そんなの」


ナルは不思議そうにミナを見た


「そうなの? ちょっと見せてよ」


ミナは即座に脇を閉じる


「やだよ」


ナルは納得できない顔になる


「なんでよ」


ミナはぷいっと横を向いた


「やなものはやなの」

「ナルは関係ないんでしょ?」

「だったらあっち行ってよ」


ナルはさらに不満そうに口を尖らせた


「なによそれ、見せてくれてもいいじゃん」


リンが二人の間に入るように口を開いた


「今日はミナの為の授業としましょうか」

「前にナルのための授業もありましたよね」

「今日はナルは休んでいてください」


ナルはまだ諦めていない顔でミナを見た


「……いいけど、その前に脇毛見せてよ」


ミナは少しだけ顔を赤くする


「なんでよ! そんなもの見てどうするの」


ナルは本気で不思議そうだった


「だって、もう見る機会無くなるじゃん、生えないようにしちゃうんでしょ?」


ミナはますます顔を赤くして、脇を押さえる


「そんなの、剃ってるから、今だって無いわよ」


ナルが目を丸くした


「え!? 剃るってなに? イナクの髭みたいに剃るの? どうやって?」


ミナはたまらず声を荒げた


「うるさいなぁ! あんたには関係ないでしょ!」


ナルが真顔で聞けば聞くほど


リンの口元が、だんだん緩んでいく


リンは一度、咳払いをしてごまかそうとした


けれど、ナルはまだ真剣な顔をしている


そして、リンはふいに吹きだした


リンは笑いを止められないまま


お腹を抱えた


そんなリンを見て


ミナがナルに耳打ちした


「こんなにリンが笑ってるの初めてみたね」


ナルも答えた


「うん、なんかちょっと意外だね、こんな風に笑うんだ」


しばらくの間、リンの笑いは止まらない


涙が出るほど、お腹を抱えて


彼女にとっては、数十年ぶりのことだった




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