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赤さびの魔女【ナル・ラピスクロニクル】  作者: うめやす.
2章_魔女の姉妹弟子
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第二十四話 悪食からの解放

取り戻した

私の心

翌朝、ミナはナルの部屋の扉をノックした

「ナル~、入ってもいい?」


すると、ふいに扉が開いた

ナルが覗き込むようにミナを見て、手招きする


ミナは少し不思議そうな顔で部屋に入った

「どうしたの? ナル」


するとナルは、ぱっと手を合わせて頭を下げた

「昨日はごめん! カッとなっちゃって」


「え? いいよ。ナルの気持ちも分かるしさ」


よく見ると、ナルの顔は少し疲れて見えた

昨日はあまり眠れなかったのかもしれない、とミナは思った


ナルは不安そうに続けた

「許してくれる?」

「わたしのこと嫌いになってない?」


「なるわけないじゃん」


「じゃ、好き?」


「ん? うん、好きだよ」


ナルはミナを見つめたまま、少し間があった


それから、思い切ったように声を張った

「あの!」


「わ! な、なに。急に大きな声だして」

「どうしたの?」


「相談に乗ってもらっていい?」


ミナは目をぱちぱちさせてから、右手に持っていた袋を持ち上げた

「いいよ~、これ食べながらなんてどう? 朝ごはん買ってきたの」


「わ! ありがとう!」


ミナが持ってきた朝食は、パンと野菜スープ、サラダのセットだった


「おいしい!」

ナルは先ほどまでと打って変わって明るい表情を見せる

ミナはそんなナルを見て、少し安心した


「それで、なんなの? あらたまって相談って」


ナルは少し声を弾ませて言った

「ほら、来週さ、二連休あるじゃん? 建国記念日で」


「え、あ。そうなの? わたしそういうのよく知らないや」


「それでさ! せっかくの連休だから、一緒に旅行に行かない?」

「でね、ここなんかどうかなと思って」


ナルが差し出したのは温泉街のチラシだった


「温泉!? すごい! わたし達って入ったことないよね」


「うん。だから一緒に行かない?」


「いくいく!」


「やった! 実はもう申し込んであるの」


少しナルの声が低くなった

「部屋は一つだけどね」


「全然いいよ。むしろ一部屋の方がよくない?」


ナルの口元がふっと緩む

「そうだよね。よかった」


ミナも嬉しそうに言った

「たのしみだなぁ~、旅行なんかしたことなかったよね」


ナルも堪えきれないような笑みを浮かべる

「ほんと、楽しみだね」


朝食を食べ終えると、二人はいつものように中庭へ向かった


さりげなくナルはミナの手を握ってから言った

「今日は筋トレじゃないから気楽だわ」


「最近はナルも慣れてきたじゃん。前より全然できてるよ」


「そりゃこれだけやらされたらね…でも嫌なものは嫌なの」


二人が中庭に着くと、リンはすでに待ち構えていた

そして二人の顔を見るなり言った

「今日は少し特別な授業をします」


「特別ってどんな?」


「自分の心と向き合う修行ですね」


「動かなくていいってこと?」


「そういうことです」

「今回の修行はナルのために行います」

「あなたもずいぶんと体を鍛えました」

「その心も比例して強くなっているはず」


ナルが首をかしげた

「どういうこと?」


「ナルは悪食と向き合い、上手く付き合えるようにならなければなりません」

「悪食とは特殊なスキルです。宿主と魂を共有し、かつ意思を持っています」

「今までのあなたでは、心を操られていました」


「わたしそんなんじゃないわよ」


「いいえ、あなたはそんなんです」

「悪食は、あなたの心に感情を流し込みます」

「美味なものを与える相手に、心を向けるように」

「今までは、それに振り回されていました」

「これは克服せねばなりません」


ナルははっとした表情になる

「あ…」


「心当たりがあるでしょう。悪食と向き合う時が来たのです」

「今のあなたなら出来るはずです」


「どうすればいいの?」


「わたくしについてきなさい」


リンはミナの方も見た

「ミナはどうしますか? あなたは見学になってしまいますが」


ミナは軽く手を上げた

「私も一緒に行くよ。一人でいても暇だしさ」


「わかりました」


リンが二人を連れてきたのは小さな部屋だった


中に入るとお香が焚かれていた

そのお香をかぐと少し体が熱くなる気がした


「これは以前あなたに渡した惚れ薬と同系統の魔法です」

「言葉にした感情を封じる、つまり悪食の恋愛感情を封じます」

「悪食はあなたの魂の一部です。全ては無理でも、恋愛に関する部分だけなら封じ込めて干渉を断ち切れるでしょう」

「この封印はナルの精神力を媒体に構築されるものです」

「今までの鍛錬は、このためでもありました」


ナルは少し考え込んでから、静かに言った

「リン」


「なんでしょう」


「わたし、心当たりがあるわ」

「落ち着いて考えれば…変だって分かるの」

「でも少ししたら、また疑問を持たなくなる」

「これをやれば、そういうのはなくなるの?」


「はい」


ナルは小さくうなずいた

「わかった」

「ミナに悪いもんね。わたしやるわ」


それを聞いてミナがきょとんとした顔になる

「へ? わたし? なんのこと?」


「そちらに座って、目を閉じてリラックスしてください」

リンは小さな瓶を取り出した

中には赤い薬が入っている


「今から薬を飲ませます。楽にしていてください」

そう言ってリンはナルの口に薬を流し込んだ


少しナルが震え、ゆらゆらと体が揺れる

薬の効き目を確かめるように見つめてから、リンは質問を始めた

「あなたが愛している人は誰ですか?」


ナルは目を開き、ゆっくりとミナの方を向いた

「ミナが好き」


ミナがびくっと肩を揺らす


「ミナとどうなりたいですか?」


「深い関係になりたい」

「二度と離れられないくらいに」

「絶対にわたしのものにする」

「逃がさない」


ナルは焦点の定まらない目で、ミナから目を離さない

ミナの表情がみるみる強張っていく


リンが続ける

「どんな関係ですか?」


「まずは既成事実を作る」

「ミナは流されやすい、きっと落とせる」

「旅行に誘った、同じ部屋だ、深い関係になるつもり」

「ミナに好きな人が出来てからじゃ遅い、早い方がいい」


「えぇ!」

思わずミナが声を出す


リンはさらに聞いた

「ミナが受け入れなかったら?」


「準備はしてある」

「こうする」


ナルが手を振るようにミナへ向けた


次の瞬間、紫の蛇がミナを包み込むように現れた

さらに赤い砂が両手足を絡め取るように巻きつく


「え!? なになに!?」


慌てるミナに、ナルがふらりと立ち上がって歩み寄る


ミナを見下ろしながら、ナルは言った

「これで抵抗できない」


ミナがむっとした顔になる

「ちょっと、やめて! 怒るよ!」


ナルは無反応のまま見下ろしている


ミナは抵抗を試みる

「この! って…え!?」

「魔法が…出ない?」


ナルの口元がわずかに緩む

「悪食の蛇で包み込んでしまえば、魔法は発動しない」


「なによ…それ」

ミナは慌てて両手足に力を入れる

赤い砂の拘束はびくともしない

「うそ…でしょ」


ナルは静かに言った

「わたしのこと、好きって言ったよね」


「そういう意味じゃないよ!」

「ともだち! わたしたち友達でしょ!?」


「友達も恋人も似たようなものだよ」


ミナは必死に首を振った

「全然違うよ! 」

「リン! なに見てんのよ、助けてよ!」


リンは興味深そうに二人を眺めていた

「ちょっと興味がありまして」

「少し泳がせてみようかと」


「あんたなに考えてんのよ! 頭おかしいんじゃないの!?」


次の瞬間、ナルがミナの口を自分の唇でふさいだ


「んーーーー!!」

ミナの断末魔が鳴り響く


リンは残念そうにため息をつく

「仕方がありませんね」


そう言って、大きな音を立てて手を叩いた


するとナルの虚ろだった目に焦点が戻る

ナルは目をぱちぱちさせて、ばっと距離を取った


リンが告げる

「悪食のミナに向いた感情を封じました」

「今後、悪食はミナから心を移さず、その感情が表に出ることもないでしょう」


「どうですか? ナル。まだミナに恋愛感情を持っていますか?」


ナルは気づいたように自分の胸に手を置いた

「さっきまでのが嘘みたい…」

「なんにもない! 全然ないよ!」


するとミナが、震える声でナルに訴えた

「酷いよナル! わたし初めてなんだよ! 謝ってよ!」


ナルはあわてたように言った

「ごめんって。でもお互い様じゃん、こんなのノーカンだって」


「ナルは初めてじゃないじゃん! ソラとしたことあるんでしょ?」

「この前リンに聞いたからね!」


「あ、あれは事故みたいなものだって。あれもノーカンだよ」


「そんなわけないでしょ! カウントされるわよ!」


「そんなに嫌がってなかったじゃん」


ミナは口元を押さえて叫ぶ

「嫌だよ! 感触が忘れられないよ! どうしてくれるのよ!」


そこでリンが少し呆れたように言った

「おちつきなさいミナ。キスくらいで…」

「相手はナルなのだから、気にするほどのことでもないでしょう」

「まったく情けない…それでも魔女ですか」


その言葉で、ミナの怒りの矛先がリンへ向いた

「リンが早く止めてくれないからでしょ!」

「あんたと違って、わたしは諦めてないの!」

ミナはさらに言葉を強くして言った

「リンなんか行き遅れてやさぐれてるだけでしょ!?」

「魔女とか関係ないじゃん! 黙っててよ! おばさん!」


リンの眉がぴくりと動く

そして、ゆっくりとミナへ歩み寄ってきた

「いいことを教えて差し上げましょうか」

「わたくし、と~っても意地悪なおばさんなんですよ」


リンは人差し指を自分の唇に当てる

「わるいお口ですね」


まだミナへの拘束は解けていなかった

魔法も使えず、身動きも取れない

「な、なに…」


次の瞬間、リンはミナに深くキスをした

ナルの時とはまるで違う

リンの花のような香りが鼻をくすぐる


ナルが後ずさりしながら言った

「お、大人のキスだ…」


少しして…


リンがミナを解放して離れると同時に、悪食の蛇と赤い砂の拘束が消えた

ミナはその場に崩れ落ちる


そのまましばらくの間、ミナは身動き一つしなかった


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