第十九話 お披露目
目移りする
紫の蛇
ナルは曇りのない目で言った
「ミナ、わたし決めたわ」
「なにを?」
「わたしここに住みたい!」
「はあ?」
二人はパーティー会場のテーブルに座り、料理を前にしていた
リンも同じ席にすわり、ワインを飲んでいる
食事はバイキング形式で好きなものを好きなだけ取って食べて良かった
ナルの前には沢山の皿が置かれている
「ここは天国よ…どうやったらここに住めるのかしら?」
ナルは真剣な顔をして考えていた
ミナは困惑した表情をする
「ナル〜?大丈夫かな〜?帰っておいで」
リンが会話に入ってくる
「城に住めるのは王族のみです。その誰かと結婚すれば住めますね」
「そうかぁ…結婚かぁ…知らない人と…うーん…」
「ちょっと、まさか本気で悩んでる?」
ミナが呆れた様子で言った
リンが続ける
「ただし、成人した王族で独身なのはリック王かその叔父だけですよ」
ミナが言った
「リックってやっぱり独身なんだ」
呼び捨てにするミナを見てリンがすぐに返した
「あなた、相手が国王って分かってます?」
ナルが考え込むように言った
「歳の差が気になるわね…叔父さんって何歳?」
「リック王が38才、叔父は56才ですよ」
「さすがに56は無理ね…そしたらリックかぁ…うーん、王様と結婚ってできるのかしら…」
ミナが慌てたように言った
「まって!ナル!簡単に餌付けされないでよ!変なこと考えないで!」
「だって、ミナ。これを見てよ、この薄いお肉。ここに住まないと二度と食べられないんだよ」
リンが言った
「ローストビーフですね、食べられるお店なら知ってますよ」
「え?そうなの?」
ナルは念を押すように確認する
「このパンは?中に干しブドウやナッツが入ってる」
「スコーンですね。それも食べられます」
更に念入りに確認するようにナルが言った
「これは?プルプルしてて甘くて滑らかな舌触りで」
「プディングです。それも食べられますよ」
ナルは他の料理の山を真剣に見ながら考え出す
「じゃ、この城に住まないと食べられないものは?」
「見た所ありませんね。中央区にはレストランが沢山あります、むしろ王族と結婚すれば、この城のものしか食べられなくなりますね」
「え!ひょっとして、ここに住む方が美味しいもの食べられなくなる?」
「城の料理人は一流ですが…まぁ、そうともいえます」
「なーんだ、良かった!」
「リックと結婚しないと、もう食べられないのかとおもったわ」
リンが少し呆れたように言う
「あなたも、相手が国王って分かってます?」
ミナはそんなナルを見て呆れたようにうなだれていた
三人で食事していると、貴族達がひっきりなしに挨拶に来た
そのたびに二人はリンに挨拶を促された
スカートを両手でもって広げ、小さく礼をする
「ミナです、ごきげんよう」
「ナルです、ごきげんよう」
業務のようにこれを繰り返す
来るのは決まって父親とその息子という組み合わせ
ミナとナルに息子を紹介しに来ているのだ
先ほどのリックとのやり取りを彼らは見ていた
男性との会話をリンが禁じていると分かっているのか
直接二人に声は掛けてはこなかった
代わりに、父親たちはリンに向かって必死に愛想を振りまいていた
どうやら、リンが決定権を持っていると認識しているようだ
ミナがナルに耳打ちする
「なんかわたしたち狙われてない?」
「ずっと見られてるよね、おちつかない~」
そう言ってナルはステーキを切って口に入れた
「よくそんなに食べられるわね」
「え?美味しいよ?」
「いや、そうじゃなくてさ」
ひとしきりの挨拶が終わったのか、リンは立ち上がり二人に言った
「そろそろ帰りますよ」
するとナルが不満の声を上げる
「え~、まだ食べてないデザートがあるのに~」
「では、それを食べたら帰ります」
「スープも十種類あったんだよ!まだ3種類しか飲んでない~」
「では、それも飲んだら帰ります」
「パンもすごい種類があるの!まだ全部食べてないの~」
ミナがたまらず言った
「なに言ってるの?早く帰ろうよ」
リンがため息をついてから言った
「…では、あと10分だけいましょうか。その間に好きなものを食べなさい」
「え!10分だけ!?はやく貰ってこなきゃ」
ナルは慌てて立ち上がり、食べ物を取りに行く
リンは指でこめかみを抑えて言った
「ミナ。ナルに付いていてあげてください。大変不安です」
「だよね!行ってくる」
ミナも慌ててナルを追いかけた
ナルは楽しそうに料理を物色している
その様子を貴族達が注目していた
彼らの口元は笑っている、好意的なものに見えた
その様子を見てリンがひとり呟く
「案外…ナルが正解なのかもしれませんね」
結局、それから四十分後に三人は会場を後にした
帰りの馬車の中でナルは満足気に言った
「おいしかったね~、また行きたいな」
「ナルすごい食べてたよね。その体のどこに入ったの?」
「コルセットがなければな~、もっと食べられたのに」
「まだ食べる気なの…」
「リックっていい人だったね!また誘ってくれないかな~」
「まさかリックに餌付けされてないでしょうね?」
「ミナってそればっかり言うよね」
「そんなわけないじゃん」
リンは二人を見ながら言った
「あなたたち、どんどん図太くなってる気がしますね」
馬車は三人を乗せて組合へ帰る
少しずつたくましくなっている二人を見て
リンは小さく微笑んだ




