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2-7 散髪

マリーはくしを手に取りながら聞いた


「で? どんな髪型にしてほしいの?」


ナルが答えた


「わたし、今のままがいい」

「変えたくな~い」


「じゃあ、毛先を整えて、すけばいいか」

「で、あんたは?」


ミナが答えた


「わたしはいいよ」

「この髪質だし、人にやらせるのは嫌なんで」


「あんたたち、髪を切りに来たんじゃないの?」

「リン、こんなの私がやらなくてもいいでしょ」

「あんたがやりなよ」


リンはお茶を飲みながら答えた


「嫌ですよ。手がなくなったらどうするんですか?」


「私のスキルで守ってあげればいいんでしょ?」


「嫌ですよ」

「守るとか言って、途中で解除しそうじゃないですか」


「味方になったって言ったじゃない」

「信用しなさいよ」


「嫌ですよ」

「信じていいわけないじゃないですか」


「あー、もう。ますますこじらせてるわね、あなた」


マリーはナルの髪を霧吹きで湿らせ、くしでとかし始めた


「ナルちゃんだっけ? 今いくつ?」


「18」


「ふーん、もう大人じゃん。彼氏は?」


マリーは、はさみで丁寧に毛先を整えていく


ナルの声が少し低くなった


「いないけど」


「へえ、好きな人は?」


「いないけど」


今度はさらに低い声だった


マリーがにやりと笑う


「あれぇ、好きな人いるんだ~」

「魔女同士、嘘はなしにしようよ」


「余計なお世話よ」

「いらないこと聞かないでくれる?」


「なんで? いいじゃない」

「一緒に処刑されるかもしれない仲なんだからさ」


「なによそれ」

「わたし、そんな仲になった覚えないんだけど」


マリーは楽しそうに笑った


「冗談だって」

「ナルちゃん、かわいいね」


ナルはむっとしたまま黙り込んだ


マリーは、すきばさみを動かしながら聞いた


「ナルちゃんってさ、リンの隠し子なんでしょ?」

「父親は誰なの?」


「違うわよ!」

「なんなのよ、さっきから」


「またまた~。そんなわけないでしょ~」


マリーはリンを横目で見た


「どうやったのか、興味があるんだよね」


そしてナルに顔を寄せ、声を潜める


「ナルちゃんって、嘘がすご~く上手だね」


「あなたが本物のマリーだなんて、がっかりしたわ」

「いい加減にしないと、本当に怒るよ」


「あ~、怖い。ごめんね」


マリーはそう言って、はさみを置いた


「はい、終わったよ」


ナルは立ち上がり、マリーをにらみつけた


「お礼は言わないよ」


マリーは静かに笑った


「かわいい」


リンは二人のやり取りを黙って見ていた


マリーの家を出た三人は、帰りの馬車に乗り込んだ


ナルはまだ怒りが収まらない


「なによ、あれ!」

「あんなのが本当のマリーだなんて、幻滅なんですけど!」


ミナが念を押した


「リン、言っとくけど、わたしたち反乱なんかに協力しないわよ」


リンは落ち着いた声で答えた


「もちろんです」

「あなた達に、そんなことはさせませんよ」

「ただ、今後ルッツはわたくし達に協力的になるでしょう」

「彼は貴族社会に顔が広く、軍を動かせる立場にあります」

「しかも、夫婦そろってA級魔法使いです」


そこでリンは、珍しく感情を込めた声で言った


「そして、くだらない椅子を欲しがる、ありきたりな男」

「わたくし達の役に立ちます」


「ルッツを騙したってこと?」


「喜ばせたらご褒美をあげる、としか言っていません」

「まあ、どう言い繕っても同じことですが」


ミナは疲れたようにため息をついた


「リン、一つ聞いていい?」


「なんでしょう」


「魔女って歳を取ると、みんなあなたみたいになるの?」


「それは違いますね」

「多かれ少なかれ、大人とは狂っているものです」

「自分だけはまともだと信じている」

「その時点で、もう狂っているのですよ」


ミナは戸惑ったように苦笑した


「わたし、リンが狂ってるなんて……言ってないよ」


ナルが驚いた顔で、ミナに耳打ちする


「今、リンがとんでもないこと言わなかった?」


ミナも声を潜めて答えた


「あんな大人にだけはなりたくないね」


「反面教師ってこと?」


「そういうこと」


リンは小さくため息をついた


「先ほどもそうですが、全部聞こえていますよ」

「あなた達も、煩わしいことに巻き込まれずに暮らしたいでしょう?」

「覚えておきなさい」

「魔女は、自分の居場所を他人に決めさせてはいけません」

「守りたい暮らしは、自分の手で守るのです」


ナルは少し納得したようにうなずいた


「それはそうかも」

「なんか、ミナが横にいると気が抜けちゃうのよね」


「なにそれ、わたしのせい?」

「どっちかといえば、ナルの方がふざけてたよ」


「わたしはふざけてないよ」


「じゃあ、自然体でふざけてるの?」


「なによそれ。絶対バカにしてるでしょ」


リンはクスクスと笑い出した


「あなた達を見ていると、いろいろとどうでもよくなりますね」

「わたくしは、サラが遺したあなた達を気に入っています」

「まともな大人のわたくしが、守ってさしあげますよ」


ナルはまたミナに耳打ちした


「まともな大人って、自分で言ったよ?」

「これってボケってやつでしょ?」

「つっこまなくていいの?」


「いや、本気で言ってるかもしれないじゃん」

「触らない方がいいよ」


「そっか。そうだよね」


リンがため息をついた


「あなた達には、内緒話とは何かから教える必要がありますね」


ナルは少し不思議な気持ちだった


今日の出来事は、もっと深刻に受け止めるべきなのだと思う


それでも、なぜか思い詰める気にはならなかった


ミナがそばにいてくれるからだろうか


ひょっとしたら……リンも


わたし達なら大丈夫


そう思えた



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