第十八話 二人のラピス 2
「準備が整いました。どうぞこちらへ」
「はーい」
ナルが元気に返事した
一瞬レアルが眉をひそめたのが分かった
ミナは驚いてナルを見る
先ほどまでレアルを顔に出すほど嫌っていたのに
飴……?飴を貰ったから?
すこしウキウキしながら立ち上がるナルをみて
ミナは少し呆れたような気分になった
レアルについてふかふかの絨毯の廊下を進むと、ひときわ大きな観音開きの扉があった
レアルはそれを開けて中に入る、そこは大きなホールだった
テーブルには山のような料理が並んでいる
そこには貴族達が立食のパーティーを楽しんでいた
三人が中に入るとレアルがホールに響き渡る声で言った
「リン・セピアとその弟子ミナ、ナル」
その声に会場じゅうの目線が三人に集まる
リンは気にもしないようすで歩いている
二人も少し戸惑いながら続いた
そして、リンが歩く方向の先、椅子に座った男がいた
豪華で立派な椅子だった、装飾や宝石がちりばめられている
赤く短い髪、精悍な顔立ちで包容力を感じる眼差し
リンはその男の前まで進み、例の挨拶の礼をする
ミナとナルも急いで礼をした
「リック陛下、ご無沙汰しておりました」
「久しぶりだなリン、あいもかわらず美しい」
ナルが耳打ちした
「本物のリックだって!」
「小説のイメージそのものだね、ちょっと年取ってるけど」
「あら、リック王も女性のご機嫌を取れるようになったのですね」
リックは笑ってから言った
「本音を言っただけだよ」
「そちらが、報告にあった子達か?」
「はい、そうです」
リンは二人に命じるように言った
「陛下に挨拶をしなさい」
二人は礼の挨拶をした
「ミナです、ごきげんよう」
「ナルです、ごきげんよう」
するとリックは立ち上がり3人の方へ歩み寄ってくる
そして声を張り上げてホール中に命じるように言った
「白い脅威を退けた英雄たちに賛美を!」
それを聞いて一斉に場内が拍手と歓声が起こる
「リンと共によくぞ民を守ってくれた」
「褒美をやろう、なにが欲しい?」
そう問われてミナとナルは戸惑う
会話はリンがするとの約束だった
「わたくしの愛弟子は修行中の身です」
「男性との会話を禁じています」
「褒美など不要です、魔法省への支援で既に頂いております」
「そうではない、個人としての働きに報いたいのだ」
「であれば、二人に苗字をお与え下さい」
「そんなものでいいのか?お前たちもそれでいいのか?」
ナルとミナは静かに頷いた
「わかった」
そう言ってリックは少し考えてから言った
「まずはミナ。君はサラの娘だったね」
「ならば母の苗字を継ぐといい。ミナ・ラピスと名乗れ」
ミナは小さく頷く
「それからナル、君は…」
そこでナルがさえぎるように言った
「わたしもそれがいい」
リックが少し驚いて聞き返す
「それとは?」
「わたしも、ラピスがいい」
ナルが育った…大切なギルドの名前だった…
リンが反応する
「ナル、だまりなさい」
そう言われてナルは縮こまるように下を向いた
「ミナと同じ苗字がいいのか?」
「かまわないが…ミナもそれでいいのか?」
ミナは何度も頷いた
「ならばナル・ラピスと名乗れ」
「ミナ・ラピス、ナル・ラピスに苗字を与え、宮廷魔術師の資格を授ける!」
様子を見守っていた場内から拍手と歓声が上がる
リックは椅子前に戻り会場に聞かせるように言った
「リン・セピア、ミナ・ラピス、ナル・ラピス、今後も我が国のために力を貸してくれ」
リンは深々と頭を下げて言った
「おおせのままに」
ミナとナルも慌てて頭を下げる
「さぁ、我が自慢の料理人たちに腕を振るわせた、堪能してくれ!」
「酒も飲みきれんほど用意した」
「皆への労いだ、十二分に楽しんでくれ」
そのリックの一言で会場の空気が一気に変わる
皆がおしゃべりをはじめ、皿の音があわただしくなり始めた
リンが二人に声をかける
「二人ともよくやりました、あとは食事を楽しむだけです」
ナルが嬉しそうに言った
「なんかリックって良い王様みたいだね、小説の続きみたい」
ミナも安心したように笑って言った
「マリーが言い寄られてるの想像してちょっと笑いそうになっちゃった」
「あ、それわたしも!想像しちゃうよね」
「でもリック振られて可哀そうだね、結婚とかしてるのかな?」
「それっぽい人いなかったよね」
「まさか、まだマリーを引きずってる?」
「えー、かわいそ~」
リンが小さくため息をついた
「あなた達は想像以上に図太いようですね」




