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赤さびの魔女【ナル・ラピスクロニクル】  作者: うめやす.
2章_魔女の姉妹弟子
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第二十三話 軍の演習

私の気持ちは

私のもの

けたたましくラッパの音が鳴り響く

武装した男たちが歓声をあげる

地響きを鳴らしながら騎兵達が駆け回る


ナルたちはリックの誘いで軍の演習を見学しにきていた

小高い丘に席が用意され、三人で座っている


ナルは辺りを見回して言った

「なんかすごいね…わたしたち場違いじゃない?」


ナルとミナは、淡い花柄のドレスを着せられていた

馬と土埃が駆け回る場所にはまるで似合わない、汚れやすい明るい色だ

こういうものに興味などありませんと、服のほうが先に言っているようだった

リンは二人とは対照的に、落ち着いた濃紺のドレスを着ている


ミナは自分のスカートの裾をつまんで顔をしかめた

「こんな恰好で来るところじゃなくない?」


リンは涼しい顔で答える

「あら、こういうものに興味があるとでも思われたいのですか?」

「あなた達はおしとやかで平穏と花を好む乙女です。それでお願いしますよ」


ミナは小さく肩を落とした

「めんどうだなぁ~」


するとリックがドカドカと部下を引き連れて現れた


「おお!ナル!来てくれたか!」

明らかにナルを狙っている


ナルはミナの後ろに隠れた


かわりにリンが返事する

「ごきげんよう、リック王」


「おぉ、リンもよく来てくれた。ナルと話が出来ないか?用があるんだ」


「いけません。修行中の身です、男性との会話はたとえ陛下でもさせられません」


「そこをなんとかならないか?」


「なりません」


「ならリンから聞いてくれないか?もう伝わっているはずだろう」


「彼女はわたくしの愛弟子です。全てはわたくしが決めます」


「ではリン、修行が終わってからでいい。ナルをわたしにくれないか?」


「駄目です。結婚など魔道の妨げです」


「マリーは結婚したじゃないか」


「だから堕落しました。わたくしの弟子を誘惑するなら、たとえ陛下と言えども許しませんよ」


リック王は少しイラつきを押さえるように言った

「ん!んん。分かった…」


そしてまたナルの方に向かって声を投げた

「ナル!美味いものを宮廷の料理人たちに作らせてある、好きなだけ食べてくれ」


ナルはミナの後ろに隠れたまま、顔も出さなかった


それを遮るようにリンが一歩前に出る

「わたくしの弟子に、勝手に話しかけないで頂けませんか?話ならわたくしがお伺いします」


「ええい、もういい」

そう捨て台詞をはいてリックは立ち去った


ナルはミナの背中に半分隠れるように身を寄せたまま言った

「なにあれ…こわいんだけど…」


ミナは肩をすくめた

「露骨にグイグイ来るわね、偉いからたちが悪い」


リンは静かに言った

「だいじょうぶです。この場にはA級魔法使いが三人います。わたし達に何かを強制できる人間はこの国にはいませんよ」


ナルはまだミナのそばを離れない

「わたし…ずっとミナとリンと一緒にいる。あの人怖すぎ…」


そのあと、しばらく軍人たちが右往左往と演習する様子を眺めていた


ナルはうなだれた

「つまんな~い…」


ミナも肩を落とした

「うん、もう帰りたいね」


リンはお茶をひと口飲んでから言った

「三つの軍から代表者を出しての模擬試合があるらしいですよ」

「それだけは見てから帰りましょうか」

「わたくしたちがそそくさと帰ってしまうと、その人たちがリックから怒られるかもしれません」


ナルはうなだれるように言った

「なにそれ〜、なんなのよあのおじさん。迷惑なんですけど~」


やがてラッパの音が鳴り響いた

三つに分かれていた軍勢から一人ずつ歩み寄ってくる

どうやら模擬試合が始まるようだ


リンが言った

「あれらはそれぞれ別の軍です」

「第一、第二は貴族出身者の軍」

「第三は庶民も混ざっています」


ミナは興味なさそうに言った

「へー、そうなんだ。違うんだね~」


リンは続ける

「模擬試合は三つ巴方式、三人が同時に戦います」

「といっても、毎回最初に第三軍代表が二人がかりで倒されますけどね」


ナルがつまらなそうに言う

「なにそれ、いじめみたい」

「はやく終わらないかな~」


そこでミナの目が見開いて言った

「って、まって!ナル!あれみて!」


「え?なに?」


ナルはミナが指さした方をみる

そこには第三軍の代表者が歩いていた


ナルは目を見開く

「イナク!?」


そこにいたのは、確かにイナクだった

大柄な体に無骨そうな顔、金属の鎧をまとい、大きな剣を背中に背負ってる


ギルドで子供のころから一緒に暮らしてきた

ナルにとっては家族同然の存在だった


「イナクが戦うの?だって、さっき二人がかりで襲われるって…」

「そんなことされたら、怪我しちゃうじゃない!」


ナルが前に出ようとしたのを察してリンが立ちふさがる

「いけません」


「どいてよ!」


「今あなたが助けに入れば、困るのはイナクさんです」

「自分の立場を考えなさい、ましてあなたはリック王に気に入られている」

「身を挺して他の男を助ければ、目を付けられるのはイナクさんです」

「一兵士に過ぎない彼は、ただではすみません」


ミナもナルの両肩を持って押さえるようにした


それにナルが反応する

「はなしてよ」


ミナはナルを落ち着けるように言った

「イナクなら大丈夫だって。危なくなくなったら私も手伝うから、今は我慢して」


「ミナ!」

リンが咎めるように言った


ミナはリンに対峙するように言う

「わるいけど、わたしもイナクとは古いからね。目の前でそうなったら我慢なんかしないよ」


リンの目元が歪む


その時、大きなラッパの音が鳴り響いた

どうやら試合が始まったらしい


案の定、一軍と二軍の代表はイナクの方を向いて構えている

イナクはゆっくりと背中の剣を抜いて構えた


ナルの呼吸が一段速くなった

前に出ようとした肩を、ミナが押さえる

その前にリンも立ちふさがった


「邪魔しないで!」


ミナもリンも、答えずナルを止めた

行かせるわけにはいかなかった


それから、ナルはかすれるような声で言った

「イナクが…ケガしちゃうじゃない」

「邪魔するなら…」


ナルは覚悟を決めて目を見開いた

「あんたたちも敵よ!」


その瞬間、ナルから赤い針が出てミナとリンに襲い掛かる

ミナは後ろに飛び、赤い針を光で弾く

リンは水の盾で防いで跳ねるように後ろへ下がる


ナルは飛び出すように前に出た

次の瞬間、イナクは猛烈な一振りで一軍の代表者を吹き飛ばした

返す手で二軍の代表者を蹴り飛ばし、剣をその首元に突き付ける


あっという間の決着に第三軍から地響きするほどの歓声があがる


それをみてナルは足を止めた


リンが歩み寄ってナルを落ち着かせるように静かに言った

「ナル、ごらんなさい。なにも心配はいりません」

「イナクさんに、あなたは関わってはいけません。危うくなるのは彼の方です」


ミナもナルに歩み寄り背中に手を置く


ナルは黙っていた…

イナクの姿が見えなくなるまで

ただ目を離さず見つめていた


帰りの馬車の中は沈黙に包まれていた


ナルはミナの手を握ったまま眠ってしまっている

ミナも何も言わず、窓の外を見ていた


リンはナルを見て、わずかに口元を緩めた


「十分に、強くなったようですね」


その声は、馬車の揺れる音に紛れて消えた


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