第三十話 ナルVSラミル 2
馬に乗った武装した集団がこちらに向かって走ってきていた
地響きのような音で近づいてくる
その先頭には昨日の赤髪の隊長テッサの姿が見えた
テッサは近くまで来ると手を上げて部隊を止めた
そして馬から飛び降りるように降りると
ラミルを見るなり、顔色を変えた
すぐにナルたちの前まで歩み寄り
三人に向けて地面にはいつくばって頭を下げた
「頼む! ラミルを見逃してやってくれ」
「そいつとはずっと一緒に頑張ってきたんだ」
「私にできることならなんだってする」
「だから、命だけは助けてやってくれ」
すると砂のクッションがラミルを乗せてテッサの前に移動した
何か言おうとしたリンを押さえるようにナルが言った
「だったら、ラミルを連れて帰ってよ」
「別にどうこうしようなんて考えていないから」
「それから、昨日はごめん。あれは私が悪かったわ」
テッサはナルを見て言った
「あんたは?」
「昨日あなた達に喧嘩を売ったのは変装した私よ。だから謝ったの」
テッサはいまいち飲み込めていない顔をしてから言った
「ラミルを許してくれるのか?」
「うん、早くつれて帰りなよ」
「ありがとう!」
テッサがラミルを抱きかかえて持ち上げた
ナルが横目でテッサを見ながら声を掛けた
「一つだけ、聞いてもいい?」
テッサはラミルを抱え直しながら振り返る
「なに?」
ナルは少しだけ言いづらそうに視線を泳がせた
「イナクとあんた達って、その……付き合ってたりとか。そういうのなの?」
テッサは困惑した表情をしたあと、あっさり答えた
「まだちがうけど、わたし達はイナクと結婚するつもりだよ」
「あいつはいい男さ。独り占めする気はない」
「な!?」
ナルの表情がゆがむ
テッサは悪気もなく続けた
「イナクは身持ちが固くてね、誰が最初に手を付けて貰えるか賭けてるのさ」
ナルの顔は引きつっていた
「じゃ、そういう関係じゃないのね」
「そうだけど……」
「イナクだって男なんだから、そのうちそうなるさ」
「わたし達、ノア長官に頼み込んで、あいつの直属にしてもらったんだ」
「長官も、イナクに家庭を持たせて、第三軍に腰を据えさせたいみたいでさ」
「最初に子供を身籠った奴には、褒賞まで出すってさ」
「つまり、長官公認ってことだよ」
ナルの目がすっと据わって声を荒げた
「なによそれ!?」
慌ててミナがナルの口と体を押さえた
「はい、そこまで!」
リンが言った
「余計なことを聞きましたね。もう立ち去りなさい」
そう言われ、テッサたちは馬にまたがって来た道を帰って行った
ナルが大人しくなったのをみてミナがナルを離した
ミナが困ったように言った
「もう……おちついてよ」
ナルは少し考えるような顔をしたあと言った
「わたし、ちょっと寄り道してくる」
「二人は先に帰ってて」
ミナが少し呆れた顔をしてからナルを刺激しないように言った
「ナル、それはダメだよ。イナクに迷惑だよ」
「ちょっと釘を刺しにいくだけよ。何もしないから」
リンが口をはさんだ
「なりません。あなたは昨日反省したと言ったではないですか」
「感情的に行動しないでください」
ナルはリンと目を合わせようとしなかった
リンはナルの前に回り込み、逃げる視線を捕まえるように顔を覗き込んだ
「イナクさんについては、わたくしの方で手を打ちましょう」
「近日中にあなたにも報告すると約束します」
「ですから、わたくしの言うことに従いなさい」
ナルは唇を結んだまま、しばらく黙っていた
リンの声は静かだった
けれど、背くことは許さない声だった
「ナル、わかりましたね」
ナルは渋々返事した
「……わかったよ」
ナルは大人しく馬車に乗る
三人を乗せて、馬車がゆっくりと動き出す
ナルは窓の外を見たまま黙っていた
ミナも、何を言えばいいのか分からない顔をしている
リンはそんな二人を見て、小さくため息を漏らした
「兄妹……ですか」




