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3-7 対決!ミナVSリン

ナルは鼻歌交じりに廊下を歩いていた


ナルは悪食の恋愛感情を封じてからというもの、気分がすっきりとしていた


「ごちゃごちゃしてたのが綺麗さっぱりってかんじだよ~」


すると、向こうからミナが歩いてきた


ナルが声をかける


「おはよー、ミナ」


ミナは少し元気のない声で返した


「おはよう」


ミナの目の下には濃いクマができていた


「なんか、元気ないね」


「眠れないのよ……リンのせいで」


「リンのせい? どうしたの?」


「わたし、あいつに……されたでしょ」

「あの時のことが夢に出てくるのよ」

「それが怖くて、眠れないの……」


「あー……すごかったもんね……」


ミナが小さく呟いた


「許せない……」


「え?」


「許せないわ! あいつボコボコにして謝らせてやる!」

「ナルは邪魔しないでよ!」


「う、うん……」

「そんなに嫌だったなら、噛んじゃえば良かったのに」


「あいつ、噛めないように口の中に魔法で泡みたいなの作ってたの」


ナルは気まずそうに言った


「そ、そうだったんだ……」

「なんか……ごめんね」


二人が中庭に着くと、いつものようにリンが待っていた


挨拶もせずにミナは言い放った


「リン! あんた、わたしより弱いくせに、師匠顔してんじゃないわよ!」

「わたしと決闘しなさい! あなたが勝てたら弟子でいてあげる」

「そのかわり、わたしが勝ったら、いままでのこと土下座して謝ってもらうからね!」


リンは笑みを浮かべながら言った


「あらあら、急にどうしました?」

「決闘なんか危ないでしょう。やめましょうよ」


「逃げる気!? やっぱ口だけのおばさんよね! だから男に相手にされないのよ」


リンのまとっていた空気が変わった


どうやら「おばさん」は、リンへの禁句っぽい


リンは人差し指で自分の唇に触れて言った


「相変わらず悪いお口ですね。また黙らせてほしいんですか?」


「黙るのはあんたのほうよ!」


「いいでしょう、やりますよ……決闘」

「わたくしが負けたら、謝罪でも土下座でも、なんでもして差し上げましょう」

「ただし、わたくしが勝ったら、二度と忘れられないように念入りに口を塞いであげる」


「やれるもんなら……やってみなよ!」


ミナが魔法を放とうと身構えた


「待ってください。ここではだめです、周辺に被害が出てしまいます」

「地下に魔法模擬戦用のホールがあります。そちらに移動しましょう」


「ナルには審判を頼みましょうか」

「どちらかが死にそうなら、悪食で助けてくださいね」


ナルは困ったように答えた


「や、やめたほうが……って言っても、無理そうだね……」


二人はリンに続いてエレベーターに乗った


組合の最深部にあたる地下4階で三人がエレベーターを降りると


そこには大きく開けたホールが広がっていた


あちこちに配管が露出しているだけで、何もない空間だった


「ここは魔法耐性の高い特殊な岩石で覆ってあります」

「ミナが暴れても、ある程度は耐えられるでしょう」


リンは少し離れたところまで歩き、こちらを振り返った


その胸にはいつの間にか、大きな赤い宝石の付いた首飾りが下げられていた


ミナはリンに歩み寄りながら言った


「手加減しないからね。降参するなら早い方がいいよ」


リンは嬉しそうに挑発した


「またあなたの唇を味わえると思うと、嬉しいわ」

「ほら、わたくしおばさんでしょ? 若いエキスを早く吸わせてくださいな」


ミナが右手を上げた


次の瞬間、ホールの至るところが光の矢で埋め尽くされる


「きもいんだよ! おばさん!」


光の矢が一斉にリンへ向けて放たれた


リンが立っていた場所で光が次々と炸裂し、巨大な光の塊となった


足元の床も割れ、えぐり取られるように飛び散っていく


光の矢は止まらない


次々と現れ、リンへ飛んでは炸裂し続ける


ナルが困惑したように言った


「これ……死んじゃったんじゃ」


ミナが手を下ろすと光の矢が止まった


リンがいた場所には、土煙と砕けた床の破片が舞っていた


その時、土煙が勢いよく吹き飛んだ


先ほどと同じ場所にリンは立っていた


ただ、無事ではなかった


衣服は破れ、体のあちこちに傷を負っていた


ミナがリンに言った


「生きてたんだ、降参する?」


「さすがですね、今のを防いだだけで、わたくしの魔力は尽きてしまいました」


ミナは勝ち誇った顔で言った


「降参しないと死んじゃうよ。あんたもう空っぽじゃん」


リンは口元を歪めて笑った


「わたくしが、勝機もないのに戦うわけがないでしょう」


その瞬間、リンから小さな水の刃が四方へ放たれた


ミナは一瞬身構えたが、自分に向けられたものではない


リンの魔法は、ホールに露出していた配管に当たり、それを破壊した


それらは、王都中に張り巡らされた魔力管だった


王城の地下にいるドラゴンから抜き取った魔力を町中へ送り、人々の生活を支えている


壊れた管から、青白い魔力が噴き出した


噴き出した魔力が、リンに向かって集まり始める


正確には、リンが首から下げている赤い宝石へと吸い込まれていた


次の瞬間、かすかなリンの香りがミナの鼻をくすぐった


「うかつですよ、ミナ」


「これがわたくしの切り札です」


リンがそう言うとホールに霧が発生した


「これは……」


ミナはすぐに何かに気づいて自分の身体を光の膜で包み込んだ


「ナル、悪食で防いで! 毒だよ!」


ナルは慌てて悪食の蛇で自分を囲んだ


霧の影響で、ミナの視界は完全に奪われる


リンの声が聞こえた


「この場で戦うことが、わたくしがあなたに勝てる唯一の方法」


どこから聞こえているのか分からない声が、霧の中に響いた


「ここは組合の一部です、わたくしにはあなたが見える」

「そして、この場にいる限り、魔力管から魔力を補給し続けられます」

「ミナ。謝れば許してあげますよ」


「冗談でしょ。これくらいでわたしに勝てると思ってるの?」


そこでミナは足元の異変に気付いた


いつのまにか水が溜まっている


水位は少しずつ上がっているようだ


「ものの数分でこのホールは水に満たされます」

「どうしますか? ミナ」


次の瞬間、ミナの足元の水に青白い火花が走った


バチンッ、と乾いた音がホールに響く


ミナは電気ショックを受けて、小さくよろめいた


「痛ったー! 話してる最中にずるくない?」


すると、足元に白い光の箱があらわれた

箱はミナの体を水面から持ち上げた


「光の箱? そんなこともできたんですね」

「あなたの体を守っている膜も同じようなものでしょうか」

「あの電撃を受けて気を失わないのも、その膜のおかげのようですね」


「ただ、それだと時間の問題ですね」

「空気はどれくらい確保できましたか?」

「この霧は強烈なアルカリ性です」

「肌に触れたり、吸い込んだりすれば……大変なことになりますよ」


足元の水はもうナルの腰のあたりまで上がってきていた


ナルは悪食の力で、霧も水も無効化して消せるが、ミナはそうはいかなかった


ミナは観念したように、ふっと肩の力を抜いた


「やるじゃん、リン……」

「おばさんって言ってごめんね、見直しちゃったよ」

「でもね、勝つのはわたしだよ!」


ミナが矢をつがえるような動きをすると光の弓矢が現れた


矢の先端は虹色に輝いている


リンの声が届いた


「なんですか? それは」


ミナはリンに聞こえるように言った


「特別に教えてあげるよ、わたしのスキル! 結晶!」

「どんなものも、結晶に変えて封じ込める!」


次の瞬間、ミナは上に向けて虹色の矢を放った


打ち出された矢は、通り道の霧を小さな結晶へ変えながら進む


そして、炸裂するように飛び散って雨のようにホールに降り注ぐ


ミナが叫んだ

「リン! ガードしなさい! 当たったら石になっちゃうよ!」


霧は無数の小さな結晶となって降り注ぎ


溜まっていた水も、大小様々な無数の青い結晶へ変わった


そして、ホールの隅に水の盾で身を守るリンがいた


リンの姿を確認した直後、巨大な光の槍が現れる


「降参しなさい!」


リンの前にあった水の盾も、いくつもの結晶となって床に落ちた


首から下げていた赤い宝石も砕け散る


「まいりました、わたくしの負けですね」

「お手上げですよ」


ミナは飛び跳ねて喜ぶ


「やったー! どんなもんよ!」

「みてた!? ナル!」


「う、うん! ほとんど霧で見えなかったけど」


リンがこちらに歩み寄ってくる


「あんな奥の手を持ってるなんて、知りませんでした」


「教えたことなかったからね~」

「リンだってそうじゃない」


「約束通り、謝罪しましょう」


そう言ってリンは、その場に正座した


頭を下げようとした、その時


リンの足元に光の箱が現れ、その体をミナの視線の高さまで持ち上げた


「本気でぶつかり合ったら気が済んだかも」

「もういいよ。なんかスッキリしちゃったし」

「弟子に頭下げてちゃ、さまにならないでしょ」

「今後もよろしく。師匠!」


再び、リンの香りがミナの鼻をくすぐった


「うかつですよ。ミナ」


それからリンは穏やかに微笑んで言った


「わたくしの弟子に、お願いがあるのですが」


ミナが首をかしげる


「ん?」


「もう限界……わたくしを運んでください」


そう言ってリンは倒れ込んだ


ミナは光の箱にリンを乗せたまま


箱を少し浮かせ、手で押すようにして運んでいく


ナルが腕を組んで待っていた


「謝って貰うんじゃなかったの?」


ミナが少し笑って言った


「そんな気がなくなっちゃってさ」


ミナはリンを横目で見た


「まだ何か隠してたみたいだし」

「わたしを殺す気なら違ったのかもね」


そう言ってリンを運びながらミナは思った


この大人


ちょっとかっこいいじゃん




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