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3-12 ミナVSテッサ

大きな声が響いた


「待て!」


声の主はイナクだった


その横でノアが言った


「イナク、あれは魔法使いだぞ」


イナクはうなずくと、片手を差し出してノアを制した


それから、ゆっくりとナルに歩み寄ってくる


そして小さく頭を下げて言った


「俺たちは宴会をしているだけだ」

「矛を収めてくれないか?」


ナルは固まったようにイナクを見つめる


その時、場のざわめきを割るように、涼しい声が響いた


「そこまでにしていただけますか?」


リンだった


いつの間に来たのか、座敷の入口に立っている


表情は穏やかだった


リンはゆっくりとナルに歩み寄った


「この子はわたくしの部下です」


「失礼があったのなら謝ります」


ノアが反応した


「リン、なぜお前の部下が、俺達の内輪の宴会に文句を付ける?」


リンは少しも悪びれずに答えた


「申し訳ありません。わたくしが上品に育て過ぎたのでしょう」

「あなた達は刺激が強いですから」


ノアの口元がわずかに引きつる


「その返答で、納得しろと?」


リンは微笑んだ


「そうです」


少しの間、ノアとリンは睨み合った


宴会場の熱が、二人を中心に冷めていく


「まあ……いい」

「リン、お前の顔は立ててやる」

「ただし、こちらは一人倒されている。このままでは終われん」

「余興は続ける。この二人のどちらかと戦え」

「一対一、魔法なしでな」

「白けさせたこの場を、盛り上げるくらいは手伝ってもらおう」


すぐに赤髪の女が名乗り出た


「わたしがやるよ!」


リンの目元がわずかに険しくなった


その時、ミナの声が響いた


「いいよ!」


声は明るかった


軽い足取りでナルの前に立つ


「この子は肉体労働をしないの」

「代わりにわたしが戦ってあげる」


ナルは驚いた顔でミナに言った


「ちょっと、余計なこと言わないでよ」


ミナは呆れたように言い放った


「魔法なしであんたが勝てるわけないでしょ、すっこんでなさい」


ノアが言った


「良いだろう。誰でも構わん、正々堂々と魔法抜きだ」

「約束をたがえれば、次はお前だ、リン」

「俺が相手になる」


リンが薄く笑った


「ノアはそんな顔もできたんですね」

「いつもより素敵ですよ」


ノアが怒りを抑えるように言った


「薄気味悪い魔女め」


場には一触即発の空気が満ちた


ナルはまだ納得していない顔でミナを見ていた


ミナは軽く肩を回しながら、赤髪の隊長へ向き直る


宴会場は異様な盛り上がりを見せていた


女兵士たちが、戦いをあおるように歓声を上げている


ノアがよく通る声で言った


「血を流しては宿に迷惑が掛かる。素手で殴り合え」

「相手を動けなくすれば勝ちだ」


ナルが困惑して口を開きかけたが、リンがそれを止めた


「これ以上、愚かな行いで周りを傷つけるのはやめなさい」

「ミナなら大丈夫です。魔法なしでも強いですよ」


赤髪の隊長は両拳を打ち合わせ、ミナに言った


「私はテッサ、第三軍の隊長をやってるよ。あんたは?」


ミナが手を振りながら言った


「わたしはクロ」

「リンの部下だよ~、ちなみに恋人募集中~」


テッサの目が鋭くなる


「ふざけた奴ね。わざとイラつかせようとしてる?」


ミナが笑みを浮かべる


「脳みそ空っぽの筋肉だるまかと思ったら、意外と知恵があるんだ~」


テッサが小馬鹿にするように笑った


「あんた面白いじゃん」

「そんな細い体で、わたしに勝てると思ってるの?」


改めて見ると、テッサは筋骨隆々だった


腕はミナの倍ほども太い


ミナは困ったように首を振った


「あーあ、あんまり殴りたくないんだよね」


次の瞬間、ミナがテッサに向けて飛び込んだ


テッサは右腕を振り上げ、そのまま叩きつけるように振り下ろした


ミナは身をかわしてそれを避けると、右拳を内側にねじり込むように、テッサの頬へ叩き込んだ


鈍い音が響く


テッサは左腕を突き出すように反撃した


ミナはそれも軽くかわし、左拳を突き上げるようにテッサの顎へ叩き込み、そのまま振り抜いた


テッサの頭が一瞬、大きく揺れた


するとテッサは意識を失ったように膝から崩れた


ミナは倒れないように、その体を慌てて支えた


「おわりかな~」


その瞬間、テッサの目が見開く


ミナを抱きしめるように掴んで、そのまま自分の背後へ放り投げた


ミナはボールのように飛ばされる


そしてイナクが座っていた座卓に激突した


「痛った~、まだ元気じゃん」


テッサは立っていたが、その目の焦点は合っていなかった


するとノアの声が響く


「そこまでだ! もう十分盛り上がった」

「この勝負引き分け! 二人ともよくやった!」


いつの間にか、イナクはテッサの横に立ち、その体を支えていた


「え? 終わり? いいの?」


するとリンの声が響いた


「クロ、こちらへ早く戻ってきなさい」


ミナはそう言われて、駆け足でリンの元へ戻る


リンは会場に向けて声を張る


「皆さま、無礼をお詫びします」

「せめてものお詫びに、酒を用意しましょう」

「好きなだけ飲んでください」


リンがそう言うと、先ほどの係員が台車に大量の酒を載せて運んできた


会場は歓声に包まれる


リンは二人に目も向けずに言った


「わたくしたちは邪魔です」

「早く立ち去りますよ」


するとイナクが声を掛けてきた


「待て」


リンが答える


「なにか?」


イナクはリンを見ず、ミナの方を見ていた


「あんたじゃない」


イナクの視線が、まっすぐミナに向く


「あの殴り方、どこで教わった?」


ミナは一瞬だけ目をそらした


「昔、ちょっとね」


「昔?」

「戦う前に挑発したな? あれもか」


ミナはそれ以上、質問に答えなかった


殴り方も挑発も、護身用としてイナクに教わったものだ


リンが一歩前に出て、話を切るように言った


「申し訳ありませんが、わたくしたちはもう行かねばなりません」


リンが二人を連れて立ち去ろうとすると


背後からイナクの声が追いかけてきた


「待ってくれ」


その声は、ナルに向けられていた




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