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2-8 王宮へ

「ひいいい、苦しいぃ~」


ミナの悲鳴が上がった


メイド服姿の女性たちが、3人がかりでミナにコルセットを着せている


「じっとしていてくださいませ」

「すぐに終わりますから」


「なにこれ! こんなのいるの?」


「ドレスを着るのですから、まずはコルセットを身に着けていただかないと」


「なんかこれ、小さくない?」

「こんなの入るわけないじゃん」


「締めつければ入ります!」


「なんで締めるの!? 無理だって!」


その横では、ナルが平然とコルセットを身に着け、赤いドレスに袖を通していた


「早く着ちゃいなよ~」

「ミナは大げさなんだって」


「なんでナルは平気なの!?」


「ん~、そうだな~」


ナルは顎に人差し指を当て、少し考える


「太ってないから?」


「ナルは痩せすぎなだけでしょ!」

「ガリガリじゃん」


「そうだよね~」

「押さえつけるお肉がなくて残念だわ」


「むかつくんですけど!」


二人は王宮のパーティーに出席するため、組合で身支度を整えていた


しばらく格闘した末、ミナもようやく白いドレスを身にまとった

ナルは赤いドレス姿で、その様子を眺めている


「へ~、きれいじゃん、ミナ」

「やっぱり素材がいいよね~」


「なにそれ、嫌味?」

「ナルの方が似合ってるよ」

「それより、今日は気をつけてよね」


「なにをよ」


「おいしいものを食べさせられて、餌付けされないように」


「またそれ?」

「食べ物くらいで、どうこうなるわけないでしょ」


二人が組合の外へ出ると、馬車の前でリンが待っていた


身にまとっているのは、深い紫色のドレスだった


ナルは思わず声を漏らす


「きれい……」


「ほんとだね。大人の女性って感じ……」

「あのリンなのに……」


ミナも感心したように言った


二人が近づくと、リンが声をかけた


「お二人とも可愛らしい」

「よく似合っていますよ」


ミナが小さく苦笑した


「リンに言われちゃうと、ちょっと気まずいわね」


ナルが残念そうに言った


「リンって……もったいないよね……」


「変なことを言わないでください」

「さあ、行きましょう」


リンが馬車に乗り込み、二人もそれに続いた


馬車が動き出すと、リンがすぐに口を開いた


「二人とも、念のため確認します」

「この町の周辺では、強い魔力が常に探知されています」

「特にミナ。あなたの異常な魔力は、国の脅威と見なされています」

「国はそれを『白い脅威』と呼び、1年前にわたくし達3人で退けたことになっています」


ナルが言った


「うん。だから、わたし達ってちょっとした有名人なんだよね」


「特にミナ。あなたは絶対に魔力を使わないでください」

「マリーのように、あなたの正体に気づく者もいるでしょう」


ミナは少し面倒そうに返した


「はーい。気をつけるよ」



馬車はほどなくして城の前に着いた


つり橋を渡り、大きな城門をくぐる


ナルは両手をきゅっと握った


ここへ来るのは二度目だった


以前、ソラと一緒に配管の仕事で入ったことがある


この城の地下には、魔力を吸われ続けるドラゴンがいた


町の人たちの暮らしを支えるため……


厳しい冬を越えるための犠牲として……


ナルはその光景を振り払うように、小さく息を吐いた


馬車は城の正面で止まり、三人は外へ降りた


そこでは、一人の男が待っていた


その姿を見た瞬間、ナルはわずかに身をこわばらせる


紺色の上質な礼服をまとった、中年の男だった


男はよく通る声で三人を迎えた


「リン・セピア、ミナ、ナル」

「よく来てくれたね」


男が手を差し出すと、リンはその上に自分の手を重ねた


男はリンの手の甲に軽く口づける


「ミナ、ナル、ご挨拶を」


二人は練習してきた通り、両手でスカートの裾をつまみ、軽く腰を落とした


「ミナです。ごきげんよう」

「ナルです。ごきげんよう」


二人とも内心では背中がかゆくなったが、こう答えるように言い聞かされていた


「魔力省長官のレアル・ジストだ」

「今日は陛下に代わって、この催しを取り仕切っている」

「二人とも、来てくれて光栄だよ」

「ぜひ楽しんでいってくれ」


レアルは視線だけをナルへ向けた


ナルは露骨に嫌そうな顔をしている


「君も、変わりはないようだね」


レアルの顔を見た瞬間、地下の光景が再びよみがえった


魔力を抜かれ続ける、可哀そうなドラゴン達


それをやっている男……


ナルはレアルが嫌いだった


「どうぞ、こちらへ。ご案内しよう」


レアルは城内を手で示し、先に歩き出した


「行きますよ、二人とも」


「はい、恩師様」


二人の返事がぴたりと重なる


この呼び方も、何度も練習させられていた


リンから離れないこと


勝手に受け答えをしないこと


決して魔力を使わないこと


そして何より、三人の結束は揺るがないと、周囲に思わせること


リンからは、事前に何度もそう言い聞かされていた


ミナがナルに耳打ちした


「すごい豪華だね。絨毯、ふかふか」

「なんか転んじゃいそう」


「ナル、あのレアルって人、知り合い?」

「なんか変だったよ」


「前にちょっとね……嫌なやつなの」


レアルは華やかな装飾が施された扉の前で足を止め、その扉を開いた


その先には、豪華な調度品が並ぶ広い部屋があった


「準備が整うまで、ここでくつろいでいてくれ」

「お茶請けも用意してある。よければどうぞ」


それだけ言い残し、レアルは扉を閉めて立ち去った


ナルは椅子に勢いよく腰を下ろし、ぐっと背筋を伸ばした


「んー! やっぱり肩がこるね~」


「ナルは緊張感ないね」

「わたし、ちょっと緊張してるかも」


「せっかく、わたし達史上で一番かわいく着飾ってるんだから、気楽にいこうよ」

「何かあったら、逃げちゃえばいいじゃん」


ナルはテーブルに置かれた小箱を開けた


中には、桃色の飴が並んでいる


「なにこれ、石?」


「それは飴です」

「口に入れて、ゆっくり舐めるお菓子ですよ」

「レアルの領地で作られていたはずです」


「そうなの?」


ナルは飴を一つつまみ、口へ入れた


「わっ、桃の味がする~」

「おいしい!」


無邪気に飴を味わうナルを見ているうちに、ミナの肩からも力が抜けていった


「なんか、ナルを見てると気が抜けるわ」


「ミナも食べなよ。おいしいよ」


ナルは飴を一つ取り、ミナの口に入れた


ミナは口をもごもごと動かしてから言った


「おいしい」


そこでリンが口を開いた


「ナルの言う通りです。気楽にしてください」

「挨拶をして、食事をするだけですから」


「なんかナルって、たまに図太いところあるよね」


「なによ、その言い方」

「それに、見たこともないご馳走が出るんでしょ?」

「楽しみじゃない」


「ひょっとして、それがあるから妙に落ち着いてるの?」


「ミナが気にしすぎなのよ」

「意外と気が小さいんだから」


ナルは飴をもう一つ口に入れた


「これ、おいしいわね」

「王宮でしか食べられないのかしら」


ミナが念を押した


「餌付けだけはされないでね」


「いつもそれ言うよね」

「バカにしないでよ」


そのとき扉がノックされ、レアルが部屋へ戻ってきた





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