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3-3 将来

「行くよー、ナル」


「うん」


ナルは当たり前のように、ミナの手を握った


2人は朝の訓練を受けるため、組合の中庭へ向かう


あのレストランへ行って以来、ナルはことあるごとに手をつないでくる


ほんの少し距離が近くなった


とはいえ、それ以外に変わった様子はない


中庭では、リンが2人を待っていた


その横には、ナル宛ての贈り物が新たな山を築いている


山の大半は、リックからの贈り物だった


城で顔を合わせて以来、毎日のように届いている


「また、リックからナルへのプレゼント?」


リンは贈り物の山を見ながら、いつもの落ち着いた口調で答えた


「よほどナルが欲しいのでしょうね」

「わたくしのところにも、ナルと2人きりで会わせろと何度も手紙が来ています」

「そのたびに、お断りしていますけどね」


ナルが困った顔をした


「え~、なによそれ~」


ミナも呆れている


「下手したら親子ほど歳が離れてるのに、しつこいね」


リンは2人の反応を見届けると、贈り物の山の脇から2冊の通帳を取り出し、1冊ずつ差し出した


ナルは受け取った通帳を表裏に返して眺める


「なにこれ?」


「預金通帳です」

「あなたたちの分を作っておきました」


「預けたお金を記録しておくやつ?」

「なんでそんなものを?」


「あなたがたは、宮廷魔術師として正式に登録されました」

「これからは毎月、手当が支給されます」


「手当って……お金をくれるの?」


「はい」


「えー!? ほんとに?」

「でも、わたしたち何もしてないよ?」

「宮廷魔術師って、なにをするの?」


「普段から働くわけではありません」

「国に何かあったとき、力を貸す」

「それが主な役目です」


ミナが半信半疑で尋ねた


「つまり、何も起きなければ、お金だけ貰えるってこと?」


「そういうことになりますね」


ナルが喜びの声をあげる


「えええ! すごい! ラッキーじゃん!」

「これで遊んで暮らせるよ~」


ミナは少し笑った


「なにもしなくても貰えるんだから、大した金額じゃないって」


「毎月、金貨10枚ですよ」


リンがさらりと告げる


「10枚!?」


2人は思わず顔を見合わせた


金貨10枚といえば、2人にとっては息をのむほどの大金だ


ナルは両手を上げた


「本当に遊んで暮らせる~!」

「リック、ありがとう~!」


ミナが確認する


「1年で120枚も貰えるってこと?」


「そうです。毎月、それぞれの口座に振り込まれます」

「通帳はあなたがたの魔力と同期していますから、銀行へ持っていけば受け取れますよ」


「すごい……よかったね、ナル。なにに使うの?」


「え? 貯金するよ」

「ここにいる間は、生活費も掛からないし」


「そうなんだ。ナルって、案外堅実なんだね」


てっきり、欲しいものを次々と挙げると思っていた


「将来のためのお金だって必要なんだから、無駄遣いできないでしょ」


「将来って?」


ナルは、当たり前のことのように答えた


「ここを出たら、2人で暮らすんでしょ?」

「お金がなかったら困るじゃない」


「あぁ! そっか。そうだよね」


そう答えながら、ミナは胸の内で首をかしげた


あれ? ここを出たら、2人で暮らすんだっけ?


いつ決めたのかは分からない


でも、ナルがそう考えてくれていたことは、素直に嬉しかった


少なくとも、ギルドへ帰るつもりはないらしい


「それに、昨日のお店だって絶対に高いもの」

「また行けるように、今のうちに2人で貯めておこうよ!」


「あ、そこまで考えてたんだ」


2人の話を聞いていたリンが、口を挟んだ


「魔法省に所属している限り、あのお店は無料で利用できますよ」


ナルが身を乗り出した


「ほんとに!?」


「ええ。またミナが連れて行ってくれますよ」

「わたくしたちと一緒にいれば、これからも楽しいでしょう?」


「やったー!」


ナルが無邪気に喜ぶ一方で、ミナはため息をついた


リンの魂胆は、あまりにも見え透いている


ミナはリンの顔を見て、からかうように言った


「ナルがほかの場所になついたら、心配だもんね~」


ナルがむっとして頬を膨らませた


「また、動物みたいに言わないでよ」


ここを出たら、ナルと2人で暮らす


おいしいものを食べて、ときどき旅行にも出かける


そんな暮らしが、ずっと続いていけばいい


ナルが口にした将来を思い浮かべると、自然と嬉しくなった


2人のやり取りが落ち着いたところで、リンは話題を切り替えた


「ところで、明日は3人で出かけることになりました」


「どこに行くの?」


「リック王から招待を受けました」


ミナが嫌そうな顔をする


「え、またリック? なんか会いたくないな……」


ナルが聞いた


「またパーティー?」


「いいえ、軍の演習を見に来てほしいそうですよ」


「なにそれ?」


「みんなで集まって戦う練習をするのです」


「えぇ……興味な~い」

「なんでわたし達を呼ぶの~?」


「おそらく、ナルに見せたいのでしょうね」


「わたしに? なにを?」


「自分って凄いんだぞ~ってところ、ですかね」


「なにそれ、なんか気持ち悪いんだけど」


ミナはナルの反応に胸を撫で下ろした


だが、すぐに背筋が冷たくなる


もしも、悪食の影響で生まれたリックへの気持ちが残っていたら


ナルは、求婚を受け入れていたかもしれない


「危ないところ……だったんだね」


思わず、そんな言葉が漏れた





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