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3-9 裸の付き合い

「なに? リン」


「入っちゃだめだった?」


「いいえ、入ってもいいですよ」

「ただ、あなたたちはマナーを知りませんから。この際、教えてさしあげます」

「わたくしの弟子として、恥ずかしくない程度には覚えなさい」


「マナー? どうすればいいの?」


「わたくしも一緒に入ります。まずはその辺で服を脱がないこと」

「こういった場所には必ず脱衣所があります。あれです」


リンの視線の先を見ると、ガラス張りの小さな部屋があった


中には棚が並び、籠やタオルが置いてあるのが見える


「そうなんだ、ミナあっちだってさ」


ナルが脱衣所を指さした


「うん」


二人はリンと一緒に脱衣所に入った


ナルが言った


「この籠に脱いだ服を入れればいいんだよね」


「そうです」


ミナが不思議そうに言った


「なんでここって壁が透明なの? 服を脱ぐ場所なんでしょ?」


リンが答える

「さぁ、見られて困るような相手とは来ないからかもしれませんね」

「上から降ろす目隠しなら付いていますよ」


「え?」


ミナは目隠しの場所が分からずキョロキョロと探す


「そちらにボタンがありますよ」


「あ! ほんとだ! こんなの絶対気づかないよ」


「ミナ~、早く入ろうよ」


そう言うナルは、もう裸になっていた


リンも服を脱ぎ始めている


ミナも急いで服を脱いで籠に入れた


「入る前に水を飲みなさい。手ぬぐいを持ってきなさいね」


そう言ってリンは先に外への扉を開ける


二人は置いてあった水差しからコップに水を注いで飲み、手ぬぐいを持って外に出た


外に出るとすぐに気持ちのいい風が通り抜けた


ミナが風を受けて声を上げた


「なんか気持ちいいね!」


ナルが手を広げて言った


「何も着ないで外に出るの、初めてかも! なんか楽しい」


「湯船に入る前に必ず体を綺麗にしてから入ります」


リンが小さな椅子に腰かけていた


その前には鏡と蛇口があった


二人も椅子を取って腰かけ、体を洗い始める


するとリンの方を見てナルが驚いた声で言った


「え! なにそれ? リン」


声に誘われミナもリンの方を見る


リンの頭に浮かんだお湯の塊が、うねりながら髪を洗っていた


「なにって、魔法で頭を洗っているのです」


ナルが楽しそうに言った


「いいなー! わたしにもやってよ」


ミナも続く


「ずるい! わたしもやって欲しい」


リンは小さく笑って言った


「それは今度にしましょう」

「今日はあなた達の洗い方も見ておきたいですから」


二人は少し不満そうな顔をしたが、諦めて再び体を洗い始める


少しするとリンが言った


「ミナ、周りにお湯が飛び散っています」

「周りに人がいれば迷惑です。気を付けなさい」


「え~ほんとに~?」


ナルが先に洗い終えて立ち上がって言った


「ミナ、怒られてやんの~」


「ナル、あなたも背中に泡が残っています。きちんと洗い流しなさい」


「え! ほんとに?」


「怒られてやんの~」


ミナが嬉しそうに桶に汲んだ水でナルの背中を流した


「キャ! 冷たい! それ水じゃん!」


「ここでは構いませんが、公共のお風呂で遊んではいけませんよ」

「湯船には静かに入りなさい。お湯をできるだけ波立てないことです」

「髪はきちんとまとめなさい。湯船につけるものではありません」


二人は静かに湯船に入った


熱いお湯が足元から体を包んでいく

体の芯がほどけていくようだった


ナルからため息のような声が出た


「はぁ~、気持ちいい~」

「幸せすぎる~」


ミナも顔を緩めて言った


「外でお風呂入るのって気持ちいいね~」

「景色も綺麗だし、さいこ~」


リンが小さく笑った


「思っていたより二人ともお行儀がよくて安心しました」


ミナが眉を寄せる


「なによそれ、どんなんだと思ってたの?」


「サルのようにワーワー騒ぎながら体もまともに洗えず、川遊びと勘違いして遊びまわるだろうと思っていました」


ナルが体を伸ばしながら言った


「わたし達のこと、そんな目で見てたんだ」


ミナは少しむっとして言った


「小さい子供じゃあるまいし、そんなわけないでしょ」


「ええ、嬉しい誤算でしたね」


するとナルがリンを見て、何かに気づいた


そしてミナに耳打ちする


「ねえ、リンのあれ、見て」


「え? なに?」


ミナもそちらを見る


ナルが小声で言った


「胸が湯船に浮いてない?」


ミナも小声で返す


「ほんとだ、なにあれ? どういうこと?」


ナルはさらに首をかしげた


「大きいとああなるの? リンだけ? ひょっとして魔法?」


「魔法で自分の胸浮かせるって意味わかんないよ、そんなわけないんじゃない?」


「だってミナのは全然浮いてないじゃん」


ミナがむっとする


「ナルのよりは浮いてる気がするんですけど」


「なによそれ、大して変わんないくせに」


二人のやり取りを見てリンがため息をついた


「あなた達、全部聞こえていますよ」

「もう一つ、マナーを教えます。他の人の体について、あれこれと言わないこと」

「失礼ですよ。これはお仕置きです」


リンが指を立てた


するとナルとミナの周りのお湯がくねるように二人にまとわりつく


ナルが慌てて声を上げた


「え! なになに!? お湯が動いて……」


ミナが身をよじって笑い出す


「ちょっと、くすぐったい! キャハハハ」


しばらくの間、二人はくすぐられ続けた


笑い声が、湯けむりの中に溶けていく


リンは呆れたように見ていたが、その表情はいつもより少し柔らかかった




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