第二十七話 兄妹審査 2
大きな座敷の前に立て看板があって、紙にこう書かれていた
第三軍女子組合宴会場
ナルが立て看板を読んで首をかしげた
「女子? ってことは女の子だけってことかな」
ミナが小声で言った
「じゃあイナクはいなそうだね、どうする?戻る?」
ナルはまだ興味があるようだった
「一応どんな感じかだけ見ようよ、宴会場とか見る機会ないじゃん」
二人は宴会場に入る、バイキング形式に料理が並べてあった
そこでは大勢の係員が立っていた、二人はその中に混ざるように立った
宴会場を見ると、やはりそこでは女性達が宴会をしていた
ただ、会場の一番奥には台座があって、その上には大きな垂れ幕が掛かっている
そこには“英雄イナクの勝利を祝う会”と書いてあった
ナルがミナに耳打ちした
「ね! あれ、イナクって書いてあるよ」
ミナも垂れ幕を見上げた
「うん、なんか主役みたいな感じだよね」
よく見るとその垂れ幕の下にノアの姿が見える
そしてその横にはイナクの姿があった
ただし、イナクの近くには他の影が幾つもあった
ナルの声が二段くらい低くなって言った
「ちょっと……これ……どういうこと」
イナクの横には女性が二人、しかもイナクに体を寄せていた
それだけでなく、イナクの肩にも一人女性がいて身を寄せている
ミナが驚きながら言った
「なんか……イナクが女まみれなんですけど」
「彼女ってレベルじゃなくない? ハーレム作ってるよね?」
ミナの言葉を聞いて、ナルがピクリと反応する
ナルは少し震えた声で言った
「なによあれ」
「わたしのこと好きって言ってたくせに」
「もう他の女に行ってるの?」
「これは裏切りよ!」
ミナがまた驚いた顔する
「それをナルが言うのはどうかと思うよ?」
「それって1年以上も前の話だし。ナルの方が振ったんだし」
「ナルこそ、何度も他に行ってたじゃん」
ナルが早口に言った
「わたしは一度もそんなことないもん!」
「あれは悪食のだから!」
「わたしはまだ初恋もしてないから!」
「全部ノーカンよ!」
「え! そんなかんじ?」
「ソラも? あんなに色々あったのに?」
ナルは即答した
「そうだよ!」
「カウントくらいしなよ」
「やだよ!」
ミナはすこし呆気にとられた顔をする
「裏切りって……ナルは別にイナクの彼女じゃないでしょ?」
ナルは語尾を強めて言った
「わたしはイナクの家族だよ!」
「お付き合いするなら、まずは私たちに挨拶でしょ! 誰よあの子達、知らないわ!」
「家族に対する裏切りよ! 私たちの尊厳を踏みにじってるわ!」
「はぁ? 尊厳?」
これは言ってもだめだ……っとミナは思った
それから、ミナは改めてイナクを見た
「でも、たしかに……イナクが彼女を作るのはいいけど、3人はやりすぎね」
「さすがに家族として見逃せないわ。堕落よ」
ナルがハッキリとした口調で言った
「ねえ、あそこに魔法撃ち込んで逃げない?」
「はあ? 何考えてんのよ! 誰か死んだらどうするの!?」
「死なないくらいに撃てばいいんでしょ!」
「いいわけないでしょ! イナクだっているんだよ?」
「別に良くない?」
「ちょっと落ち着いてよ、誤解かもしれないし。なんでそんなに怒るのよ」
「なんかむかつくんだから仕方ないでしょ」
するとノアが立ち上がり、通る声で言った
「我が第三軍に勝利をもたらした英雄イナクをたたえよう」
会場の女性達が黄色い声援をあげた
「今宵の余興だ!」
「イナクに気に入られたいものは前に出ろ! そして戦え」
「最後に勝ち抜いた者は、今夜イナクと同室を許す」
イナクがビクリとしてノアを見た
「イナクは不利な戦場に一人で立ち」
「我が第三軍に念願の勝利と名誉を与えた」
「お前らの中に、イナクを慰め、喜ばせようという者はいないか!?」
するとイナクにしがみ付いていた3人の女が離れ、前に歩み出た
ノアはそれを見て高らかに言った
「我が軍が誇る女隊長三名が名乗りを上げた」
「他にはいないか!?」
ミナがナルに耳打ちする
「なんか凄いことが始まったね、イナクを取り合う感じ?」
するとナルは返事をせずに歩き出した
「え?! ちょっとナル?」
ミナを無視してナルは歩いていく
そして、3人の隊長の前まで歩みよる
そのうちの一人がナルを見た
長く赤い髪で、日に焼けた筋肉質な女だった
「ん? なんだい、あんたは」
もう一人の女が、ナルの前に立ちはだかる
短い黄色い髪に、引き締まった細身の体
童顔だが、目つきは鋭かった
「ちょっと、邪魔よ、あっちいきなさい」
最後の一人が、軽い足取りで横に回り込む
緑色のショートヘアーに、小柄で可愛らしい顔立ち
いたずらっぽく笑いながら言った
「なにか答えなさい、邪魔よ、あなた」
ナルは三人を一人ずつ値踏みするように見てから言った
「あなた達はイナクに相応しいのかしら?」
「少し試してあげようと思ってさ」
「戦って誘惑する権利を勝ち取るなんて、見苦しくて見ていられないわ」
周囲の笑い声が遠のいた
ナルは冷めた目で三人を見渡し、さらに言った
「そんなものでイナクを取り合おうというのなら」
「私を倒してみなさい」
「そうしたら、少しは認めてあげる」
黄色い髪の女が言った
「認める……なにを言ってるの? あなたイナクの何?」
そしてナルに掴みかかろうとする
赤髪の女がそれを腕で遮りながら言った
「ラミル、今日はイナクのお祝いだよ」
そう言われて、ラミルは堪えるように止まった
更に赤髪の女がナルに言った
「なにあんた? 冗談ではすまなくなるよ?」
「あんたさ、私たちが誰なのか分かって喧嘩売ってる?」
「わたしたち、100人隊長だよ?」
「今すぐ謝罪して消えないと、許してあげないよ」
ナルに会場全ての視線が集まる
イナクも驚いた顔で見ていた
そしてナルは言った
「100人隊長? そうなんだ」
「そんなことが、いま関係あるの?」
「わたしはあなた達に話してるのよ。一人じゃ怖いの?」
「だったら、ご自慢の部下も全員連れてかかってきなよ 」
「わたしは一人で十分よ」
会場で大きなどよめきが広がる
敵意を込めた怒声が上がりはじめた
ミナが頭を抱える
「ちょっと! なにやってんの!?」
赤髪の女が言った
「あ~あ、うちは血の気が荒いのが多いからね。もう無事じゃ済まないよ、あんた」
ナルは答えた
「好きにすればいいじゃない」
「わたしも、好きにさせて貰うわ」
「はやくかかってきなよ」
「それとも、あなた達のイナクへの気持ちなんて、そんなものなの?」
次の瞬間、ラミルがナルに殴りかかった
一瞬のうちに間合いが消え、ナルの顔面に向けて拳を放つ
ナルはそれを振り払うように左腕を振った
次の瞬間、赤い砂が舞って黄色い髪の女は弾け飛ぶように跳ね返され、壁に激突した
赤髪の女が言った
「魔法使い!?」
緑髪の女が叫んだ
「総員、戦闘よ!」
会場にいる者達が怒声をあげながら立ち上がった
その場にいる全ての女兵士がナルに向かって襲い掛かろうとざわめき立った
ナルはひるまずに言った
「仕掛けてくるなら、覚悟してかかってきなさい!」




