表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/122

2-9 二人のラピス

「準備が整ったよ。お待たせしたね」

「どうぞ、こちらへ」


「はーい」


ナルが元気よく返事をした


レアルが一瞬、眉をひそめる


ミナは驚いてナルを見た


先ほどまで、レアルへの嫌悪を隠そうともしなかったのに


飴……?

飴をもらったから?


どこか浮き立った様子で立ち上がるナルを見て、ミナは呆れてしまった


レアルの後について、ふかふかの絨毯が敷かれた廊下を進むと、ひときわ大きな両開きの扉があった


レアルが扉を開ける


その先には、大勢の貴族が集う広いホールがあった


いくつものテーブルに山のような料理が並び、皆が立食のパーティーを楽しんでいる


三人がホールへ入ると、レアルが会場中に響く声で告げた


「リン・セピアと、その弟子ミナ、ナル」


貴族たちの視線が、一斉に三人へ集まる


リンはまるで気に留める様子もなく、堂々と歩いていく


ナルとミナも、少し戸惑いながらその後に続いた


リンが向かった先には、豪華な椅子に腰かけた男がいた


椅子には華やかな装飾が施され、いくつもの宝石がちりばめられている


男は短い赤髪に精悍な顔立ちをしており、その眼差しには人を包み込むような温かさがあった


リンは男の前まで進み、優雅に礼をする


ナルとミナも慌ててそれに続いた


「リック陛下、ご無沙汰しておりました」


「久しぶりだな、リン」

「相変わらず美しい」


ナルがミナに耳打ちする


「本物のリックだって!」

「小説のイメージそのものだね」

「ちょっと歳を取ってるけど」


「あら、陛下も女性のご機嫌を取れるようになったのですね」


リックは笑って答えた


「本音を言っただけだよ」

「その二人が、報告にあった子達か?」


「はい、そうです」


リンが二人を促した


「陛下にご挨拶なさい」


二人は教えられた通りに礼をする


「ミナです。ごきげんよう」

「ナルです。ごきげんよう」


二人が迷いなくリンの指示に従うのを見て、リックの笑みがほんの一瞬だけ硬くなった


だが、すぐに何事もなかったような穏やかな表情へ戻る


リックは立ち上がり、三人の前へ歩み寄った


そして会場中に響く声で告げる


「白い脅威を退けた英雄たちに、賛美を!」


その言葉を合図に、会場から一斉に拍手と歓声が上がった


「リンと共に、よくぞ民を守ってくれた」

「褒美をやろう。何が欲しい?」


突然問われ、ミナとナルは戸惑った


会話はリンに任せ、勝手に答えないよう言われている


「わたくしの愛弟子は、まだ修行中の身です」

「男性との会話も禁じております」

「褒美は必要ありません」

「魔法省への支援として、すでに十分頂いております」


「そうではない」

「二人個人の働きに報いたいのだ」


「でしたら、二人に名字をお与えください」


「そんなものでいいのか?」

「お前たちも、それでいいのか?」


リックの問いにかぶせるように、リンが言った


「受け取りなさい」


ナルとミナは静かにうなずいた


「わかった」


リックは少し考え、ミナへ目を向けた


「まずはミナ。君はサラの娘だったな」

「ならば、母の名字を継ぐといい」

「今日から、ミナ・ラピスと名乗れ」


ミナは小さくうなずいた


「それからナル。君は……」


ナルはリックの言葉を遮った


「わたしも、それがいい」


リックがわずかに眉を上げる


「それとは?」


「わたしも、ラピスがいい」


ラピスは、ナルが育った大切なギルドの名前だった


リンがすぐにナルを制した


「ナル、黙りなさい」


ナルは肩をすくめ、うつむいた


「ミナと同じ名字がいいのか?」

「かまわないが……ミナもそれでいいのか?」


ミナが答えるより先に、リンが言葉をかぶせた


「それでいいでしょう」


リックはわずかに目を細めたが、それ以上は何も聞かなかった


「ならば、ナル・ラピスと名乗れ」


そして会場へ向き直り、声を張り上げる


「ミナ・ラピス、ナル・ラピス」

「両名に名字を与え、宮廷魔術師の資格を授ける!」


見守っていた貴族たちから、拍手と歓声が上がった


鳴り響く拍手の中、ナルは隣のミナを見た


ミナもナルを見て、嬉しそうに笑っている


ミナ・ラピスと、ナル・ラピス


二人は同じ名字になった


リックは椅子の前へ戻り、会場を見渡した


「リン・セピア、ミナ・ラピス、ナル・ラピス」

「今後も我が国のために力を貸してくれ」


リンは深々と頭を下げる


「仰せのままに」


ナルとミナもリンに合わせ、慌てて頭を下げた


「さあ、我が自慢の料理人たちが腕を振るった料理だ」

「存分に堪能してくれ!」

「酒も飲みきれんほど用意した」

「皆への労いだ。十二分に楽しんでくれ」


リックの一言で、張りつめていた会場の空気が一気に和らいだ


貴族たちは再び談笑を始め、皿やグラスの触れ合う音が広がっていく


リンが二人に声をかけた


「二人とも、よくやりました」

「あとは食事を楽しむだけです」


ナルが嬉しそうに言った


「なんか、リックっていい王様みたいだね」

「小説の続きみたい」


ミナも緊張が解けたように笑った


「マリーが言い寄られてるところを想像して、ちょっと笑いそうになっちゃった」


「あ、それ、わたしも!」

「想像しちゃうよね」


「でも、リックって振られて可哀そうだね」

「結婚とかしてるのかな?」


「それっぽい人はいなかったよね」

「まさか、まだマリーを引きずってる?」


「えー、かわいそ~」


リンが小さくため息をついた


「あなた達は、想像以上に図太いようですね」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ