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赤さびの魔女【ナル・ラピスクロニクル】  作者: うめやす.
2章_魔女の姉妹弟子
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第二十六話 温泉旅行

わたくしも

意外でした

ミナの部屋の前で大きなバッグを持ったナルが待っていた

「ミナ~、早く行こうよ~」


ミナはいそいそと準備をしてナルと合流する

「うん、ごめん、おまたせ」


今日は休日、そして明日は建国記念日で祝日だった

たまの二連休に二人は温泉で一泊二日の旅行に出かける


目的地は、ナルの町から馬車で三時間ほど揺られた先にある温泉地だ

宿も取ってある

ナルが憧れていた旅の最初の一歩だった


本で読んだ旅人たちは、いつだって知らない場所へ向かっていた

知らない景色を見て、知らないものを食べて、少しだけ前とは違う自分になって帰ってくる


ナルも、そんな旅をしてみたかった


ナルは嬉しくてしかたがないようだった

見るからにウキウキとしている


そんなナルを見てミナは言った

「すごいはしゃいでるね」


「そりゃそうだよ!憧れの旅の始まりなんだよ」


二人は組合の廊下を歩いている


ミナが念を押すように聞いた

「ナル、一応確認しておきたいんだけど」


「ん~、なに?」


「大丈夫だよね?」


「なにが?」


「もう、わたしに変な気持ちはないんだよね?」

そう聞きながら、ミナは少しだけナルとの距離を取っていた

信じたい気持ちはある

でも、あの時のことを思い出すと、どうしても体が先に警戒してしまう


「うん、大丈夫、大丈夫」


「今からでもさ、部屋を別に出来ない?」

「一応…念のためにさ」


「大丈夫だって、心配しないでよ」

「一緒の部屋の方が楽しいじゃん」


「そう…だけどさ…」


二人は組合の出口まで歩いてきた


その扉の横に、つばの広い白い帽子をかぶった女性が立っていた

毛皮のジャケットを着て、袖の長い白いワンピースを着ていた

横には大きなバッグが置いてある


二人がその女性を通り過ぎて外に出ようとすると声がかかった


「わたくしを置いていくつもりですか?」


驚いて二人が女性を見ると、その女性はリンだった


ミナが聞いた

「リン!? なにその恰好」


「わたくしも連れて行ってください。温泉に行くのでしょう?」


「そうだけど、なんで知ってるの? リンに言ったっけ?」


「組合はわたくしの庭です、全て見ていると言ったでしょう」


ミナが言った

「ずっと覗いてるってこと?趣味わるいなぁ」


ナルが返す

「でも、2人分しか予約してないよ?」


「大丈夫です。大部屋のスイートルームに変更してあります」

「5人泊まれる部屋に専用の温泉が付いています」


ナルが目を輝かせた

「え!?そうなの?」


「食事は一番グレードの高い懐石料理ですよ」


ナルの表情がパッと明るくなる

「ほんとに!いいね、いいね、リンも一緒に行こうよ」


食べ物にあっさりつられたナルを見てミナの表情がかげる

「リン、一緒についてきても良いよ。だからさ約束して」


「なんでしょう?」


「わたしがナルに襲われたら…絶対に助けて!すぐに!」


「そんな心配は、もう必要ありませんよ」


ミナはすがるようにリンを見て圧を掛ける

リンはそれを受けて、返事をした

「ですが…分かりました、約束しましょう」


ミナは念には念を押すように言った

「絶対だからね!約束したからね!」


ナルが呆れたように言う

「大丈夫だって言ってるのに」


組合を出るとリンが手配した馬車が待っていた

いつもの馬車とは違う、かなり豪華で大きかった


「うわー!椅子がフカフカなんですけど~」

ナルのはしゃぐ声が馬車の中で響く


ミナは馬車の中の壁にある小さな扉を開いて言った

「見て!ここに飲み物が入ってる、しかも冷たい!」


「魔力冷蔵庫です。最近開発に成功して量産も計画されています」


「なんかこの馬車、暖かくない?」


リンは当然のように答えた

「魔力暖房機も付いています」


ナルがミナに向かって言った

「なにこれ!?贅沢~、わたし達がいつも頼んでるのと全然違うね」


ミナがリンに尋ねた

「この馬車どこで借りたの?」


リンは窓の外を眺めたまま、何でもないことのように答えた

「これはわたくしの馬車です。借りていません」


ミナは思わず、ふかふかの座席をもう一度手で押した

指が沈むほど柔らかい

「リンの持ち物だったの? すごいね、高そう…」


「たいしたことありません。わたくし、稼いでますから」

リンは涼しい顔でそう言って、カップのお茶をひと口飲んだ


ミナは少しだけ目を細める

「そういえば、これから行くのもスイートルームって…」


「お金の心配はいりませんよ。わたくし、稼いでますから」


同じ言葉を二度も聞かされて、ナルとミナは顔を見合わせた


馬車がゆっくり揺れる

その揺れに紛れるように、ナルがミナの袖を引いた

「ひょっとして、リンってお金持ちだったの?」


ミナもリンに聞こえないように、少し身を寄せる

「なのかな?いつも同じ服着てるけど、別の服着てるの今日初めて見たもん」


ナルはいつもと違うリンの服装をちらりと見た

「あれは制服みたいなものだったんじゃない?」


「2回も稼いでるって自慢したよ?相当自信あるでしょ、あれ」


ナルは妙に納得したようにうなずいた

「前に読んだ本にさ。女一人で生きるには、頼りはお金だけだって書いてあった」


ミナはすぐに顔をしかめた

「ナルは変な本読むのやめなよ。リンみたいになっちゃうよ」


その瞬間、リンがカップを静かに皿へ戻した

かちゃん、と小さな音がした


リンはお茶の湯気越しに二人を見る

「あなた達は、いつになったら内緒話が出来るようになるんですか」


それから3時間ほど馬車に揺られていると目的地に着いた


馬車を降りた瞬間、白い湯けむりが風に流れてきた

少し変わった匂いがする

地面の向こうで、熱い湯が音を立てて流れていた


二人は降りて雰囲気に感動して声を上げた


ナルが手を広げて言った

「見てー!すごい!湯畑だって~」


ミナも駆け寄って言った

「雰囲気あるね~、ドキドキしてきたかも!」


湯畑の目の前にある立派な店構えの宿

それがリンが予約を入れた宿だった


この湯治場は異世界からの転生者が作った場所らしい

そのため、異世界情緒にあふれ、ナルとミナには珍しいものばかりだった


三人が中に入ると、一人ずつ係がついて荷物を持ってくれた

彼らの案内に従ってエレベーターに乗り最上階へ


「こちらでございます」

「御用があれば、なんなりと。室内にあるベルをならせばすぐにまいります」


「ごくろうさま」

そう言ってリンは何かを係の人に渡した


ナルが気づいてリンに聞いた

「いま、なにを渡したの?」


「チップです。ようは、お金ですね」


するとミナの声が部屋に響いた

「見て!ナル、凄いよ!」


ナルがミナの方を見ると

部屋の壁一面が大きな窓になっていて

その向こうには広大な水面が広がっていた


ナルが目を丸くした

「え!?海!?」


ミナも窓に駆け寄った

「うんうん!あれって海だよね!?」


ナルは窓に張りつくようにして言った

「すごい!初めて見た!おっきいー」

その声は、いつものはしゃいだ声より少しだけ幼かった


リンが少し笑って訂正した

「あれは湖ですよ。我が国最大のドーン湖です」


水面はどこまでも続いているように見えて

ナルには、どうしても湖とは思えなかった

「え!これ、湖なの?こんなに大きな?」


「ナル!見てみて!こっち!」


またミナがナルを呼び、ナルがそちらを見ると、壁一面の大きな窓のすぐ向こうは、ベランダではなく石造りの温泉になっていた


張り出したバルコニー全体がそのまま湯船になっていて、どこに浸かっても、遮るものなく広大な水面を見渡せるようになっている


ナルが身を乗り出した

「これ温泉だよね!? なにこれ!すごすぎる!露天風呂だ!」


ミナも隣で声を弾ませる

「えーー!どこからでも絶景じゃん、いいの?こんなところに入って」


二人のテンションはうなぎ上りに高まっていく


「食事は別の場所です。6時に予約してあります」

「それまでは、ゆっくりと過ごしましょう」


「わたし、お風呂はいる!」


「わたしも!一緒に入ろうよ~」


リンは二人の慌ただしさを見て、小さく息を吐いた

けれど、その目元は少しだけ緩んでいた

「お待ちなさい」


「なに?リン」


「入っちゃだめだった?」


「いいえ、入ってもいいですよ」

「ただ、あなたたちはマナーを知りませんから。この際、教えてさしあげます」

「わたくしの弟子として、恥ずかしくない程度には覚えなさい」


「マナー?どうすればいいの?」


「わたくしも一緒に入ります。まずはその辺で服を脱がないこと」

「こういった場所には必ず脱衣所があります、あれです」


リンの視線の先を見ると、ガラス張りの小さな部屋があった

中には棚が並び籠やタオルが置いてあるのが見える


「そうなんだ、ミナあっちだってさ」

ナルが脱衣所を指さした

「うん」


二人はリンと一緒に脱衣所に入った


ナルが言った

「この籠に脱いだ服を入れればいいんだよね」


「そうです」


ミナが不思議そうに言った

「なんでここって壁が透明なの?服を脱ぐ場所なんでしょ?」


リンが答える

「さぁ、見られて困るような相手とは来ないからかもしれませんね」

「上から降ろす目隠しなら付いていますよ」


「え?」

ミナは目隠しの場所が分からずキョロキョロと探す


「そちらにボタンがありますよ」


「あ!ほんとだ!こんなの絶対気づかないよ」


「ミナ~、早く入ろうよ」

そういうナルはもう裸になっていた


リンも服を脱ぎ始めている


ミナも急いで服を脱いで籠に入れた


「入る前に水を飲みなさい。手ぬぐいを持ってきなさいね」

そう言ってリンは先に外への扉を開ける


二人は置いてあった水差しからコップに水を注いで飲み、手ぬぐいを持って外に出た


外に出るとすぐに気持ちのいい風が通り抜けた


ミナが風を受けて声を上げた

「なんか気持ちいいね!」


ナルが手を広げて言った

「何も着ないで外に出るの、初めてかも!なんか楽しい」


「湯船に入る前に必ず体を綺麗にしてから入ります」


リンが小さな椅子に腰かけていた

その前には鏡と蛇口があった


二人も椅子をとって腰かけ、体を洗い始める


するとリンの方を見てナルが驚いた声で言った

「え!なにそれ?リン」


声に誘われミナもリンの方を見る

リンの頭にはお湯の塊が浮いていてうねるように髪を洗っていた


「なにって、魔法で頭を洗っているのです」


ナルが楽しそうに言った

「いいなー!わたしにもやってよ」


ミナも続く

「ずるい!わたしもやって欲しい」


リンは小さく笑って言った

「それは今度にしましょう。今日はあなた達の洗い方も見ておきたいですから」


二人は少し不満そうにしたが、諦めたように自分の体を洗うのを再開する


少しするとリンが言った

「ミナ、周りにお湯が飛び跳ねています。周辺に人がいれば迷惑です、気を付けなさい」


「え~ほんとに~?」


ナルが先に洗い終えて立ち上がって言った

「ミナ、怒られてやんの~」


「ナル、あなたも背中に泡が残っています。きちんと洗い流しなさい」


「え!ほんとに?」


「怒られてやんの~」

ミナが嬉しそうに桶に入れた水でナルの背中を流した


「キャ!冷たい!それ水じゃん!」


「ここでは構いませんが、公共のお風呂で遊んではいけませんよ」

「湯船には静かに入りなさい。お湯をできるだけ波立てないことです」

「髪はきちんとまとめなさい。湯船につけるものではありません」


二人は静かに湯船に入った


熱いお湯が足元から体を包んでいく

体の芯がほどけていくようだった


ナルからため息のような声が出た

「はぁ~、気持ちいい~」

「幸せすぎる~」


ミナも顔を緩めて言った

「外でお風呂入るのって気持ちいいね~」

「景色も綺麗だし、さいこ~」


リンが小さく笑った

「思っていたより二人ともお行儀がよくて安心しました」


ミナが眉を寄せる

「なによそれ、どんなんだと思ってたの?」


「サルのようにワーワー騒ぎながら体もまともに洗えず、川遊びと勘違いして遊びまわるだろうと思っていました」


ナルが体を伸ばしながら言った

「わたし達のことそんな目でみてたんだ」


ミナは少しむっとして言った

「小さい子供じゃあるまいし、そんなわけないでしょ」


「ええ、嬉しい誤算でしたね」


するとナルがリンを見て何かに気が付いた

そしてミナに耳打ちする

「ねえ、リンのあれ、見て」


「え?なに?」

ミナもそちらを見る


ナルが小声で言った

「胸が湯船に浮いてない?」


ミナも小声で返す

「ほんとだ、なにあれ?どういうこと」


ナルはさらに首をかしげた

「大きいとああなるの?リンだけ?ひょっとして魔法?」


「魔法で自分の胸浮かせるって意味わかんないよ、そんなわけないんじゃない?」


「だってミナのは全然浮いてないじゃん」


ミナがむっとする

「ナルのよりは浮いてる気がするんですけど」


「なによそれ、大して変わんないくせに」


二人のやり取りを見てリンがため息をついた

「あなた達、全部聞こえていますよ」

「もう一つ、マナーを教えます。他の人の体について、あれこれと言わないこと」

「失礼ですよ。これはお仕置きです」


リンが指を立てた


するとナルとミナの周りのお湯がくねるように二人にまとわりつく


ナルが慌てて声を上げた

「え!なになに!?お湯が動いて」


ミナが身をよじって笑い出す

「ちょっと、くすぐったい!キャハハハ」


しばらくの間、二人はくすぐられ続けた

笑い声が、湯けむりの中に溶けていく

リンは呆れたように見ていたが、その表情はいつもより少し柔らかかった


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