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赤さびの魔女【ナル・ラピスクロニクル】  作者: うめやす.
2章_魔女の姉妹弟子
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第三十話 ナルVSラミル

灰色の私の世界

やっと見つけた綺麗な色

汚す奴は許せない

ナルたちは馬車で帰路を進んでいた


お土産に買ったまんじゅうを食べながらナルは言った

「たのしかったね~、また来たいな」


ミナはむくれて外を見ていた

「わたし、もういかない」


ミナは窓の外を眺めたまま

ナルの方を見ようともしなかった


ナルはまんじゅうを持ったまま、少し困った顔をした

「えー、なんで~?まだ怒ってるの?謝ったじゃん」


ミナはゆっくりナルの方を向いた

その目は、まだ全然許していなかった


ナルの手のまんじゅうをちらりと見る

「そんなの持ったまま、はい謝りましたって言われて、納得できると思う?」


「う……」


ミナはじっとナルを見た

声の温度が少し下がる

「あんたのも触ってやろうか?」

「もっと真剣に謝ってよ!」


ナルはまんじゅうを膝の上に置いた

それから、両手を合わせて深く頭を下げる

「真剣だってば」

「ほんとにごめん」


リンは二人のやりとりを見て言った

「次は海なんてどうですか?もうすぐ暖かくなりますし」


ナルはぱっと顔を上げた

膝の上のまんじゅうが転がり落ちそうになる

「海!?みたことない!」


ミナが少し嫌そうな顔をした

「ひょっとして、毎回リンもついて来る気なの?」


「あら、いけませんか?」

「二人で旅行なんかして悪食が出てきたら誰が止めるんです?」


ミナは即座に答えた

「リンもついてきて、お願い」


するとふいに馬車が止まった


「あら?おかしいですね」


リンは横にある小窓を開けて馬車の御者に声をかけた

「どうしましたか?」


「それが、進路に人がいまして」


リンが窓から覗き込んで見ると

そこには黄色い髪の女が、道の真ん中に立っていた


昨日宴会場でナルに吹き飛ばされた隊長だ

黒い鎧を身にまとっていた


「またナルのトラブルのようですね」


リンは馬車の扉を開けて女の前まで歩み寄る

「わたくしたちになにか用ですか?」


女は片膝をついて頭を下げた

「私はラミル」

「無礼を承知でお願いがあります」


リンはラミルを見下ろしたまま答える

「なんでしょう?」


ラミルは顔を上げた

その目には覚悟が宿っていた

「白髪の女と決闘させて」

「昨日の屈辱は受け入れられない」


リンはラミルの黒い鎧を見て、目を細める

「対魔甲冑を着て、わたくしの前に立つのがどういうことか分かっていますか?」


ラミルは短く息を吸った

「第三軍からは抜けてきた。これは私個人の行動だ」

「反逆罪でも、脱走罪でも、どんな咎めでも受け入れる」


リンが確認するように聞いた

「処刑も覚悟ということですか」


ラミルはハッキリと答えた

「はい」


すると馬車からナルが下りて歩み寄ってきた

ミナも馬車から出てきている


リンが制止するように声を掛けた

「ナル、下がりなさい」


ナルはリンの横を通り過ぎ、ラミルの前に立つ

「わたしに用があるんでしょ。わたしが聞くよ」


ラミルはナルを睨みつけて言った

「誰だおまえは。わたしは白髪の女に用があるんだ」


「それ、私だよ。変装してたの」

そういってナルは昨日と同じように腕を振り払い赤い砂を弾けさせた


「その魔法は!お前が昨日の女なんだな」


「そうだよ」


「私と決闘しろ!」


「いいよ。あれは私が悪いもんね、あなたが怒るのは当たり前だと思うわ」

「でも、負けてあげないよ」


「望むところだ!」

ラミルは少し短めの剣を抜いて構えた


リンが困ったように頭を押さえて言った

「仕方がありませんね。手加減するんですよ、ナル」


ナルはラミルと向かい合って言った

「ラミル、あなた全てを投げ打ってここに来たんでしょ?」

「私の名前はナル」

「ナル・ラピス」

「全部受け止めてあげるよ、かかってきなさい」


ナルの周りに波打つように赤い砂が舞い始めた


次の瞬間ラミルが猛烈な速さでナルに飛び込む

体を回転させた勢いを乗せて切りかかった


ナルはそれを砂で受け止め、剣は砂に埋まるようにして止まった


ラミルは剣を手放し、剣の柄の先を強烈に蹴りつけた

剣は砂を貫通しナルの鼻先で止まる


不意にナルにむけて何かが投げられた

それは破裂し、中から尖った金属が飛び散る


ナルは赤い砂で軽々とそれを防ぐ


ラミルはそれを確認すると、間合いを取るように離れた


ナルは言った

「残念だけど、あなたじゃ無理だよ」

「怪我する前に降参しなさい」


赤い砂が吐き出すようにラミルの剣を飛ばし

剣は持ち主の前に突き刺さった


ラミルは音が鳴るほどに歯を食いしばる

「本気でやれよ…」

「もう私に帰る場所なんかない!」

「最後は戦士として戦って死ぬ!」

「手加減されて生き残るなんてまっぴらだ!」

「私を殺せ!」


ナルは動じず答えた

「やだよ。あなたを殺したら私の後味が悪いでしょ」

「負けたら大人しく軍に帰りなさい」

「そう約束するなら、本気を見せてあげてもいいよ」


ラミルは目に涙を溜めて、叫ぶように返す

「なんだっていい!」

「私の想いを侮辱したお前なんかに、絶対に負けるもんか!」

「わたしと本気で戦え!ナル!」


ラミルは剣を拾い上げて

声をあげながらナルに向かって走る


確認するようにナルは言った

「約束だよ」


ナルの周りから赤い砂が消えた

代わりに、ラミルの周りには粉塵のような砂が舞っていた


ラミルはすぐに異変に気付いた


手に持つ剣が、身にまとう鎧が

まるで乾いた粘土のようにひび割れ、崩れ落ちていく


「なに!?」

ラミルは反射的に息を吸った


だが、次の瞬間、視界が大きく揺れた

胸が苦しい

頭の奥が痺れ、足元の感覚が遠のいていく


「……っ」


もう一度息を吸おうとしたところで、膝が折れた

瞳の焦点が外れ、そのまま地面に倒れ込む


剣も鎧も、赤茶けた砂となって足元に散っていた


ナルは倒れたラミルを見下ろした


「私の砂は、触れた金属を急速に酸化させる」

「その時、周りの空気から酸素を奪うの」


ラミルの周りからナルの砂が消える

彼女の髪を揺らすように、風が通り抜けていく


そしてラミルの下から赤い砂が盛り上がる

クッションのようになった砂にラミルは横たわる


ナルはラミルに近づき、手を彼女の口元に近づける

呼吸を確認すると少し安心した顔をした


ナルはラミルの乱れた髪をそっと手で直す


そして呟くように言った

「真っ直ぐな、いい子じゃん」

「ほんとうに…ごめんね」


砂のクッションを少し浮かして、ナルは戻ってくる


ミナは息を吸うのを忘れてナルの戦いを見ていた

「なにそれ……怖いんですけど」

「息を吸ったら負けなの?」


ナルは笑って答えた

「金属がないと使えないやり方だけどね」


リンも驚いた顔をしていた

「末恐ろしいですね」

「まさかナルがこのような戦い方をするとは思っていませんでした」

「いつの間にこのような?」


ナルはリンの方を見る

「リンの戦い方を真似ただけだよ」


ミナがうなだれるように言った

「リンとナルって、性格の悪い戦い方するよね」

「魔法使いってこんなのばっかりなのかしら」


ナルがすぐに言い返す

「ミナが馬鹿正直すぎるのよ」

「化け物みたいなあなたと一緒にしないで」


リンも涼しい顔で続いた

「化け物と違って、わたくしたちは工夫しませんとね」


ミナは二人を見比べるように見る

「酷い!わたしのこと化け物だと思ってたんだ」


ナルが誤魔化すように言った

「いい方の意味よ」


「いい方の化け物ってなによ、適当なこと言わないで」


ミナはラミルに目を向けた

「この子、どうする?」

「放ってはおけないし、軍まで送ってあげないと駄目かな」


リンがこちらに近づいてくる集団に気づいた

「その必要はないようですよ」


馬に乗った武装した集団がこちらに向かって走ってきていた


地響きのような音で近づいてくる


その先頭には昨日の赤髪の隊長テッサの姿が見えた


テッサは近くまで来ると手を上げて部隊を止めた


そして馬から飛び降りるように降りると

ラミルを見るなり、顔色を変えた


すぐにナルたちの前まで歩み寄り

三人に向けて地面にはいつくばって頭を下げた


「頼む!ラミルを見逃してやってくれ」

「そいつとはずっと一緒に頑張ってきたんだ」

「私にできることならなんだってする」

「だから、命だけは助けてやってくれ」


すると砂のクッションがラミルを乗せてテッサの前に移動した


何か言おうとしたリンを押さえるようにナルが言った

「だったら、ラミルを連れて帰ってよ」

「別にどうこうしようなんて考えていないから」

「それから、昨日はごめん。あれは私が悪かったわ」


テッサはナルを見て言った

「あんたは?」


「昨日あなた達に喧嘩を売ったのは変装した私よ。だから謝ったの」


テッサはいまいち飲み込めていない顔をしてから言った

「ラミルを許してくれるのか?」


「うん、早くつれて帰りなよ」


「ありがとう!」


テッサがラミルを抱きかかえて持ち上げた


ナルが横目でテッサを見ながら声を掛けた

「一つだけ、聞いてもいい?」


テッサはラミルを抱え直しながら振り返る

「なに?」


ナルは少しだけ言いづらそうに視線を泳がせた

「イナクとあんた達って、その…付き合ってたりとか。そういうのなの?」


テッサは困惑した表情をしたあと、あっさり答えた

「まだちがうけど、わたし達はイナクと結婚するつもりだよ」

「あいつはいい男さ。独り占めする気はない」


「な!?」

ナルの表情がゆがむ


テッサは悪気もなく続けた

「イナクは身持ちが固くてね、誰が最初に手を付けて貰えるか賭けてるのさ」


ナルの顔は引きつっていた

「じゃ、そういう関係じゃないのね」


「そうだけど…」

「イナクだって男なんだから、そのうちそうなるさ」

「わたし達、ノア長官に頼み込んで、あいつの直属にしてもらったんだ」

「長官も、イナクに家庭を持たせて、第三軍に腰を据えさせたいみたいでさ」

「最初に子供を身籠った奴には、褒賞まで出すってさ」

「つまり、長官公認ってことだよ」


ナルの目がすっと据わって声を荒げた

「なによそれ!?」


慌ててミナがナルの口と体を押さえた

「はい、そこまで!」


リンが言った

「余計なことを聞きましたね。もう立ち去りなさい」


そう言われ、テッサたちは馬にまたがって来た道を帰って行った


ナルが大人しくなったのをみてミナがナルを離した


ミナが困ったように言った

「もう…おちついてよ」


ナルは少し考えるような顔をしたあと言った

「わたし、ちょっと寄り道してくる」

「二人は先に帰ってて」


ミナが少し呆れた顔をしてからナルを刺激しないように言った

「ナル、それはダメだよ。イナクに迷惑だよ」


「ちょっと釘を刺しにいくだけよ。何もしないから」


リンが口をはさんだ

「なりません。あなたは昨日反省したと言ったではないですか」

「感情的に行動しないでください」


ナルはリンと目を合わせようとしなかった

リンはナルの前に回り込み、逃げる視線を捕まえるように顔を覗き込んだ


「イナクさんについては、わたくしの方で手を打ちましょう」

「近日中にあなたにも報告すると約束します」

「ですから、わたくしの言うことに従いなさい」


ナルは唇を結んだまま、しばらく黙っていた


リンの声は静かだった

けれど、背くことは許さない声だった

「ナル、わかりましたね」


ナルは渋々返事した

「…わかったよ」


ナルは大人しく馬車に乗る

三人を乗せて、馬車がゆっくりと動き出す


ナルは窓の外を見たまま黙っていた

ミナも、何を言えばいいのか分からない顔をしている


リンはそんな二人を見て、小さくため息を漏らした

「兄妹…ですか…」


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