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赤さびの魔女  作者: うめやす.
3章_過去からその先へ
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第三十二話 身近な魔法 1

翌朝、ナルとミナはリンに言われた通り、何も食べずに部屋を出た


今日はリンの部屋で、三人で朝食をとることになっている


そのまま修行もそこで行うらしい


二人にとって、リンの部屋へ行くのは初めてだった


組合の最上階へ向かうエレベーターの中で


ミナがぽつりと言った


「そういえば、リンの部屋に行くのって初めてじゃない?」


ナルも少し楽しそうにうなずいた


「そういえばそうだよね」

「どんな部屋に住んでるのかな」


「お金持ちっぽいから、すごそうではあるよね」


「リンの部屋だよ?きっと普通じゃないよね」


「そんな気はするね」


やがてエレベーターが最上階に着いた


扉が開くと、二人はそろって固まった


ナルが小さく声を漏らす


「なにこれ……」


そこは紫を基調とした豪華な空間だった


床にはふかふかの絨毯が敷き詰められている


廊下の両側には、動物や魔獣、魔物の剥製が並んでいた


どれも今にも動き出しそうだった


華やかなのに、どこか近づきがたい


綺麗なのに、落ち着かない


この先へ進んでいいのか、試されているような気がした


ミナは剥製の一つを横目で見ながら、小声で言った


「なんかすごいね……趣味は悪いけど」


ナルも周りをきょろきょろ見回す


「ほんとにリンってここに住んでるの?」


ミナは広い廊下の奥を見た


「のはずだよね」


ナルは剥製の並ぶ壁を見て、少し声をひそめた


「お化け屋敷みたいじゃない?」


ミナが苦笑する


「本人に聞こえたら怒られるよ」


「でも分かるでしょ?」


「分かるけど」


広い廊下の先には、扉が一つだけあった


二人はその扉の前まで行き、おそるおそるノックする


すると、扉が勝手に開いた


ミナが一歩下がる


「うわ、勝手に開いた」


ナルは扉の向こうを覗き込む


「これって、入っていいってことだよね?」


「たぶんね」


二人は扉の奥へ足を踏み入れた


すぐに、いつもリンからする花のような香りがした


入ってすぐの場所には、大きな噴水があった


中央には大理石の像が置かれている


王様らしき男を、ひとりの女性が踏みつけている像だった


ミナは無言で像を見上げる


ナルも少し引いた顔をした


「ちょっと……この部屋怖すぎない?」

「なに? あの像」

「リンって、ひょっとして男のこと恨んでる?」


ミナが壁の方を見る


そこにも、たくさんの像が並んでいた


どれも女性と男性が一組になった像で、女性が男性を踏みつけたり、殴りつけたり、剣で刺したりしていた


ミナは逆に少し興味を持ったように見ている


「リンって過去に何があったんだろうね」


ナルも同じのようだった


「ちょっと気になっちゃうよね」

「怖いもの見たさみたいなやつ?」


ミナも小さくうなずいた


「そういうことかも」


その時、二人の前に黒い猫が現れた


ナルが顔を明るくする


「あ、リンの猫だ。クロちゃんだっけ」


黒猫は二人を見上げると、案内するように、すたすたと歩き始めた


二人はクロについていく


ナルは廊下の奥を見ながら、小さく声を漏らした


「広いね、リンってここに一人で住んでるのかな?」


ミナは壁に並ぶ像を横目で見ながら、少し肩をすくめた


「多分ね。子供はいないみたいだし、どうせ恋人もいないでしょ」


ナルは慌てたようにミナを見る


「それも本人に聞こえたら怒るかもよ」


ミナは周りを見回してから、小声で言った


「聞こえてないでしょ、さすがに」


やがて、白い扉の前に着いた


するとクロは、その場でふっと掻き消えた


ナルが目を丸くする


「あ、消えた」


ミナは白い扉を見た


「ここみたいだね」


ミナが扉をノックする


するとまた、扉は勝手に開いた


二人は顔を見合わせる


「おじゃましま~す」


中に入った瞬間、空気が変わった


そこは、さっきまでの近づきがたい廊下とはまるで違っていた


三方向すべてが大きなガラス張りになっている


朝の光が差し込み、部屋全体が白くやわらかく輝いていた


薄いレースのカーテンが風に揺れている


その向こうには広いテラスが続いていた


白い石の床に、花の鉢や背の低い木々が整然と並んでいる


外の光と風が、そのまま部屋の中まで入り込んでいるようだった


部屋には、装飾の美しい家具が置かれていた


細い脚に彫刻の入ったテーブル


花の模様が刻まれた椅子


艶のある白い棚


どれも高価そうなのに、嫌味な感じはない


整いすぎていて、逆に少し現実味が薄かった


部屋の奥には、白い天幕のついた大きなベッドがあった


薄い布が幾重にも垂れていて、朝の光を受け、そこだけ夢の中のように霞んで見える


ミナはしばらく言葉を失ったように、部屋を見回していた


「なにこれ……綺麗」


ナルも目を丸くしていた


さっきまでの紫の廊下と、この白い部屋がうまく結びつかない


「さっきまでと全然違うね」


ミナはレースのカーテンが揺れる方を見た


「うん」

「こっちはリンの部屋って感じがする」


ナルは部屋の奥の白い天幕を見つめる


「でも、綺麗すぎて落ち着かないかも」


ミナも小さくうなずいた


「それは分かる」


がらんとした部屋の中央に、リンが立っていた


リンは胸元が広くあいた白いワンピースを着ていた


いつもの黒い服とは違い、朝の光の中では、妙に柔らかい印象だった


けれど、その立ち姿だけは変わらない


この部屋の主は自分だと、何も言わずに示しているようだった


リンが微笑む


「二人とも、よく訪ねてきてくれました」


ナルとミナは挨拶より先に、リンを見た


ナルが小声で言う


「やっぱリンって胸大きいよね」


ミナも、視線をそらさないで小声で返す


「うん、普段なに食べてるんだろうね」


ナルがさらに身を乗り出す


「聞いてみる?」


ミナは真剣な顔でうなずいた


「チャンスがあったら聞いてみようよ」


リンは小さくため息をついた


「全部聞こえていると言っているでしょう」


二人がびくっとする


リンは呆れたように続けた


「あなた達は失礼で礼儀知らずなのですから」

「いい加減に内緒話くらいはできるようになりなさい」


ミナがナルに耳打ちする


「なんか最近、リンの言うこときつくない?」


ナルもこそこそ返す


「うん、なんか私たちの扱い雑になってきたよね」


「それも聞こえています」


二人は同時に口を閉じた


「あなた達にはこれくらいが丁度いいのです」

「それに、お互い様な気がしますよ」


リンは少しだけ表情を緩める


「わたくしが普段なにを食べているか、気にしていましたね」

「ちょうど朝食です。一緒に食べましょう」




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