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3-1 恋の真相

その翌日、組合にはナル宛ての贈り物が大量に届いた


昨日、挨拶に来た貴族たちからだ


中身はすべて食べ物だった


添えられた手紙には、自分の屋敷の料理人や領地の特産物についての自慢が書き連ねられていた


昨日のお披露目は、思っていた以上に効いたらしい


その中には、リック国王からの贈り物もあった


それを見つけたナルが、嬉しそうに声を上げる


「見て! リックからのもある!」


リンが、山のように積まれた贈り物を見上げて言う


「まさか……こんなことになるとは思いませんでした」


ミナも中庭を埋める贈り物を見て、ため息をつく


「ナルってさ、本当は誘惑の魔女なんじゃないの?」


「なによそれ! そんなことないよ」


リンが言った


「問題は、リック王からも贈り物が届いていることです」


ミナのため息が、さらに深くなる


「なんでリックまでナルを狙ってんのよ」


「え~、いいじゃん」


そう言って、ナルはリックからの贈り物を開ける


「飴玉だ!」

「しかも、いろんな種類が入ってる!」

「やったー!」


箱の中には、ハート型のメッセージカードも入っていた


ナルはそれを手に取り、弾んだ声で読み上げる


「手紙も入ってる~」

「今度、二人で会おうだって!」

「美味しいもの、食べさせてくれるかな!?」


ナルの様子を見て、ミナが探るように聞く


「ナル? なんかおかしくない?」

「まさかとは思うけど……」

「リックなら、結婚してもいいとか思ってないよね?」


一瞬、ナルがたじろぐ


「お、思ってないわよ」


ミナの眉がぴくりと動く


「あー! 絶対思ってる!」

「やっぱり餌付けされてんじゃん!」


ナルは少しむくれて言った


「なによ!」

「そんなんじゃないから」

「ただ、いい人だったな~って思っただけだよ」


リンが淡々と言う


「リック王は野心的な方です」

「自らの野望に役立つA級魔法使いを、伴侶として迎えたいのでしょう」

「マリー、わたくし、サラには断られていますからね」


ミナが声を上げた


「なにそれ!?」

「手当たり次第じゃない!」

「あいつ、誰でもいいの?」


「彼がまず欲しているのは、ナル個人ではなく、A級魔法使いとしての力と立場ですから」


ナルは飴を口に入れながら、ふと気づいたように言った


「あれ? だったら、なんでミナには来てないの?」


「二人に贈ってしまえば、どちらへの求婚なのか分からなくなるからではないでしょうか」


ミナが腕を組んで言う


「わたしより、ナルのほうがお好みだったってこと?」

「なんか、いろいろとむかつくわね。リックのやつ」


リンが小さくため息をつく


「仕方がありませんね」


それから、ナルへまっすぐに向き直った


「ナル……この際です。あなたに話しておきたいことがあります」


「な、なに? 改まって……」


「いずれは、知っておかなければならないことです」

「ナル。あなたの感情は、無意識のうちに悪食の影響を受けています」


「なによ、それ」


「あなたは、自分が悪食をコントロールしていると思っているのでしょう」

「ですが、実際には、悪食もまたあなたの感情を動かしているのです」


「簡単に言えば、悪食は自分を満たしてくれる相手を求めます」

「そしてあなたは、悪食がその相手を求める気持ちを、自分自身の愛情だと思い込んでしまうのです」


「そ、そんなわけないでしょ」


「あなたはここで暮らすようになってから、これまで知らなかった美味なものを、たくさん与えられてきたはずです」

「そして、悪食をより強く満たしてくれる相手が現れるたび、悪食の求める相手も変わっていったのでしょう」

「自分の胸に聞いてみなさい」

「今でも、以前と同じようにソラさんを求めていますか?」


ナルは胸に手を当て、しばらく自分の気持ちを確かめていた


そして、小さく呟く


「あれ……おかしいな」


ナルは、リンの問いかけに答えなかった


「悪食とは、そういうものなのです」


「うそだよ。そんなわけ……」


ナルはしばらく考え込む


そして、何かに気づいたように顔を上げた


「……あるかも」

「わたし……リックのこと、好きだと思っちゃってる」


ミナがナルの両腕を掴んだ


「だから、ずっと言ってるじゃん! 餌付けされるなって!」


ナルは自分の胸元へ視線を落とした


「うん……どうしよう」

「これ、おかしいよね」


ミナの手に力が入る


「それ、絶対にナルの気持ちじゃないよ!」

「相手はおじさんだし、ちょっと会っただけじゃん!」

「それだけで好きになるわけないでしょ!?」


ナルは不安そうに目を泳がせた


「どうしよう……」

「わたし、リックのお嫁さんになりたいって思ってる……」

「変だよね……」


ミナはナルに強く言い聞かせる


「絶対に変だよ!」

「ナル、お願いだから、しっかりして!」


ナルはうつむいた


「どうしよう……止められないかも」

「思い返せば、ソラ君のときも、こうだった」

「そのうち、疑問すら感じなくなって……」


リンは落ち着いた口調で言う


「心配はいりません」

「悪食の欲求を止めるのではなく、悪食が求める相手を、こちらで選べばいいのです」


ミナが顔を上げる


「どういうこと?」


リンはメモ用紙を取り出し、何かを書いた


そしてナルから少し離れると、ミナを手招きする


「なに?」


ミナがそばへ来ると、リンはナルに聞こえないよう声を落とした


「二人で、このお店に行きなさい」


そう言って、メモをミナに渡す


そこには、レストランの名前と場所が書かれていた


「ここは、我が国で唯一の魔法料理人が営む店です」

「彼女の料理より美味しいものは、理論上存在しません」

「こうなったら、悪食にはミナを徹底的に好きになってもらいましょう」

「あなたがナルを連れていきなさい」

「もともと親しいあなたなら、友愛の範囲に収まるはずです。たぶん」


「なるほど~」

「って、今たぶんって言わなかった?」


「ナルがおじさんに奪われてもいいのですか?」

「ナルの好意を、あなたが受け止めなさい」


「えええ!」

「わたしが受け止めるの!?」


「以前、ナルにしか興味がないと言っていたではありませんか」


「そういう意味じゃないよ!」


「たぶん大丈夫です」

「友達として好きになるだけでしょう」


「その、たぶんが怖いんだよ!」


「このままでは、ナルが好きでもないおじさんと結婚してしまいますよ」

「悪食がリック王を求める気持ちを、自分の恋心だと思い込み、自分から結婚を承諾してしまうかもしれません」

「それでもいいのですね?」


「う……それは嫌」


「では、あなたで上書きしなさい」

「他に方法はありません」


ミナは振り返り、ナルを見る


もしかするとナルは、これまでも、悪食の執着を自分の恋心だと思い込んできたのかもしれない


そう考えると、ナルのことがひどく不憫に思えた


「ああ、もう!」

「仕方ないな!」


ミナは迷いを振り払うように、ナルの前へ歩み寄る


「ナル! ご飯食べに行かない?」

「美味しいお店、知ってるの」


「え! 行く行く!」

「ちょうどお腹すいてたの!」

「でも、今日の訓練、まだだったよね」


リンが言った


「今日はお休みです。二人で楽しんできなさい」


「いいの?」

「やったー!」


ミナはもう歩き出していた


「行くよー、ナル~」


「あ、待ってよ~」


後ろから駆けてくるナルの足音を聞きながら、ミナは改めて覚悟を決める


もう二度と、別の誰かに上書きされないくらい、悪食に好かれてやる


その結果、少しくらい変なことになっても


わたしが受け止めてみせる



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