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赤さびの魔女【ナル・ラピスクロニクル】  作者: うめやす.
2章_魔女の姉妹弟子
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第二十七話 兄妹審査

問答無用

まずは挨拶

「はぁ~、ちょっとのぼせちゃった~」

部屋の床に大の字でナルは横になって言った


「気持ちよかったね~、後でもう一回入ろうよ~」

その横にミナも大の字で横になっていた

二人は浴衣を着て寝そべっていた


するとリンが声を掛ける

お盆にコップを3つ乗せて持っていた

「飲みなさい、温泉といえばこれですよ」


二人は上半身を起こしてリンからコップを受け取る

リンは自分の分も手にとり、お盆を置いてから言った

「フルーツ牛乳です。わたくし、好きなんですよ」


そういってリンも腰に手を置いてゴクゴクっと一気に飲み干した


それをみて二人も口を付ける

そして一気に二人とも飲み干した


ナルが目を輝かせた

「おいしい~、なにこれ?」


ミナもコップを見つめて言った

「喉乾いてたし、これ止まらないよ~」


二人の声が重なる

「おかわり!」


リンは少し笑って二人のコップを受け取りお盆に戻す

「一杯だけにしておきなさい、お腹が痛くなりますよ」

「それに、しばらくしたら食事ですから」


そう言われて二人はおかわりを諦めた

ナルとミナはまた横になる

気持ちのよい風が部屋に入ってくる

そしてすぐに二人の寝息が聞こえてきた


リンは二人のお腹に小さな毛布を掛けて照明を消す


そして小さく呟いた

「子供みたいですね」


そう言ってリンは、背もたれの深い椅子に腰を下ろした

「なんだか…わたくしまで…気が抜けて…」

気が付けば、リンの寝息も加わっていた


コンコン…コンコン

ドアをノックする音がする

その音でリンは目を開ける


「眠ってしまったようですね」

そう言って立ち上がりノックされた扉を開ける


そこには部屋まで荷物を運んだ係員が立っていた

「リン様、お食事の準備が整ってございます。どうぞ食事処へご案内差し上げます」


「わかりました、少し待っていてください」

そういってリンは扉を閉める


部屋の明かりをつけて、二人に声を掛けた

「ナル、ミナ、起きなさい。食事の時間ですよ」


二人は全くリンの声に反応しなかった


「世話が焼けますね」

リンがそう言うと二人の背中で泡が膨らみ始める


ゆっくりと体を起こされるうちに二人は目を覚ました


ナルが眠そうに目をこすった

「あれ、なに~」


ミナもぼんやりと辺りを見回す

「寝ちゃってた~」


まだ眠そうな二人にリンは言った

「食事の時間ですよ」


それを聞いた瞬間、ナルのお腹の虫が大きく鳴った

グウゥ~


ミナがにやりと笑ってナルに言う

「なに?おなら?」


「ちがうでしょ!お腹がなったの!」


「二人共、目が覚めたなら行きますよ」

「案内係を待たせてあります」


リンは扉へ向かって歩き出す

二人は急いで立ち上がってリンに付いていく


すると、扉の前でリンの足が止まった

「その前に、服を正しなさい」


そういわれてお互いの服をみる

かなり乱れていた


ナルが慌てて浴衣の前を直した

「おっといけない」


ミナも帯のあたりを押さえながら言った

「この服、はだけやすいよね」


二人が服を着直すのを待ってからリンは扉を開けて外に出る

リンが係員に声を掛けた

「待たせてごめんなさい」


「とんでもございません。どうぞこちらでございます」


三人は係員に案内されて歩く

やがて綺麗に整えられた庭が見えてくる


ナルが庭を見て声を弾ませた

「すごい、なんか綺麗だね」


ミナが指を指す

「うん、あの木、なんであんなに丸いの?」


剪定された木は綺麗な円形に整えられていた

灯篭がおかれた長い廊下があり小部屋に分かれた座敷が並んでいる


その奥にはひと際広いお座敷があった

奥の座敷はなにやら騒がしい、どうやら宴会をやっているようだった


「こちらでございます」

奥の座敷から最も離れた場所に係員はリンたちを案内した


座敷は床が一段掘り下げられていて、足をそこに下ろして座れるようだった

三人が座ると係員は深々と頭を下げてから言った

「本日、第三軍の皆様もお泊りになられております」

「少し煩わしいこともあるかもしれません」

「申し訳ございません」


「第三軍?ノアが来ているのですか?」


「はい、相手方にはリン様がお泊りになっていることは伏せさせて頂きます」


ノア・グレイ、組合にも出入りしている第三軍の長官

銀の長髪で顔立ちがよく、声の通る男

ナルとミナは過去に関わりがあった、イナクが入った軍も第三軍だ


「奥で騒いでいたのはノア達ですか」


「さようです」


「分かりました。良く教えてくれましたね」

そう言って、リンはまたチップを係員に渡した


ナルがミナに耳打ちした

「チップを渡すと色々教えてくれるんだね」


ミナも小声で返す

「うん、だから渡してたんだね」


ナルが納得したように言う

「ってことはノアはチップくれないんだ」


ミナもうなずいた

「ノアはケチなんだね」


係員にも聞こえたようで、少しだけ口元が緩んだ

「では、お食事をお楽しみください。お庭が見えなくなりますが、部屋は閉じておきますか?」


「ええ、お願いします。ノアとはあまり会いたくありませんから」


「かしこまりました」

係員は横に引いて閉じる戸で部屋の中が見えないようにしてくれた


ナルが言った

「リンもノアのこと嫌いなの?」

「わたしも嫌い~、あいつがイナクを誘ったせいで軍に行っちゃったんだから」


「嫌いではありませんよ。好きでもありませんが」


ミナが言った

「それって嫌いよりひどくない?」


するとナルが思いついたように言う

「ねえ、なんか大勢で宴会やってたじゃん?」

「第三軍ってことは、ひょっとしてイナクがいたりして」


ミナが反応する

「いるかな?イナク」

「見に行ってみる?」


「それはやめてください、前にも言いましたが、あまりあなた達と親しいことが知られない方がイナクさんのためです」


「私たちってバレなきゃいいってことだよね」

ミナはそう言って指を立てた


ミナとナルが光に包まれ、それが収まると

二人の姿は、髪がボブヘアーになり

大きな眼鏡、顔立ちも変わっている


瓜二つの姿で、髪の色だけがミナは黒、ナルは白になっていた

「これなら、バレないでしょ。見るだけだから」


「わーすごい、私の髪が白くなってる」


リンは大きなため息をついた

「あなた、そんなこともできたんですか」

「見るだけですよ、イナクさんがいてもいなくても一目見たら戻るように」

「約束できますか?」


「うん」


「もしバレたら、イナクさんの身が危うくなることは肝に命じてください」

「それと…」


リンが指をかざすと水の砂時計が現れた

中では砂のかわりに水が落ちていた

「この水が全て落ちる前に戻ること」

「もし約束を破ったら、悪食の封印を解きます、そして私は悪食の恋愛に協力します」

「二人にとって、今夜は思い出深い夜になるでしょうね」


ミナが即座に反応する

「なにそれ、酷い!やっぱやめる!」


「ちょっと見て帰るだけだから平気だよ」

「ほらいくよ」


「ナル、絶対約束守ってよ!絶対だからね」


「大丈夫だって」


二人は自分たちの座敷から出て、奥に向かった


大きな座敷の前に立て看板があって、紙にこう書かれていた

第三軍女子組合宴会場


ナルが立て看板を読んで首をかしげた

「女子?ってことは女の子だけってことかな」


ミナが小声で言った

「じゃあイナクはいなそうだね、どうする?戻る?」


ナルはまだ興味があるようだった

「一応どんな感じかだけ見ようよ、宴会場とか見る機会ないじゃん」


二人は宴会場に入る、バイキング形式に料理が並べてあった

そこでは大勢の係員が立っていた、二人はその中に混ざるように立った


宴会場を見ると、やはりそこでは女性達が宴会をしていた

ただ、会場の一番奥には台座があって、その上には大きな垂れ幕が掛かっている

そこには“英雄イナクの勝利を祝う会”と書いてあった


ナルがミナに耳打ちした

「ね!あれ、イナクって書いてあるよ」


ミナも垂れ幕を見上げた

「うん、なんか主役みたいな感じだよね」


よく見るとその垂れ幕の下にノアの姿が見える

そしてその横にはイナクの姿があった

ただし、イナクの近くには他の影が幾つもあった


ナルの声が二段くらい低くなって言った

「ちょっと…これ…どういうこと」


イナクの横には女性が二人、しかもイナクに体を寄せていた

それだけでなく、イナクの肩にも一人女性がいて身を寄せている


ミナが驚きながら言った

「なんか…イナクが女まみれなんですけど」

「彼女ってレベルじゃなくない?ハーレム作ってるよね?」


ミナの言葉を聞いて、ナルがピクリと反応する

ナルは少し震えた声で言った

「なによあれ」

「わたしのこと好きって言ってたくせに」

「もう他の女に行ってるの?」

「これは裏切りよ!」


ミナがまた驚いた顔する

「それをナルが言うのはどうかと思うよ?」

「それって1年以上も前の話だし。ナルの方が振ったんだし」

「ナルこそ、何度も他に行ってたじゃん」


ナルが早口に言った

「わたしは一度もそんなことないもん!」

「あれは悪食のだから!」

「わたしはまだ初恋もしてないから!」

「全部ノーカンよ!」


「え!そんなかんじ?」

「ソラも?あんなに色々あったのに?」


ナルは即答した

「そうだよ!」


「カウントくらいしなよ」


「やだよ!」


ミナはすこし呆気にとられた顔をする

「裏切りって……ナルは別にイナクの彼女じゃないでしょ?」


ナルは語尾を強めて言った

「わたしはイナクの家族だよ!」

「お付き合いするなら、まずは私たちに挨拶でしょ!誰よあの子達、知らないわ!」

「家族に対する裏切りよ!私たちの尊厳を踏みにじってるわ!」


「はぁ?尊厳?」


これは言ってもだめだ…っとミナは思った

それから、ミナは改めてイナクを見た

「でも、たしかに…イナクが彼女を作るのはいいけど、3人はやりすぎね」

「さすがに家族として見逃せないわ。堕落よ」


ナルがハッキリとした口調で言った

「ねえ、あそこに魔法撃ち込んで逃げない?」


「はあ?何考えてんのよ!誰か死んだらどうするの!?」


「死なないくらいに撃てばいいんでしょ!」


「いいわけないでしょ!イナクだっているんだよ?」


「別に良くない?」


「ちょっと落ち着いてよ、誤解かもしれないし。なんでそんなに怒るのよ」


「なんかむかつくんだから仕方ないでしょ」


するとノアが立ち上がり、通る声で言った

「我が第三軍に勝利をもたらした英雄イナクをたたえよう」


会場の女性達が黄色い声援をあげた


「今宵の余興だ!」

「イナクに気に入られたいものは前に出ろ!そして戦え」

「最後に勝ち抜いた者は、今夜イナクと同室を許す」


イナクがビクリとしてノアを見た


「イナクは不利な戦場に一人で立ち」

「我が第三軍に念願の勝利と名誉を与えた」

「お前らの中に、イナクを慰め、喜ばせようという者はいないか!?」


するとイナクにしがみ付いていた3人の女が離れ、前に歩み出た


ノアはそれを見て高らかに言った

「我が軍が誇る女隊長三名が名乗りを上げた」

「他にはいないか!?」


ミナがナルに耳打ちする

「なんか凄いことが始まったね、イナクを取り合う感じ?」


するとナルは返事をせずに歩き出した


「え?! ちょっとナル?」


ミナを無視してナルは歩いていく


そして、3人の隊長の前まで歩みよる


そのうちの一人がナルを見た

長く赤い髪で、日に焼けた筋肉質な女だった

「ん? なんだい、あんたは」


もう一人の女が、ナルの前に立ちはだかる

短い黄色い髪に、引き締まった細身の体

童顔だが、目つきは鋭かった

「ちょっと、邪魔よ、あっちいきなさい」


最後の一人が、軽い足取りで横に回り込む

緑色のショートヘアーに、小柄で可愛らしい顔立ち

いたずらっぽく笑いながら言った

「なにか答えなさい、邪魔よ、あなた」


ナルは三人を一人ずつ値踏みするように見てから言った

「あなた達はイナクに相応しいのかしら?」

「少し試してあげようと思ってさ」

「戦って誘惑する権利を勝ち取るなんて、見苦しくて見ていられないわ」


周囲の笑い声が遠のいた


ナルは冷めた目で三人を見渡し、さらに言った

「そんなものでイナクを取り合おうというのなら」

「私を倒してみなさい」

「そうしたら、少しは認めてあげる」


黄色い髪の女が言った

「認める…なにを言ってるの?あなたイナクの何?」

そしてナルに掴みかかろうとする

赤髪の女がそれを腕で遮りながら言った

「ラミル、今日はイナクのお祝いだよ」


そう言われて、ラミルは堪えるように止まった

更に赤髪の女がナルに言った

「なにあんた?冗談ではすまなくなるよ?」

「あんたさ、私たちが誰なのか分かって喧嘩売ってる?」

「わたしたち、100人隊長だよ?」

「今すぐ謝罪して消えないと、許してあげないよ」


ナルに会場全ての視線が集まる

イナクも驚いた顔で見ていた


そしてナルは言った

「100人隊長?そうなんだ」

「そんなことが、いま関係あるの?」

「わたしはあなた達に話してるのよ。一人じゃ怖いの?」

「だったら、ご自慢の部下も全員連れてかかってきなよ 」

「わたしは一人で十分よ」


会場で大きなどよめきが広がる

敵意を込めた怒声が上がりはじめた


ミナが頭を抱える

「ちょっと!なにやってんの!?」


赤髪の女が言った

「あ〜あ、うちは血の気が荒いのが多いからね。もう無事じゃ済まないよ、あんた」


ナルは答えた

「好きにすればいいじゃない」

「わたしも、好きにさせて貰うわ」

「はやくかかってきなよ」

「それとも、あなた達のイナクへの気持ちなんて、そんなものなの?」


次の瞬間、ラミルがナルに殴りかかった

一瞬のうちに間合いが消え、ナルの顔面に向けて拳を放つ


ナルはそれを振り払うように左腕を振った

次の瞬間、赤い砂が舞って黄色い髪の女は弾け飛ぶように跳ね返され、壁に激突した


赤髪の女が言った

「魔法使い!?」


緑髪の女が叫んだ

「総員、戦闘よ!」

会場にいる者達が怒声をあげながら立ち上がった

その場にいる全ての女兵士がナルに向かって襲い掛かろうとざわめき立った


ナルはひるまずに言った

「仕掛けてくるなら、覚悟してかかってきなさい!」


「まて!」

大きな声が響いた

その先にはイナクがいた


その横からノアが言った

「イナク、あれは魔法使いだぞ」


イナクは頷いてから手を差し出してノアを抑えるような仕草をした

それから、ゆっくりとナルに歩み寄ってくる

そして小さく頭を下げて言った


「俺たちは宴会をしているだけだ」

「矛を収めてくれないか?」


ナルは固まったようにイナクを見つめる


その時、場のざわめきを割るように、涼しい声が響いた

「そこまでにしていただけますか?」


リンだった


いつの間に来たのか、座敷の入口に立っている

表情は穏やかだった


リンはゆっくりとナルに歩み寄る

「この子はわたくしの部下です」

「失礼があったのなら謝ります」


ノアが反応した

「リン、なぜお前の部下が、俺達の内輪の宴会に文句を付ける?」


リンは少しも悪びれずに答えた

「申し訳ありません。わたくしが上品に育て過ぎたのでしょう」

「あなた達は刺激が強いですから」


ノアの口元がわずかに引きつる

「その返答で、納得しろと?」


リンは微笑んだ

「そうです」


少しの間、ノアとリンは睨み合った

宴会場の熱が、二人を中心にして冷めていく


「まぁ…いい、リン、お前の顔は立ててやる」

「ただし、こちらは一人倒されている、このままでは終われん」

「余興は続ける、この二人のどちらかと戦え」

「一対一、魔法なしでな」

「白けさせたこの場の空気を、盛り上げるくらいは手伝って貰おう」


すぐに赤髪の女が名乗り出た

「わたしがやるよ!」


リンの目が少し歪んだ


その時ミナの声が響いた

「いいよ!」


声は明るかった

足取りも軽くナルの前に立つ

「この子は肉体労働しないの、代わりに私が戦ってあげる」


ナルは驚いた顔でミナに言った

「ちょっと、余計なこと言わないでよ」


ミナは呆れたように言い放った

「魔法なしであんたが勝てるわけないでしょ、すっこんでなさい」


ノアが言った

「良いだろう、誰でも構わん、正々堂々と魔法抜きだ」

「約束をたがえれば、次はお前だリン」

「俺が相手になる」


リンが薄く笑った

「ノアはそんな顔もできたんですね」

「いつもより素敵ですよ」


ノアが怒りを抑えるように言った

「薄気味悪い魔女め」


場には一触即発の空気が満ちた


ナルはまだ納得していない顔でミナを見ていた

ミナは軽く肩を回しながら、赤髪の隊長へ向き直る


宴会場の熱が、別の形に変わっていく


ミナは、第三軍の女隊長と

魔法抜きで戦うことになった


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