第二十話 恋の真相
危うい友人
私が守る
その翌日、組合には大量のナル宛の贈り物が届いた
昨日挨拶にきた貴族達からだ
その全てが食べ物で、添えられた手紙にはもれなく
自分の屋敷の料理人自慢が書いてある
領地の特産物を並びたてるものもあった
昨日のお披露目は、思っていた以上に効いたらしい
そしてその中には
リック国王からのものもあった
ナルがそれを見つけて嬉しそうに言った
「みて!リックからのもある」
リンが荷物を見上げるようにして言う
「まさか…こんなことになるとは思いませんでした」
ミナが中庭に山のようになった贈り物にため息をつく
「ナルってさ、本当は誘惑の魔女なんじゃないの?」
「なによそれ!そんなことないよ」
リンが言った
「困ったのは、リック王からも贈り物が届いていることです」
大きなミナのため息が響く
「なんでリックまでナル狙ってんのよ」
「え~いいじゃん」
そう言ってナルはリックからの贈り物を開ける
「飴玉だ!しかも色んな種類が入ってる!やったー!」
箱にはハート型のメッセージカードが入っていた
ナルはそれを手に取り嬉しそうに言った
「手紙も入ってる~、今度二人で会おうだって!」
「美味しいもの食べさせてくれるかな!?」
ナルの様子を見て、ミナが確認するように聞いた
「ナル?なんかおかしくない?」
「まさかとは…思うけど…」
「リックなら結婚してもいいとか思ってないよね?」
一瞬ナルがたじろいだ
「お、思ってないわよ 」
ミナの眉がピクリと反応する
「あー!絶対思ってる!やっぱり餌付けされてんじゃん!」
ナルはすこしむくれて言った
「なによ!そんなんじゃないから」
「いい人だったな~ってだけだよ」
リンが淡々と話す
「リック王は野心的な方です」
「自らの野望に役立つA級魔法使いの伴侶が欲しいのでしょう」
「マリーとわたくし、サラには断られましたからね」
ミナが言った
「なにそれ!?手あたり次第じゃない、あいつ誰でもいいの?」
「彼が欲しいのは、ナル個人ではなくA級魔法使いですから」
ナルは飴を口に入れながら、気づいたように言った
「あれ?だったらなんでミナには来てないの?」
「二人に送ったら求婚とは取られないからじゃないでしょうか」
ミナが腕を組んで言う
「わたしよりナルがお好みだったってこと?」
「なんか色々とむかつくわね、リックのやつ」
リンが小さくため息をつく
「仕方がありませんね」
それからナルにしっかりと向き合うようにしてから言った
「ナル…この際です、あなたに話しておきたいことがあります」
「な、なに。改まって…」
「いずれは向き合わねばならないことです」
「ナル。あなたは無意識のうちに、悪食に感情を動かされています」
「なによそれ」
「あなたは悪食をコントロールできていると思っているのでしょう」
「でも、それは違います。あなたは常に悪食に感情を操作されています」
「簡単に言えば、悪食が求めれば」
「あなたはその人を愛します」
「そんなわけないでしょ」
「あなたはここで暮らすようになってから、今までには味わえなかった美味なものを食べたはず」
「自分の胸に聞いてみなさい」
「今でもソラさんを愛していますか?」
ナルは胸を抑え少しの間があった
そして小さくナルは言った
「あれ…おかしいな」
「かつてのような強い愛情が、今はないのでは?」
ナルはリンの問いかけに返事をしなかった
「悪食とはそういうものなのです」
「うそだよ、そんなわけ…」
ナルはしばらく考え込む
そして閃いたように言った
「……あるかも」
「わたし…リックのこと好きだと思っちゃってる」
ミナがナルの両腕を掴んで言った
「だからずっと言ってるじゃん!餌付けされるなって」
ナルは自分の胸に手を置きながら確認するように言う
「うん、どうしよう…」
「これおかしいよね」
ミナの手に力が入る
「それ絶対ナルの気持ちじゃないよ!」
「相手おじさんじゃん、ちょっと会っただけじゃん」
「好きになるわけないでしょ!?」
ナルは目を泳がせた
「どうしよう…」
「リックのお嫁さんになりたいとか…」
「わたし変だよね…」
ミナが強く言い聞かせるように言う
「絶対変だよ!」
「ナル、お願いだからしっかりして!」
ナルはうつむいて言った
「どうしよう、止まらないかも…」
「ソラ君の時もこうだった、そのうち疑問すら感じなくなって…」
リンは落ち着いた口調で言った
「心配はいりません。悪食を止めるのではなく、向かう先を選べばいいのです」
ミナが反応する
「どういうこと?」
リンはメモ用紙を取り出し、そこに何かを書き出した
そして少しナルから離れてから、ミナを手招きして呼んだ
「なに?」
ミナが横に来るとナルに聞こえないようにリンは言った
「二人でこのお店に行きなさい」
そう言ってメモをミナに渡す
そこにはレストランの場所と名前が書いてあった
「ここは我が国唯一の魔法料理人が営む店です」
「彼女が作る料理よりも美味しいものは理論上存在しません」
「もうこの際、悪食にはミナを徹底的に好きになって貰いましょう」
「あなたがナルを連れて行きなさい」
「女同士なら、ナルも恋愛感情を持たないはずです。たぶん」
「なるほど~」
「って今、たぶんって言わなかった?」
「ナルがおじさんに寝取られてもいいんですか?あなたが受け止めなさい」
「えええ!わたしが受け止めるの!?」
「前にナルにしか興味がないって言ってたじゃないですか」
「そういう意味じゃないよ!」
「たぶん大丈夫です、友達として好きになるだけです」
「たぶんが怖いんだよ!」
「ナルが好きでもないおじさんと結婚してしまいますよ、手籠めにされますよ、いいんですね?」
「う…それは嫌」
「あなたで上書きしなさい、他に方法はありません」
ミナは振り返ってナルをみる
今まで好きでもない男を好きだと思わされてきたとしたら
ナルのことを不憫に思った
「ああ、もう!仕方ないな!」
ミナは振り払うようにナルの前に歩み寄る
「ナル!ご飯食べにいかない?美味しいお店知ってるの」
「え!いくいく!ちょうどお腹すいてたの!」
「でも今日の訓練まだだったね」
リンが言った
「今日はお休みです。二人で楽しんできなさい」
「いいの?やったー」
ミナはすでに歩き出していた
「いくよー、ナル~」
「あ、まってよ~」
ミナは覚悟を固めていた
もう二度と上書き出来ないくらいに悪食に好かれてやる
その結果、変なことになっても
わたしが受け止めてみせる




