第二十五話 対決!ミナVSリン
本気でぶつかる覚悟
信頼される大人の条件
鼻歌交じりにナルが歩いている
ナルは悪食の感情を制御してからというもの気分がスッキリとしていた
「ごちゃごちゃしてたのが綺麗さっぱりってかんじだよ~」
廊下をミナが歩いていた
ナルが声をかける
「おはよー、ミナ」
ミナは少し元気なく返した
「おはよう」
ミナの目の下には濃いクマが出来ていた
「どうしたの?元気ないね」
「眠れないのよ…」
「眠ると夢に出てくるのよリンが…」
「リン?夢の話?」
「わたしあいつに…されたでしょ」
「あの時がフラッシュバックするみたいに夢に出てくるのよ」
「それが怖くて、眠れないの…」
「あー…すごかったもんね…」
ミナが小さく呟いた
「許せない…」
「え?」
「許せないわ! あいつボコボコにして謝らせてやる!」
「ナルは邪魔しないでよ!」
「う、うん…」
「そんなに嫌だったなら、噛んじゃえば良かったのに」
「あいつ、噛めないように口の中に魔法で泡みたいなの作ってたの」
ナルは気まずそうに言った
「そ、そうだったんだ…」
「なんか…ごめんね」
二人が中庭に着くと、いつものようにリンが待っていた
挨拶もせずにミナは言い放った
「リン!あんた私より弱いくせに、師匠顔してんじゃないわよ!」
「わたしと決闘しなさい!あなたが勝てたら弟子でいてあげる」
「そのかわり私が勝ったら、いままでのこと土下座して謝ってもらうからね!」
リンは笑みを浮かべながら言った
「あらあら、急にどうしました?」
「決闘なんか危ないでしょう。やめましょうよ」
「逃げる気!? やっぱ口だけのおばさんよね! だから男に相手にされないのよ」
リンの空気が変わったのが分かった
ナルは思った
どうやら「おばさん」は、リンへの禁句っぽい
リンは人差し指で自分の唇を触って言った
「相変わらず悪いお口ですね、また、黙らせて欲しいんですか?」
「黙るのはあんたのほうよ!」
「いいでしょう、やりますよ…決闘」
「わたくしが負けたら、謝罪でも土下座でも、なんでもして差し上げましょう」
「ただし、わたくしが勝ったら、二度と忘れられないように念入りに口を塞いであげる」
「やれるもんなら…やってみなよ!」
ミナが魔法を放とうと身構えた
「待ってください。ここではだめです、周辺に被害が出てしまいます」
「地下に魔法模擬戦用のホールがあります。そちらに移動しましょう」
「ナルは審判を頼みましょうか。どちらかが死にそうなら、悪食で助けてくださいね」
ナルは困ったように答えた
「や、やめたほうが…って言っても、無理そうだね…」
リンについてエレベーターに乗る
組合の最も深い地下4階で三人は降りると
すぐに大きく開けたホールになっていた
あちこちに配管が露出しているだけで、何もない空間だった
「ここは魔法耐性の高い特殊な岩石で覆ってあります」
「ミナが暴れても、ある程度は耐えられるでしょう」
リンは少し離れたところまで歩き、こちらを振り返った
その胸にはいつの間にか、赤い大きな宝石が付いた首飾りが下げられていた
ミナはリンに歩み寄りながら言った
「手加減しないからね。降参するなら早い方がいいよ」
リンは嬉しそうに挑発した
「またあなたの唇を味わえると思うと、嬉しいわ」
「ほら、わたくしおばさんでしょ? 若いエキスを早く吸わせてくださいな」
ミナが右手を上げた
次の瞬間、ホールの空間という空間が光の矢で埋め尽くされる
「きもいんだよ!おばさん!」
それが一斉にリンに向けて放たれた
リンが立っていた場所は炸裂する光がはじけ飛び、光の塊のようになる
足元の床が割れて、えぐれるように飛び散っている
光の矢は止まらない
次々と現れてリンに向かって飛び炸裂し続ける
ナルが困惑するように言った
「これ…死んじゃったんじゃ…」
ミナが手を下ろすと光の矢が止まった
リンがいた場所は土煙と砕かれた床が飛散していた
その時、土煙がはじけ飛ぶように吹き飛んだ
先ほどと同じ場所にリンは立っていた
ただ、無事ではなかった
衣服はやぶれ、あちこちを怪我していた
ミナがリンに言った
「生きてたんだ、降参する?」
「さすがですね、今のを防いだだけで、わたくしの魔力は尽きてしまいました」
ミナは勝ち誇った顔で言った
「降参しないと死んじゃうよ。あんたもう空っぽじゃん」
リンの口元が歪むように笑った
「わたくしが、勝機もないのに戦うわけがないでしょう」
その瞬間リンから小さな水の刃があちこちに放たれた
ミナは一瞬身構えたが、ミナに向けられたものではない
リンの魔法はホールにあった配管に当たり破壊する
それは魔力管だった
壊れた管から魔力が漏れ出していた
その漏れ出た魔力がリンに向かって集まり出した
正確にはリンが下げている宝石にだ
一瞬ミナの鼻に薄くリンの香りがした
「うかつですよ、ミナ」
「これがわたくしの切り札です」
リンがそう言うとホールに霧が発生した
「これは…」
ミナはすぐに何かに気づいて自分の身体を光の膜で包み込んだ
「ナル、悪食で防いで! 毒だよ!」
ナルは慌てて悪食の蛇で自分を囲んだ
霧の影響で、ミナの視界は完全に奪われる
リンの声が聞こえた
「この場で戦うことが、あなたにわたくしが勝てる唯一の方法」
響くようにどこからの声か分からない
「ここは組合の一部です、わたくしにはあなたが見える」
「そして、魔力管から無限に魔力を補給できます」
「ミナ。謝れば許してあげますよ」
「冗談でしょ。これくらいで私に勝てると思ってるの?」
そこでミナは足元の異変に気付いた
いつのまにか水が溜まっている
水位は少しずつ増えているようだ
「ものの数分でこのホールは水に満たされます」
「どうしますか?ミナ」
次の瞬間、ミナの足元の水に青白い火花が走った
バチンッ、と乾いた音がホールに響く
ミナは電気ショックを受けて、小さくよろめいた
「痛ったー!話してる最中にずるくない?」
すると、ミナの足元に白い光の箱があらわれた
箱は水面から離れるように、ミナの体を持ち上げる
「光の箱?そんなこともできたんですね。あなたの体を守っている膜も同じようなものでしょうか」
「あの電撃を受けて気を失わないのも、その膜のおかげのようですね」
「ただ、それだと時間の問題ですね。空気はどれくらい確保できましたか?」
「この霧は強烈なアルカリ性です。肌に触れたり、吸い込んだりすれば…大変なことになりますよ」
足元の水はもうナルの腰のあたりまで上がってきていた
ナルは悪食の力で、霧も水も無効化して消せるが、ミナはそうはいかなかった
ミナは観念したように身構えるのをやめて立った
「やるじゃん、リン…」
「おばさんって言ってごめんね、見直しちゃったよ」
「でもね、勝つのはわたしだよ!」
ミナが矢をつがえるような動きをすると光の弓矢が現れた
矢の先端は虹色に輝いている
リンの声が届いた
「なんですか?それは」
ミナはリンに聞こえるように言った
「特別に教えてあげるよ、私のスキル! 結晶!」
「どんなものも、結晶に変えて封じ込める!」
次の瞬間、ミナは上に向けて虹色の矢を放った
打ち出された矢は、通った周りの霧を小さな結晶に変えながら進む
そして、炸裂するように飛び散って雨のようにホールに降り注ぐ
ミナが叫んだ
「リン! ガードしなさい! 当たったら石になっちゃうよ!」
そして霧は小さな無数の結晶になって落ち
溜まっていた水も幾つかの大きな青い結晶となった
そして、ホールの隅に水の盾で身を守るリンがいた
それをミナが確認してすぐに、巨大な光の槍が現れる
「降参しなさい!」
リンの前にあった水の盾も幾つかに分かれて結晶となって床に落ちた
首から下げていた赤い宝石も砕け散る
「まいりました、わたくしの負けですね」
「お手上げですよ」
ミナは飛び跳ねて喜ぶ
「やったー!どんなもんよ!」
「みてた!?ナル!」
「う、うん! ほとんど霧で見えなかったけど」
リンがこちらに歩み寄ってくる
「あんな奥の手を持ってるなんて、知りませんでした」
「教えたことなかったからね〜。リンだってそうじゃない」
「約束通り、謝罪しましょう」
そう言ってリンは膝を地面につけ、正座をした
頭を下げようとした、その時
光の箱がリンの下から現れて、ミナの目線の高さまでリンを上げる
「本気でぶつかり合ったら気が済んだかも」
「もういいよ。なんかスッキリしちゃったし」
「弟子に頭下げてちゃ、さまにならないでしょ」
「今後もよろしく。師匠!」
一瞬またリンの香りが鼻をくすぐった
「うかつですよ。ミナ」
それからリンは穏やかに微笑んで言った
「わたくしの弟子に、お願いがあるのですが」
ミナが首をかしげる
「ん?」
「もう限界…わたくしを運んでください」
そう言ってリンは倒れ込んだ
ミナは光の箱の上にリンを乗せたまま
箱を少し浮かせ手で押すようにして運ぶ
ナルが腕を組んで待っていた
「謝って貰うんじゃなかったの?」
ミナが少し笑って言った
「そんな気がなくなっちゃってさ」
ミナはリンを横目で見た
「まだ何か隠してたみたいだし」
「わたしを殺す気なら違ったのかもね」
そう言ってリンを運びながらミナは思った
この大人
ちょっとかっこいいじゃん




