第十七話 散髪
それは魔女ゆえか
大人ゆえか
マリーはくしを手に取りながら聞いた
「っで?どんな髪型にしてほしいの?」
ナルが答えた
「わたし今のままがいい、変えたくな~い」
「じゃあ毛先整えて、すけばいいか」
「っで、あんたは?」
ミナが答えた
「わたしはいいよ。この髪質だし、人にやらせるの嫌なんで」
「髪を切りにきたんじゃないの?あんたたち」
「リン!こんなの私がやらなくてもいいでしょ。あんたがやりなよ」
リンはお茶を飲みながら答えた
「嫌ですよ、手が無くなったらどうするんですか?」
「わたしのスキルで守ってあげればいいんでしょ?」
「嫌ですよ。守るとかいって解除しそうじゃないですか」
「味方になったって言ったじゃない、信用しなさいよ」
「嫌ですよ。信じていいわけないじゃないですか」
「あー、もう。さらにこじらせてるわね、あなた」
そう言ってマリーはナルの髪を霧吹きで濡らして、くしでとかし始めた
「ナルちゃんだっけ?いま幾つ?」
「十八」
「ふーん、もう大人じゃん。彼氏は?」
マリーははさみで丁寧に毛先を整える
ナルの声が一段下がる
「いないけど」
「へー、好きな人は?」
さらにナルの声が一段下がる
「いないけど」
その言葉にマリーが反応する
「あれぇ、好きな人いるんだ〜。魔女同士嘘はなしにしようよ」
「余計なお世話よ、いらないこと聞かないでくれる」
「なんで?いいじゃない。一緒に処刑されるかもしれない仲なんだからさ」
「なによそれ。わたしそんな仲になった覚えないんだけど」
マリーが笑いながら言った
「冗談だって。ナルちゃんかわいいね」
ナルはむっとして黙る
マリーはすきばさみで、ナルの髪をすきはじめた
「余計なことかもしれないけどさ、かなり本気でしょ?」
「よく我慢出来るね」
「私たちって…そういう生き物じゃない?」
「わたしは違うの」
「他に欲しいものでもあったの?」
ナルは不機嫌そうに言った
「本物のマリーがあなたで、がっかりしたわ」
「やさしさで言ってあげてるのよ」
「とっくに心は魔に侵されてるのに、認めようともしないなんて…辛いだけじゃない」
「ひょっとしてあなた、扉を開けてからせいぜい1、2年って感じ?」
「あなたほどの魔女が…分かってないはず…ないんだけどなぁ」
マリーはナルに近づき、囁くように言った
「ナルちゃんって、嘘がすご~く上手なの?」
「いい加減にしないと、わたし怒るよ」
「あ~怖い、ごめんね」
そういってマリーははさみを置いた
「はい、終わったよ」
ナルは立ち上がってマリーを睨みつける
「お礼は言わないよ」
マリーは静かに笑ってから言った
「かわいい」
マリーの家から出て、3人は馬車にのって帰る
ナルは分かりやすく不機嫌で、ぷんぷんと怒っていた
「なによあれ!あんなのが本当のマリーだなんて幻滅なんですけど!」
ミナは念を押すような言い方で言った
「リン、言っとくけど。私たち、反乱なんかに協力しないわよ」
リンは落ち着いた声で返す
「もちろんです。あなた達にそんなことはさせませんよ」
「ただ、今後ルッツはわたくし達に協力的になるでしょう」
「彼は貴族社会に顔が広く、軍を動かせる立場にあり、しかも夫婦そろってA級魔法使いです」
「そして、くだらない椅子を欲しがるありきたりな男」
「わたくし達の役に立ちます」
「ルッツを騙したってこと?」
「喜ばせたらご褒美をあげるとしか言っていません」
「まぁ、何と言おうとも同じ事ですが」
少し疲れたようにミナはため息をつく
「リン、一つ聞いて良い?」
「なんでしょう」
「魔女って歳をとると、みんなあなたみたいになるの?」
「それはちがいますね」
「多かれ少なかれ、大人とは狂ってるものです」
「まともだと思ってるなら、それは本人だけ」
「いいえ、まともだなんて信じている時点で狂っているのです」
「狂ってない大人なんか、いるわけないのよ」
ミナは苦笑いを浮かべて戸惑いながら返した
「わたし、リンが狂ってるなんて…言ってないよ」
ナルが驚いた顔をしてミナに耳打ちをする
「いま、リンがとんでもないこと言わなかった?」
ミナが呆れたようにいう
「あんな大人にだけはなりたくないね」
「反面教師ってこと?」
「そういうこと」
リンは小さくため息をつく
「先ほどもそうですが全部聞こえていますよ」
「あなた達も煩わしいことにならずに暮らしたいでしょう?」
「もっと真面目になさい」
ナルは少し納得したように言った
「それはそうかも」
「なんかミナが横にいると気が抜けちゃうのよね」
「なにそれ、わたしのせい?」
「どっちかといえばナルの方がふざけてたよ」
「わたしはふざけてないよ」
「じゃ自然体でふざけてるの?」
「なによそれ、絶対バカにしてるでしょ」
リンはクスクスと笑い出した
「あなた達を見ていると、色々とどうでも良くなりますね」
「わたくしはサラが残したあなた方を気に入っています」
「まともな大人のわたくしが、守ってさしあげますよ」
またナルはミナに耳打ちした
「まともな大人って自分で言ったよ?」
「これってボケってやつでしょ?つっこまなきゃじゃないの?」
「いや、本気で言ってるかもしれないじゃん、触らない方が良いよ」
「そっか、そうだよね」
リンがため息をつく
「あなたたちは内緒話とは何かから教える必要がありますね」
ナルは少し不思議な気持ちだった
今日あったことは、もっと深刻に受け止めなければいけない事だと分かっていた
でも、なんとなく思い詰める気にはならなかった
ミナが近くにいてくれるから?
ひょっとしたら…リンも
わたし達なら大丈夫
そう思えた




